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中学生編

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私は自分の部屋で勉強に励んでいた。

なんだかんだいって、お兄ちゃん達は偏差値が高い学校に合格しただけはあって勉強がかなり出来るんだよね。
柴崎蓮や蓮琉くんに主に勉強を教えてもらってるんだけど、理解の仕方が違うというか、ポイントとか教えてくれるのがほんとに上手。
だからといって、私が理解できるかといったら別問題なんだけど。


数学の参考書を前にうんうんうなっていると、お兄ちゃんが私の部屋のドアをノックした。
「花奈、一息つくか?カフェオレいれたぞ。」
「ありがとう。お兄ちゃん!」

甘すぎるのが苦手なお兄ちゃんが作ってくれるカフェオレは牛乳たっぷりに砂糖ひかえめ。一口飲むと、私はふう、と幸せなため息をついた。
このほのかな甘さが絶妙なんだよね。

そういえば、クリスマスもすぎて、進級した私は中学3年生に。そして、お兄ちゃんは高校2年生になった。

ゲームの話は主人公の高校一年生の時の話が主体になってるので、ストーリー上はすでにエンディングを迎えているはずだ。
とりあえずバッドエンドだけは回避してるみたいで、ホッとしてるんだけど。
お兄ちゃんは、誰かと恋人になったのだろうか。
やっぱり堂々と公にはしにくいよね。
相手だけでもこっそり教えてくれないかなあ!

幼馴染みの蓮琉くん?
毎日学校には一緒に登校してるし、休みがあえば一緒に過ごしたりしているみたいだけど。そこにはたいてい私が一緒にいるんだよね。
もし二人がつきあってたら私は邪魔かなあと思って別行動しようとしたら、蓮琉くんに捨てられた子犬のような目で見られて、結局いつも通り三人で行動することになったし。


後輩の二葉くん?
二葉くんは、いま、お兄ちゃんと一緒の学校に受験合格を目指して猛勉強中だ。2年生の頃は成績が低空飛行だったのに、いまでは中の上。もう一息で合格圏内に入りそうな勢いで成績をのばしているらしい。
当然遊ぶ暇もない。お兄ちゃんと連絡をとっている気配もないみたい。

同級生の三田くん?
そういえば、三田くんの新たな一面が発覚した。彼が実はかなり頭がいいらしい。少し教科書や参考書を読んだだけでたいていの内容がわかってしまうのだ。すぐに出来てしまうから学校の授業は逆に面白くないらしい。
相変わらずお兄ちゃん大好きみたいで、クリスマス以降家に遊びに来ることが増えたような気がする。お兄ちゃんにまとわりつく姿はまさにポン太。
私に勉強を教えようとしてくれるんだけど、頭がよすぎるのか、途中経過をすっ飛ばして問題を解いてしまうので、正直よくわからない。その度に柴崎蓮に首根っこを掴まれて連れ去られていく。

先輩の四楓院先輩?
四楓院先輩も無事大学に合格できたみたいで、キャンパスライフを謳歌しているみたい。時間がある時に柴崎蓮に連れられて我が家にやってきて家庭教師をしてくれる。その時も背後に柴崎蓮が待機していて、私が先輩に対して粗相をしないか目を光らせているんだけど、問題が解けない度に般若になるのはやめて欲しい。先輩もそんな柴崎蓮に苦笑するだけで止めてくれないし。四楓院先輩は家に来る度にお兄ちゃんともよく話すみたい。大学受験の相談にのってもらったり、雑談したり。私から見ても仲良しだ。でも普通に先輩と後輩という関係みたいで、甘い雰囲気はない……気がする。

