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中学生編
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「たいへん、申し訳ありませんでしたっ!」
「ああ、大丈夫ですよ。はははは。」
勢いよく頭をさげる私に、加川先輩は少し遠い目をした表情をしたが、すぐに微笑んでくれた。
とりあえず許してもらえたことに安心していると、蓮琉くんが私のそばにやってきて頭をコツンとたたいた。
「花奈。あのな?今回は加川先輩だったからよかったものの、これがもしヤバイやつが相手だったらどうするんだ?今は俺もいたし、三田だっていたんだから、ちゃんと頼れよ?……だいたいな…………。」
こうなった時の蓮琉くんのお説教は長い。
朝礼の校長先生の話より長い。
「聞いてるのか?花奈。」
「……あい。きいてます……。」
まだまだ続きそうな蓮琉くんのお説教に、お兄ちゃんに救援を求めようと周りに視線を巡らせた私は、何故か三田くんと目があった。
三田くんは私と目があうと、こてんと首を傾げた。
「妹ちゃん剣道やってるの?」
「いえ。習ったことないです。」
根っからの文系です。
三田くんはにっこり笑った。
何故だろう。笑顔が怖い。
「あのさあ、俺初めて見たよ。男押しのけて竹刀もって走っていく女の子。てっきり経験者かと思ったけど違うんだ。相手も見ずに飛び出して、立ち向かおうとしたわけ?すんげえゴリラみたいなのがいたらどうすんの?妹ちゃん太刀打ちできるの?君を人質にとられたら、タマちゃんだって危なくなるでしょ?……こんなに細い手してるのに。」
三田くんは私の手をそっとつかんだ。
彼の手は大きくて、私の腕をつかんでもまだ余るくらいだ。
私はむうっとして、彼の手から逃れようと腕を動かすが、びくともしない。
「………ううっ。」
「ほら。逃げられないよね。」
「三田くんが意地悪する……。」
悔しくなってきた私は三田くんをじとっと睨みあげた。
三田くんは何故かうっと仰け反って、私の手を離した。
私は手をまじまじと見た。
アザになっていない。
全然外れなかったから、もっとひどく掴んでいたのかと思ったのに。
三田くんは何故か私の前に座り込んでいた。
何故かしゃがみこんで丸まっている。先程までの意地悪な彼はどこに行ったのか。
私もしゃがみこんで三田くんをのぞき込んだ。
「三田くん、どうしました?」
「……妹ちゃんが意地悪する。」
私はムッとして三田くんの耳を軽くひっぱった。
「失礼な。意地悪したの三田くんじゃないですか。」
「だって、上目遣いとかないでしょ。やばかった……たつかと
思った。ねえ、このまましちゃう?俺気持ちよくさせる自信がある……ブフォ!」
「花奈?とりあえず家の中に入ろうか。竹刀は俺が預かるから。」
三田くんがいきなり吹っ飛んでいったと思ったらお兄ちゃんが蹴飛ばしたみたいだった。私の持っていた竹刀を受け取りさり気なく威嚇している。三田くんがお兄ちゃんに涙目で叫んだ。
「タマちゃん、蹴飛ばすのひどいっ。」
「はあ?花奈に卑猥な言葉つかってるお前はどうなの。」
「………それはぁっ。だって、妹ちゃんが……っ。」
「三田くん。ちょっとあっちでお話しようか。」
蓮琉くんがさり気なく三田くんを裏庭に連行していった。
三田くんの叫び声が裏庭にこだました。
私はお兄ちゃんに桜木先生からのメールを見せた。
お兄ちゃんは、少し考え込んでいたかと思うと加川先輩に話しかけた。
「もしかして、先程先輩が言っておられたのって、先輩の同級生だった芹沢さんですか?」
「………!どうしてわかったんだい?そうだよ。芹沢だ。彼は最近どうも言動があやしくてね。妹さんを貶すような言動をしたり、隠し撮りにしか思えない君の写真をもっていたり……君への執着具合がひどいんだ。あまりにも目に余るから他の会員達と注意したんだがまったく話をきかなくてね。」
「そうですか。……実は妹も先日尾行されたりしたみたいで。これ以上なにかされてからでは遅いので警察に通報するしかないかと思ってたんですよ。でも確たる証拠がなくて……。」
「ふむ。役にたてるかどうかはわからないが、怪しい言動のことなら証拠として立証できるかもしれないね。僕達会員の中でも様子を見てみるよ。」
「先輩、ありがとうございます!」
「………っ。環くん。君の役にたてるなら、僕達役員は火の中水の中!待っていてくれたまえ………っ!」
お兄ちゃんと目があった途端真っ赤になった加川先輩は、そのまま走り去って行った。
「お兄ちゃん……。」
「大丈夫だ、花奈。お前も一人で行動するなよ?」
お兄ちゃんは私を安心させるように微笑みかけた。私はお兄ちゃんに抱きついた。
「お兄ちゃんも気をつけてね?危ないことがありそうだったら走って逃げるんだよ?」
「ああ、わかった。」
お兄ちゃんは私を抱きしめかえして、頭にそっとキスしてくれた。お兄ちゃんの腕の中はあたたかくてほっとする。
それにしても、ゲームのストーリーが私が知っているものから違ってきているみたいだ。
お兄ちゃんの先輩がストーカーみたいになるなんて話はゲーム内にはなかったはず。
そういえばお兄ちゃんはクリスマスイブを誰と過ごすんだろう。
クリスマスを一緒に過ごす相手がそのままエンディングの相手になるはずなんだけどな。
私はお兄ちゃんの服の裾を引っ張った。
「お兄ちゃん。」
「ん?」
「今年のクリスマスイブは?その……ええと、誰かと過ごすの?」
(お兄ちゃんのエンディングの相手は誰?それとも誰ともくっつかない友情ルート?それともまさかの桜木先生?)