桜木先生は……どうなんだろう。
ストーカーを調べてくれた時以来会ってないのでよくわからない。
お兄ちゃんからも先生の話はあまり出てこないし。

ストーカーといえば、こんなことがあった。
まだ肌寒かった三月くらいのことだ。
私のそばにいつも誰かがいることにしびれをきらしたストーカーが白昼堂々、私の前に姿を現したのだ。
その時私と一緒にいたのは三田くんだった。
三田くんは私の病院からの帰り道を送ってくれていた。
以前遅刻して、桜木先生に怒られたからか私のカウンセリングが終わる前に病院の待合室で待ってくれていた。そして、他愛ない話をしながら駅までの道のりを二人で歩いていた私達の前にその男の人は現れた。
彼は道端で私を待ち伏せしていたらしい。私が近くに来た時に彼はゆらりと姿を現してどんよりした目で私をじっと見ていたが、やがて押し殺すような声をだした。
「綺麗な斎藤くんのそばにおまえみたいな平凡な人がいるなんて許せない。彼のそばにはもっと美しく聡明な人であるべきだ……!おまえは邪魔ななんだよっ…!」
思いつめたような目で私を見ると、その人は私をつかもうとしたのか苛立った足取りで近づいてきた。今まで感じたことのない直接的な悪意に私はただその人の動き呆然と見ることしかできなかった。その人の手がもう少しで私に触れそうになった時、三田くんが動いた。

「……何してんの?」
その手は三田くんの低い声とともに遮られた。
逆にその手をひねり上げて地面につき倒すと、三田くんはその人を蹴りつけた。そして、顔を踏みつけながら場違いなほどにっこりと笑ったのだ。

「何してんのって聞いてんの。お返事は?」
「ぐわああっ!」
「あれえ?聞こえないなあ。もっと大きな声で言ってくれないと。」
呻き声をあげるその男をさらに容赦なく踏みつけると、三田くんはしゃがみこんで、その人の胸ぐらをつかんで引き上げた。

「あのさあ。あんたがタマちゃんの先輩でストーカー?困るんだよね。こんなことされたら。この子に何しようとした?……黙ってないで言えって言ってんの。言わないの?じゃあ、言うまで殴っちゃおうかなあ。」
そして、胸ぐらをつかんだまま、笑顔で何度も殴りつけた。

私は目の前で繰り広げられる状況についていけず、身動きすることなくその場で固まっていたが、その人が鼻血を出して涙を流し始めた時にはっとなって、三田くんにすがりついた。

「み、三田くん!話し合おう!」
「ん~?やだ。妹ちゃん今危なかったんだよ?わかってるの?だってこいつ妹ちゃんが1人だったら何してたかわかんないよ?仲間がいて、妹ちゃんまわされてたかもしれないし。こういうヤツは暴力で黙らせないと後が面倒なんだよ?あ。想像したらまたムカついてきた。えい。」
三田くんはその人をさらに殴りつけた。
そして、にっこり笑った。
「あのさあ、俺にしたら、あんたがタマちゃんのことを見てる方がムカつくんだよね。タマちゃんはほんとに綺麗だからさあ。もうタマちゃんのこと見るのやめてくれる?」
そして、その人のカバンの中身を探ると、目当てのものを見つけたのかニタリと笑った。
「あった~。タマちゃんの写真。隠し撮りっぽいね。どこから入手したのかなあ。あと……あったあった。生徒手帳。ねえ。タマちゃんの写真まだ持ってるんでしょ?全部処分するから今からお前の家にお邪魔するね。」
そう言いながら自分の携帯を取り出すと、三田くんはどこかに電話をかけ始めた。

その人は鼻血と涙にまみれた顔で喘ぐように言った。
「……くそっ。話が違うじゃないか。一条くんも、環くんも妹と距離をおきたいのに、妹がなかなか離れようとしないから困ってるって聞いてたのに。一条くんと環くんが二人そろってる仲睦まじいのを見るのが眼福だったんだ。あんたのせいで、二人は学校でも疎遠になってるんだろう?学校にも一緒に登校してないらしいじゃないか。」

私は彼の言葉にキョトンと首を傾げた。
お兄ちゃんと蓮琉くんは昨日も一緒に登校してたけどなあ。
やっぱり蓮琉くんがお兄ちゃんを起こしにきて、仲良く家を出ていったけどなあ。
私はふと、文化祭の後くらいのことを思い出した。
そういえば私が二人から自立しようとして、蓮琉くんとギクシャクしてしまったことがあった。確かにあの時は2人とも別々に登校していた気がする。

「あの二人が一緒にいないなんて、神への冒涜だ!」

なんの神だよ。

私は無言でその人を見た。
もしかしてこの人はいわゆる腐男子という人種なのだろうか。

私は彼のカバンからでてきたお兄ちゃんの写真を見た。
そして確信した。

確かにお兄ちゃんだけの写真もある。体育の時の着替えの写真とか、体操服のハーフパンツ姿とか。そして残りは蓮琉くんとのツーショットだったり、三田くんがお兄ちゃんに甘えてる写真だったり、四楓院先輩がお兄ちゃんの頭をなでている写真だったりした。
私は思わず呟いた。

「なんですか、これ。ベストショットですか。なんのスチルですか。……ふおおっ!」

そして最後の一枚を見た時、手が震えた。
転びそうになった剣道着姿のお兄ちゃんをサッカーのユニフォーム姿の蓮琉くんが後ろから支えている。

なんですか。どこの学園物のBL漫画の表紙ですか。

私の呟きを聞いたその人は、カッと目を見開いた。
「君……君にはわかるのかい?この写真の価値がっ……っ!」
そして、彼は懐に隠し持っていた一枚の写真を私にそっと見せてくれた。
そこには日誌のようなものを書きながら穏やかに微笑むお兄ちゃんと、そのお兄ちゃんを優しい表情で見つめる三田くんがうつっていた。窓からの光が二人を優しく照らして、切ないような愛しさが溢れてとまらないような……そんな印象的な瞳でお兄ちゃんを見つめている。

「うわあ。いい写真ですねえ。」
「だろう?僕の今一番のお気に入りなんだ。毎日眺めてるよ。」
「あ~。なんだかわかりますよ。この三田くんの瞳がいい味出してますよねえ。」
二人でうんうん頷いていると、電話が終わったらしい三田くんが後ろに立っていた。

「ねえ。なに和んでるの?妹ちゃん、さっきこいつになにされようとしたか覚えてるの?」
「あ。三田くん。ほら、いい写真ですよ。」
私は三田くんにお兄ちゃんと優しい表情の三田くんがうっているさっきの写真を見せた。
「どうせ隠し撮りでしょ?……え?」
三田くんは呆れたようにその写真を見ると不思議そうな顔になった。

「妹ちゃん。これ俺じゃないよ?別のヤツじゃない?」
「三田くんですよ?ほら、こっちの写真もありますよ。お兄ちゃんにじゃれついて、とっても楽しそうですね。見てる私がほっこりします。」
「えっ。……いや、その……俺こんな顔してる?」
「そうですね。お兄ちゃんといる時はたいていこんな顔してますよ?」
「待って。……また妹ちゃんは俺の想定外のこと言ってる。絶対嘘だって。俺こんな顔してないもん。」

私はむうっと口を尖らせた。そして三田くんに証明するために、写真を再度、一枚一枚確認し始めた。
「ちょっとすみませんね。お借りしますよ?ええと……あったあった。三田くんほら!ちゃんと見てください。三田くんと蓮琉くんとお兄ちゃんのランチタイム。三田くんてばお兄ちゃんの弁当のオカズねらってますね。ふふっ。蓮琉くんがむっとしてる。おお、これは欠伸してるお兄ちゃんを三田くんが微笑ましく見てるショットですね。……むがっ。」

私の口を三田くんが手でふさいできた。
三田くんがお兄ちゃんといる時に穏やかな表情をしてるのを証明したいのにどうして邪魔をするんだろう。
私は三田くんをムッとした表情で睨みつけた。
「ふぁに、ふるんふぅすか?(なにするんですか?」
「あ~。うん。ごめん、妹ちゃん。そのへんで許してください。」
気がつくと三田くんは真っ赤な顔をして私を見ていた。