「誰かと過ごすって……。何言ってんだ?花奈。」
お兄ちゃんはキョトンとした目で私を見た。
「毎年晩御飯は家族で一緒に食べて、その後に蓮琉が俺達の家に泊まりにきてただろ?」
「うん。まあ……例年でいくとそうだね。」
クリスマスイブ。
斎藤家は毎年家族4人でいつもより少し豪華な食事をして、ケーキを食べる。
その後、蓮琉くんが合流して、夜遅くまでゲームをしたりお話ししたりして過ごし、蓮琉くんはお兄ちゃんの部屋にお泊まりするのが毎年の恒例行事だ。
「なあ、今年も来るんだろ?蓮琉。」
「うん。斎藤家さえ大丈夫なら今年もお邪魔したいな。」
「絶対大丈夫だろ。今年こそゲーム負けねえからな?」
「はははっ。俺だって負けねえよ。」
うん。
安定の仲良し幼馴染みだね。
私はお兄ちゃんと蓮琉くんがにこにこ笑いあってるのを見て、ほっこりとあたたかい気持ちになった。
そして、三田くんの方に何気なく顔を向けた。
(う……っ。)
なんだろう。
私が祖父の家から帰るとき、見送るポン太が見せた寂しそうな顔。
人恋しいんだけど、人の輪に入るのを最初からあきらめているような、そんな顔。
私は思わず三田くんに声をかけていた。
「三田くんもきますか?」
「………えっ?」
「私達がご飯食べてお風呂に入ってからになるので遅くからになってしまうし、ゲームのコントローラは三つしかないから順番になりますけど。」
「………えっ。えええっ。」
三田くんは何故か驚いたように私を見て、それからお兄ちゃんを見た。
お兄ちゃんは、そんな三田くんに天使の笑顔でにっこりと笑いかけた。
「そうだな、三田も来いよ。なあ、蓮琉いいよな?」
「ああ、いいんじゃねえの?ならついでに柴崎にも声かけるか?環んとこでみんな寝るの狭かったら俺の家でもいいわけだし。」
「そうだな。俺も母さんにきいてみる。」
三田くんはどんどん決まっていくクリスマスイブの予定に呆然としていたけど、くしゃりと顔を歪めた。
「……俺も行っていいの?」
「もしかして、既に予定が入ってたりするのか?」
「ううん。予定はない。」
「だったら、来いよ。……あ、でも花奈に変なことしたら即刻叩き出すからな?」
「タマちゃん!ありがとう!」
「うわっ!」
三田くんはぱあっと明るい笑顔になって、お兄ちゃんに抱きついた。急に抱きつかれたお兄ちゃんがバランスを崩して倒れそうになるのを蓮琉くんが慌てて支える。
その光景はまるで一枚のスチルのようで。
画面ごしに彼らを見ているような錯覚におちいった私は、眩しいものを見るかのように目を細めた。
そして脳内は高速回転していた。
(ええっと。三人で仲良しエンドなんてあったかなあ。もうここまできたら、もとのゲームのエンディングなんて関係ないか!三人で紡ぐ新たなエンディング……イイかも。それもアリだよね。お兄ちゃんを二人で取り合う三角関係エンド……友情ベースで、ちょっとトキメキまぜた感じで。甘える三田くんにヤキモチやいちゃう蓮琉くんなんてオイシイかも!)
「三田!危ないだろうが!」
「ごめ~ん。えへへへ~。タマちゃん大好き~。」
「よしよし。……ほんとポン太だよな。三田って。」
お兄ちゃんに覆い被さるように抱きつくポン太……三田くんを乱暴に撫でながら、お兄ちゃんは支えてもらった蓮琉くんから起き上がった。
「よっと。あれ?花奈?どうした。ぼうっとして。」
「ほんとだ。……花奈~?もどってこ~い。どうしよう環。今日はいつにもましてひどいんだけど。」
「なになに?妹ちゃんてぼんやりしちゃうの?」
「あ~。たまにだけどな。」
私の頭の中はゲームの展開のことでいっぱいになっていた。
私の悪い癖で、想像しだしたら止まらない。
(あとはあ……三田くんと仲良しなお兄ちゃんに蓮琉くんが幼馴染の独占欲だしてくるとか?うわあ。トキメキが止まらない……っ?)
その時、私の唇にムニッとした感触があった。
それはいつのまにかヌメヌメとした物体にかわり、口の中に入り込み私の舌をつついたかと思うと、ねっとりとからみついてきた。
その感触は以前蓮琉くんとか桜木先生にされたキスに酷似していて。
私はカッと目を見開いた。
そしてその物体は、音をたてて唇をついばんで離れていった。
そこには私の唇をちょんちょんとつつく三田くんがいた。
「あ、戻ってきた。妹ちゃんダメだよ~。ぼうっとしたら。悪いヤツにつけこまれちゃうよ?」
私は無言で三田くんを見た。
三田くんの唇が、今キスしたばかりのようにツヤツヤしている。彼はペロリと唇をなめると、にぱっと笑った。
「えへへ。ごちそうさま。」
私は無言でお兄ちゃんの竹刀を奪い取ると、三田くんに向かって振り下ろした。
視界の隅でお兄ちゃんと蓮琉くんの唖然とした顔がうつっている。
「いてええええええ!ちょっと待って?妹ちゃん!うわっ。ごめんて。うわあああっ。」
そのまま無表情で三田くんを追いかけ回す私はかなり怖かったらしい。
だって、いきなりディープキスはないと思うんだよね。
思うよね?
「ああ、大丈夫ですよ。はははは。」
勢いよく頭をさげる私に、加川先輩は少し遠い目をした表情をしたが、すぐに微笑んでくれた。
とりあえず許してもらえたことに安心していると、蓮琉くんが私のそばにやってきて頭をコツンとたたいた。
「花奈。あのな?今回は加川先輩だったからよかったものの、これがもしヤバイやつが相手だったらどうするんだ?今は俺もいたし、三田だっていたんだから、ちゃんと頼れよ?……だいたいな…………。」
こうなった時の蓮琉くんのお説教は長い。
朝礼の校長先生の話より長い。
「聞いてるのか?花奈。」
「……あい。きいてます……。」
まだまだ続きそうな蓮琉くんのお説教に、お兄ちゃんに救援を求めようと周りに視線を巡らせた私は、何故か三田くんと目があった。
三田くんは私と目があうと、こてんと首を傾げた。
「妹ちゃん剣道やってるの?」
「いえ。習ったことないです。」
根っからの文系です。
三田くんはにっこり笑った。
何故だろう。笑顔が怖い。
「あのさあ、俺初めて見たよ。男押しのけて竹刀もって走っていく女の子。てっきり経験者かと思ったけど違うんだ。相手も見ずに飛び出して、立ち向かおうとしたわけ?すんげえゴリラみたいなのがいたらどうすんの?妹ちゃん太刀打ちできるの?君を人質にとられたら、タマちゃんだって危なくなるでしょ?……こんなに細い手してるのに。」
三田くんは私の手をそっとつかんだ。
彼の手は大きくて、私の腕をつかんでもまだ余るくらいだ。
私はむうっとして、彼の手から逃れようと腕を動かすが、びくともしない。
「………ううっ。」
「ほら。逃げられないよね。」
「三田くんが意地悪する……。」