どうやら恥ずかしかったらしい。
それは悪いことをしてしまった。

私は口をつぐんで、写真を握りしめた。
この写真没収するのかな。捨てるんだったら欲しいな。
転生前にゲームをしていた頃のBL好き魂に火がつくよね。だって、これすごいお宝ショットだよ?こっそりポケットに入れようかな。

三田くんは、軽く咳払いすると、目の前で痛みに喘いでいる人に向き直った。
「あのさあ、さっき言ってたけど、妹ちゃんと一条とかタマちゃんが仲悪くなってるって誰に聞いたの?」
「……っ。名前は知らない。その写真を渡してくれて、教えてくれたんだ。」
「男?女?」
「……女だ。髪の長い……環くんの美しさには及ばないがなかなかの美女だった。」

私と三田くんは、顔を見合わせた。
恐らく私達は同じ人を思い浮かべていることだろう。

「さやちゃん……まだあきらめてなかったんだ。」
三田くんは呆れたように呟いた。

その後三田くんが連絡したらしい蓮琉くんが私を迎えにやって来た。蓮琉くんは三田くんと少し話すと、三田くんと入れ違いに私を連れて帰り始めた。
「蓮琉くん、部活は?」
「今日はミーティングだけだったからね。丁度早く帰れたんだ。」
「三田くんは?」
「ああ、三田はあいつの家の写真の処理に向かってくれたよ。隠し撮り写真も困るけど、もう花奈になにもしないように念をおしておかないとね?しっかりと、ね。」
蓮琉くんの笑顔は魔王様のように真っ黒だった。


******


私はその時のことを、お兄ちゃんがつくってくれたカフェオレのカップをもったまま、ぼんやりと思い出していた。内緒だけど、その時私が持ってた写真は、しっかり私の手元でファイリングされている。
「花奈?あれ。またぼんやりしてる。お~い?」
「……はっ!なあに?お兄ちゃん。」
「お。戻ってきたな。勉強進んでるか?」
「……うっ。数学を今頑張ってマス。」
お兄ちゃんは私を元気づけるように笑うと、私の頭をなでた。
「大丈夫。四月からは一緒に学校に通おうな?」

私はお兄ちゃんをじっと見た。
少し背がのびたかな。高校に入ってから筋トレとかで鍛えられたのか、身体にしっかり筋肉がついてきた気がする。
天使のようなにあどけなかった容姿も、可愛らしいものでなく闘う大天使というか、剣をもっているのが似合うような凛とした勇ましいものになっている。


この世界は私が転生前にプレイしてたBLゲームの世界だ。
人物とかの設定は同じ。
だけど、お兄ちゃんは高校2年生になり、ゲームのエンディングの時期をすぎてしまった。エンディングまでの人生しか考えていなかった私は、今、かなり戸惑っている。これからどう生きていけばいいのかわからなくて途方に暮れている、といった感じだ。ふとした時に考えこんでしまって、ぼんやりすることが多くなった。

お兄ちゃんが私に遠慮がちに話しかけてきた。
いつもはっきりしているお兄ちゃんにしては珍しい。

「花奈。」
「なあに?」
「その……なにか悩んでるのか?最近元気ないからさ。なにか悩みがあるなら話してみないか?もしかして、受験勉強がつらいのか?少しスパルタすぎたかな。俺達は花奈に一緒の高校に来て欲しいけど、受験のことが花奈の負担になっているんだったら、その……。」
「え。いやそれはないよ?勉強は確かにツラいけど、頑張るって決めたし。みんなに教えてもらって、すごくありがたいもの。ほんとだよ?悩んでるていうか……その……。」
俯いてしまう私をお兄ちゃんはじっと見ている。
私が落ち着くまで待ってくれるみたいだ。