悔しくなってきた私は三田くんをじとっと睨みあげた。
三田くんは何故かうっと仰け反って、私の手を離した。
私は手をまじまじと見た。
アザになっていない。
全然外れなかったから、もっとひどく掴んでいたのかと思ったのに。
三田くんは何故か私の前に座り込んでいた。
何故かしゃがみこんで丸まっている。先程までの意地悪な彼はどこに行ったのか。
私もしゃがみこんで三田くんをのぞき込んだ。
「三田くん、どうしました?」
「……妹ちゃんが意地悪する。」
私はムッとして三田くんの耳を軽くひっぱった。
「失礼な。意地悪したの三田くんじゃないですか。」
「だって、上目遣いとかないでしょ。やばかった……たつかと
思った。ねえ、このまましちゃう?俺気持ちよくさせる自信がある……ブフォ!」
「花奈?とりあえず家の中に入ろうか。竹刀は俺が預かるから。」
三田くんがいきなり吹っ飛んでいったと思ったらお兄ちゃんが蹴飛ばしたみたいだった。私の持っていた竹刀を受け取りさり気なく威嚇している。三田くんがお兄ちゃんに涙目で叫んだ。
「タマちゃん、蹴飛ばすのひどいっ。」
「はあ?花奈に卑猥な言葉つかってるお前はどうなの。」
「………それはぁっ。だって、妹ちゃんが……っ。」
「三田くん。ちょっとあっちでお話しようか。」
蓮琉くんがさり気なく三田くんを裏庭に連行していった。
三田くんの叫び声が裏庭にこだました。
私はお兄ちゃんに桜木先生からのメールを見せた。
お兄ちゃんは、少し考え込んでいたかと思うと加川先輩に話しかけた。
「もしかして、先程先輩が言っておられたのって、先輩の同級生だった芹沢さんですか?」
「………!どうしてわかったんだい?そうだよ。芹沢だ。彼は最近どうも言動があやしくてね。妹さんを貶すような言動をしたり、隠し撮りにしか思えない君の写真をもっていたり……君への執着具合がひどいんだ。あまりにも目に余るから他の会員達と注意したんだがまったく話をきかなくてね。」
「そうですか。……実は妹も先日尾行されたりしたみたいで。これ以上なにかされてからでは遅いので警察に通報するしかないかと思ってたんですよ。でも確たる証拠がなくて……。」
「ふむ。役にたてるかどうかはわからないが、怪しい言動のことなら証拠として立証できるかもしれないね。僕達会員の中でも様子を見てみるよ。」
「先輩、ありがとうございます!」
「………っ。環くん。君の役にたてるなら、僕達役員は火の中水の中!待っていてくれたまえ………っ!」
お兄ちゃんと目があった途端真っ赤になった加川先輩は、そのまま走り去って行った。
「お兄ちゃん……。」
「大丈夫だ、花奈。お前も一人で行動するなよ?」
お兄ちゃんは私を安心させるように微笑みかけた。私はお兄ちゃんに抱きついた。
「お兄ちゃんも気をつけてね?危ないことがありそうだったら走って逃げるんだよ?」
「ああ、わかった。」
お兄ちゃんは私を抱きしめかえして、頭にそっとキスしてくれた。お兄ちゃんの腕の中はあたたかくてほっとする。
それにしても、ゲームのストーリーが私が知っているものから違ってきているみたいだ。
お兄ちゃんの先輩がストーカーみたいになるなんて話はゲーム内にはなかったはず。
そういえばお兄ちゃんはクリスマスイブを誰と過ごすんだろう。
クリスマスを一緒に過ごす相手がそのままエンディングの相手になるはずなんだけどな。
私はお兄ちゃんの服の裾を引っ張った。
「お兄ちゃん。」
「ん?」
「今年のクリスマスイブは?その……ええと、誰かと過ごすの?」
(お兄ちゃんのエンディングの相手は誰?それとも誰ともくっつかない友情ルート?それともまさかの桜木先生?)
「誰かと過ごすって……。何言ってんだ?花奈。」
お兄ちゃんはキョトンとした目で私を見た。
「毎年晩御飯は家族で一緒に食べて、その後に蓮琉が俺達の家に泊まりにきてただろ?」
「うん。まあ……例年でいくとそうだね。」
クリスマスイブ。
斎藤家は毎年家族4人でいつもより少し豪華な食事をして、ケーキを食べる。
その後、蓮琉くんが合流して、夜遅くまでゲームをしたりお話ししたりして過ごし、蓮琉くんはお兄ちゃんの部屋にお泊まりするのが毎年の恒例行事だ。
「なあ、今年も来るんだろ?蓮琉。」
「うん。斎藤家さえ大丈夫なら今年もお邪魔したいな。」
「絶対大丈夫だろ。今年こそゲーム負けねえからな?」
「はははっ。俺だって負けねえよ。」
うん。
安定の仲良し幼馴染みだね。
私はお兄ちゃんと蓮琉くんがにこにこ笑いあってるのを見て、ほっこりとあたたかい気持ちになった。
そして、三田くんの方に何気なく顔を向けた。
(う……っ。)
なんだろう。
私が祖父の家から帰るとき、見送るポン太が見せた寂しそうな顔。
人恋しいんだけど、人の輪に入るのを最初からあきらめているような、そんな顔。
私は思わず三田くんに声をかけていた。
「三田くんもきますか?」
「………えっ?」
「私達がご飯食べてお風呂に入ってからになるので遅くからになってしまうし、ゲームのコントローラは三つしかないから順番になりますけど。」
「………えっ。えええっ。」
三田くんは何故か驚いたように私を見て、それからお兄ちゃんを見た。
お兄ちゃんは、そんな三田くんに天使の笑顔でにっこりと笑いかけた。
「そうだな、三田も来いよ。なあ、蓮琉いいよな?」
「ああ、いいんじゃねえの?ならついでに柴崎にも声かけるか?環んとこでみんな寝るの狭かったら俺の家でもいいわけだし。」
「そうだな。俺も母さんにきいてみる。」
三田くんはどんどん決まっていくクリスマスイブの予定に呆然としていたけど、くしゃりと顔を歪めた。
「……俺も行っていいの?」
「もしかして、既に予定が入ってたりするのか?」
「ううん。予定はない。」
「だったら、来いよ。……あ、でも花奈に変なことしたら即刻叩き出すからな?」
「タマちゃん!ありがとう!」
「うわっ!」
三田くんはぱあっと明るい笑顔になって、お兄ちゃんに抱きついた。急に抱きつかれたお兄ちゃんがバランスを崩して倒れそうになるのを蓮琉くんが慌てて支える。
その光景はまるで一枚のスチルのようで。
画面ごしに彼らを見ているような錯覚におちいった私は、眩しいものを見るかのように目を細めた。
そして脳内は高速回転していた。
(ええっと。三人で仲良しエンドなんてあったかなあ。もうここまできたら、もとのゲームのエンディングなんて関係ないか!三人で紡ぐ新たなエンディング……イイかも。それもアリだよね。お兄ちゃんを二人で取り合う三角関係エンド……友情ベースで、ちょっとトキメキまぜた感じで。甘える三田くんにヤキモチやいちゃう蓮琉くんなんてオイシイかも!)
「三田!危ないだろうが!」
「ごめ~ん。えへへへ~。タマちゃん大好き~。」
「よしよし。……ほんとポン太だよな。三田って。」
お兄ちゃんに覆い被さるように抱きつくポン太……三田くんを乱暴に撫でながら、お兄ちゃんは支えてもらった蓮琉くんから起き上がった。
「よっと。あれ?花奈?どうした。ぼうっとして。」
「ほんとだ。……花奈~?もどってこ~い。どうしよう環。今日はいつにもましてひどいんだけど。」
「なになに?妹ちゃんてぼんやりしちゃうの?」
「あ~。たまにだけどな。」
私の頭の中はゲームの展開のことでいっぱいになっていた。
私の悪い癖で、想像しだしたら止まらない。
(あとはあ……三田くんと仲良しなお兄ちゃんに蓮琉くんが幼馴染の独占欲だしてくるとか?うわあ。トキメキが止まらない……っ?)
その時、私の唇にムニッとした感触があった。
それはいつのまにかヌメヌメとした物体にかわり、口の中に入り込み私の舌をつついたかと思うと、ねっとりとからみついてきた。
その感触は以前蓮琉くんとか桜木先生にされたキスに酷似していて。
私はカッと目を見開いた。
そしてその物体は、音をたてて唇をついばんで離れていった。
そこには私の唇をちょんちょんとつつく三田くんがいた。
「あ、戻ってきた。妹ちゃんダメだよ~。ぼうっとしたら。悪いヤツにつけこまれちゃうよ?」
私は無言で三田くんを見た。
三田くんの唇が、今キスしたばかりのようにツヤツヤしている。彼はペロリと唇をなめると、にぱっと笑った。
「えへへ。ごちそうさま。」
私は無言でお兄ちゃんの竹刀を奪い取ると、三田くんに向かって振り下ろした。
視界の隅でお兄ちゃんと蓮琉くんの唖然とした顔がうつっている。
「いてええええええ!ちょっと待って?妹ちゃん!うわっ。ごめんて。うわあああっ。」
そのまま無表情で三田くんを追いかけ回す私はかなり怖かったらしい。
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