私はお兄ちゃんに思い切って聞いてみることにした。
「ねえ、お兄ちゃん。」
「ん?」
「もしお兄ちゃんがゲームの主人公だったらどうする?」
「とりあえずレベルあげて、ミッションをクリアする。」
即答したお兄ちゃんに、私は乾いた笑いをだした。
「あはは。ソウデスヨネ。ええとね、ん~……。お兄ちゃんが、読んだことがあるお話の主人公だったらどうする?お話の中を生きているんだけど、もし、そのお話が終わってしまったらどうなると思う?」
「う~ん。そうだな……。」
お兄ちゃんは少し考えこんでいたが、考えがまとまったのか話し始めた。
「俺だったら……俺の人生は俺が決める……かな?その話の通りになるとは限らないだろ?選択肢は山ほどあるんだし。」
「…………っ。」
「安心しろ?俺は花奈の兄貴だからな。その話が終わってもずっと兄妹のままだよ。だって今生きてるのは俺たちだ。それにしても……花奈。また、変な本でも読んだのか?……っと。花奈?泣いてるのか?」

私はお兄ちゃんに抱きついた。

そうか。
私は主人公の妹の斎藤花奈だけど、私は私の人生を生きていいんだ。
途方にくれていたのが嘘みたいにまわりがクリアに見えてくる。
私はお兄ちゃんにさらにギュッとしがみついた。
お兄ちゃんは、私を抱きとめて、さらに強く抱きしめてくれた。


そのまま、泣いていると、部屋のドアの辺りから何か物音がして、部屋のドアがいきなり開いたかと思うと、蓮琉くんと三田くんと柴崎蓮が中に転がり込んできた。
「いったあ!何するのさ三田!押さないでって言ったよね?」
「うう。だって、レンレンだって中の声が聞こえないって言ってたよね?」
「ていうかどけ!重い!」
「あ、一条ごめん。」
蓮琉くんを下敷きして、その上に柴崎蓮。そしてその上に三田くんが乗っていた。

お兄ちゃんは、ため息をついた。
「お前ら話が終わるまで待てって言っただろ?」

蓮琉くんが素早く立ち上がると、私のところにきて、私の頬の涙を拭った。
「すまん。環。花奈が心配で。……花奈、最近元気なかったから心配してたんだ。……ああ、泣いたんだな。俺がいるからもう泣かなくていいよ?」
そして、私の頬にキスをして、私とお兄ちゃんごと抱きしめてきた。
お兄ちゃんと蓮琉くんの温もりが私を安心した気持ちにさせてくれる。
私はそっと目を閉じた。

「三田。出遅れてるよ?行かないと。」
「う~ん。まあ、妹ちゃんが泣き止んだんならいい……かな。妹ちゃんが元気になったらタマちゃんも元気になるしね。俺はそれでいいや。レンレンは?」
「僕は傍観者だから。渦中に入るのは真っ平御免だね。ていうかレンレンて呼ぶのやめてくれる?」
「うん。わかったよ。レンレン。」
「全然やめてないし。」

「お前ら花奈が心配なのはわかるけど、部屋に入るのが早いんだよ!まだ話終わってないし。……花奈、大丈夫か?」

私は顔をあげてお兄ちゃんに笑いかけた。
そうだよね。
私は今を生きてるんだもの。

お兄ちゃんはすでに蓮琉くんとつきあってるかもしれない。いや、もしかしたら、三田くんかも。でも二葉くんのセンもありかな。大丈夫。主人公の妹はしっかり応援するからね!

「うん。もう大丈夫。お兄ちゃん、私はお兄ちゃんの味方だからね。お兄ちゃんが誰を好きになっても絶対応援するから。」
「へ?なんだいきなり。」
「だって、お兄ちゃんはずっと私の大好きなお兄ちゃんだもんね。」
「………っ。そうか。」
お兄ちゃんは顔を赤らめると、軽く咳払いをして私達を抱きしめたままの蓮琉くんを見た。

「おい、蓮琉。もう大丈夫らしいぞ。手はなせ。」
「ん。もう少し。」
「ばあか。暑苦しいって。ほら。」
蓮琉くんは渋々といった様子で私達から離れると、私のベッドに腰掛けた。
そして、枕元においてあるアルバムに目をとめた。
「花奈。新しいアルバム作ったの?見ていい?」
「うん。……ん?待って!それは……っ。」
「え?これって……。」
蓮琉くんは笑顔で固まった。

そのアルバムは、ストーカーがもっていたお兄ちゃん達の写真をこっそり着服した私によってファイリングされた珠玉の1冊だった。いつもは隠してるんだけど、今日は油断して収めるのを忘れていたのだ。
柴崎蓮がヒョイとのぞきこんだ。
「わあ。すごいね。この倒れそうな斎藤を支える一条の写真なんてまるで恋人同士みたいじゃない。こういうの、なんていうんだっけ。ああ。BL?」
「BLってなに?レンレン。」
「確か、ボーイズラブの略だよ。男の子同士のカップルのこと。」
「へえ………。」
柴崎蓮はかたまったままの蓮琉くんからアルバムを取ると、ゆっくりとページをめくり始めた。そしてあるページで声をあげた。
「あ、三田ものってる。」
「え。マジで?どれ?……あれ?この写真……。」

どうやら三田くんも写真の内容を覚えていたらしい。
私は思わず舌打ちしそうになったがぐっとこらえた。

「花奈?」
お兄ちゃんに名前を呼ばれた。振り向くのが怖い。
何故か蓮琉くんもお兄ちゃんの横で黒い笑顔で微笑んでいる。


「ええと……勉強しようかな?今日は数学をガンバろうっと。」

椅子に座った私はそのまま引っ張られて椅子をくるりと回転させられた。
そして、そのまま抱き上げられる。
あれ?これってなんだかデジャヴ。
ベッドに寝かせられた私はお兄ちゃんを見上げた。
お兄ちゃんの目だけが笑っていない。
蓮琉くんはベッドに座って、そんな私達をニコニコと眺めている。
笑顔がかなり怖いんですけど?

「花奈?ちょっとお兄ちゃんとお話しようか。」
「ええと……なんのお話でしょう?」
「さっきなんか変なこと言ってたよな。俺が誰を好きになってもって。」
「ええ?ソウデシタカね?」
「しらばっくれるな。もしかして、俺がこいつらの誰かと付き合ってるなんてそんなこと思ってないよな。」
「ええっと……。」
目を泳がせている私に、柴崎蓮が笑いをこらえた声で話しかけてきた、
「さすがブサ犬。斜め上をいくね。ちなみに誰とつきあってるって思ってたわけ?」
「ええと、相手は誰だかよく分からなくて……。」

お兄ちゃんは起き上がると、私を抱き起こしじっと私の目を見つめてきた。
「俺は断じてこいつらと恋愛関係になんてないからな?」
「……う、うん。」

蓮琉くんは私の頬をなでると、私が見たことのない男のひとの顔で私を見つめていた。
「とりあえず、受験勉強頑張ろうか。高校生になったら、本気でいくから……覚悟しておいて?」

三田くんはまだ放心状態だ。
「妹ちゃんは、ほんとに俺の想定外だよね。」

柴崎蓮は笑いを含んだ表情で私を見ていたが、不意に真面目な表情になった。
「さすがブサ犬。期待を裏切らない展開だね。あはははっ。おかしい……っ?ん?待ってよ。まさか、四楓院先輩までそんな目で見てないよね?」



この世界はBLゲームの世界。
私はどうやら主人公の妹に転生したらしい。
バッドエンドになることもなく、無事にここまで来れたけど。
ゲーム内のエンディングの時期はとうに過ぎて、これからの展開はどうなるのか私にもよく分からない。
どうなる私の転生生活?
とりあえず、受験勉強を頑張ります!


****


柴崎蓮です。

どうやら高校生編に続くみたいなんだよね。
ブサ犬って、やることなすこと面白いし、トラブルに巻き込まれやすいし。ほんとに興味深いよね。目が離せないよ。

彼女はこれから恋愛に目覚めることが出来ると思う?
まさに神のみぞ知る、だね。

















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