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中学生編

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駅についた私たちを三田くんが高校まで案内してくれた。
とてもありがたかったが、私達は途中であることに気がついた。

今日は体育祭である。
彼は、今ここにいて大丈夫なのだろうか?

上機嫌で前を歩く三田くんの後ろで私達はひそひそ話をした。
(ねえ、花奈。今日は体育祭あるんだよね。)
(うん。お兄ちゃん早くに登校してたよ。)
(なあ、だったらどうしてこの人この時間にここにいるんだ?)
(ほんとよね。体育祭もう始まっているんじゃないの?ていうかこの人誰?)
(ええと、お兄ちゃんと同級生のひと)
(一年生?先輩かと思った。こんなに堂々と遅刻してもいいわけ?)

校内からは入場行進らしき音楽がきこえてきており、体育祭がすでに始まっている気配がしている。

校門をくぐった私たちはその場で足を止めた。

何かが風のようにやってきて、三田くんが吹っ飛んでいったから。
二葉くんの弟の寛大くんはうれしそうに目をキラキラさせている。
「すげえ!ドロップキックだ!かっこいい!」

「おはようございます。三田くん。こんな時間に制服でうろつかれては困るんですよ。」

「アイタタた。桜ちゃんひどい…」

「桜ちゃん言うな。」

その人は三田くんをもう二、三度踏みつけると、三田くんの首根っこをつかんでひきずるように立ち上がった。

私は彼の顔を見て、目を見開いた。

(攻略対象隠しキャラ教師、桜木数馬!)

いわゆる眼鏡キャラである。
担当教科は、数学。
冷静沈着でいつも冷ややかな笑みを浮かべている。彼を攻略するには様々な制限がなされており、プレイヤー泣かせだったように思う。

先生は私たちには気が付かなかったのか、三田くんを連行していった。
三田くんは私達を見てこっそり手を振っている。

私達は顔を見合わせると、とりあえず何もなかったかのように、話し始めた。
「とりあえず高校まで無事についたわね。」
「校庭の方に行ってみるか?恭子、寛大。はぐれるなよ。」
「お兄ちゃん達の出番は、2番目くらいかな。」


私達は校庭に移動して、校舎横の隅の方に保護者達に混じってレジャーシートを敷いて場所を確保した。
兄たちの出番はまだらしく、私達はお菓子をカバンから取り出して、食べ始めた。
「このチョコの新作おいしいよね。」
「彩子、恭子ちゃん、このクッキーも美味しいよ。クルミとチョコが入ってるの。」
「………いらない。」
「あ、ほんとだ。美味しい!恭子ちゃんも食べてみる?」
「………うん。」

んん?
何だか恭子ちゃんの反応が私に対する時と彩子に対する時と違う気がする。彩子は小学生の頃から知ってるし、私とは初対面だからかな。

それにしても、おやつタイムってどうしてこんなに幸せんだろうね。ああ、美味しい。



ゲームの中の体育祭イベントでは、一年生の競技の借り物競走で誰と絡むかがストーリー進行の上での第一の関門だったと思う。
借り物競走とは。
まずは所定の位置まで走り、各自用意されたくじをひく。くじには体育祭会場にありそうなものが、書いてあるので、それを探して、いかに早くに本部テントに持っていき、確認してもらうかが、勝負のポイントである。

借り物競走でのお題は、蓮琉くんだったら友達。三田くんだったら、ピアス。二葉くんだったら、中学生。まだ私は出会ってないけど、先輩ルートでは、和菓子がお題になっていたと思う。


「あ、そろそろ環先輩たちの借り物競走じゃない?」
座ったままではさすがに見えないので、彩子と私は立ち上がった。二葉くんはもともと立っているので彼の横に、3人で並んだ。

私は兄を探すため、グラウンドに並んでいる生徒達ををじっと眺めた。
「お兄ちゃんは2組だから……あ、あそこだね。彩子、二葉くんお兄ちゃんいたよ。」
「え?どこどこ?」
「ええとね、右から三列目の、前からは……5番目くらいかな。」
「あ、ほんとだ。いた!」

私は、蓮琉くんを探すためにもう1度、じっと生徒達を見た。
(あ!いた!)
蓮琉くんは、後ろの方にいた。
2人とも容姿が整っているので、よく目立っている。

競技開始の笛が鳴った。

(お兄ちゃんのお題は何になるのかな?)
私はドキドキしながらお兄ちゃんの番になるのを待った。
「環先輩の番になったみたいだね。」
「うん!」

すでに先に走った生徒達がお題のものを探すため、周辺をうろうろしている。
お兄ちゃんもお題の紙をとると、素早く走り始めた。
私は手をぐっとにぎると、お兄ちゃんを目で追った。

(さあ!相手は誰なのかな?)

お兄ちゃんは何かを探しているようで、キョロキョロしながら近づいてきた。そして、彼は私と目があうと、にっこりと微笑んだ。
その天使のような可愛らしさに周りの人達の動視線は釘付けとなり、恭子ちゃんと寛大くんも頬を赤らめて、ぽかんとお兄ちゃんに魅入られていた。

「花奈!」
「お兄ちゃん!お題はなあに?」
「中学生!……侑心!お前来れるか?」
お兄ちゃんは、肩で息をしながら二葉くんを見た。
(おお!後輩ルート?)
二葉くんは、お兄ちゃんとそのまま走ろうとして、弟妹を思い出したのか、私たちを振り返った。
「………!あ、すまん。寛大と恭子をたのんでもいいか?」
「いいよ~!行っておいでよ。」
「兄ちゃん頑張れ!」

私たちに見送られ、兄と二葉くんは走り去って行った。
「うわ~。久しぶりに見ちゃった。環先輩!やっぱ天使だね。しかも全開の笑顔までみちゃったよ。ご馳走様です。」
「あの人が環先輩……!」
彩子も恭子ちゃんもお兄ちゃんが走っていったあとをぼうっと眺めている。
寛大くんは、目をキラキラさせていたかと思うといきなり走り出した。
「僕、もっと近くで見たい!」
「はあ?ちょっと待ちなさいよ?!こら!寛大!あいつは~っ。花奈、恭子ちゃんとここで待ってて?」
「わかった。ごめんね、彩子お願い。」
「すぐ連れ戻してくる!」
寛大くんを追って走り出した彩子が見えなくなると、私は恭子ちゃんに話しかけた。
「大丈夫だよ。みんなすぐ帰ってくるからね。」
「………。」
恭子ちゃんは俯いて、黙り込んでしまった。


お兄ちゃんも本部テントでのお題確認が終わったようで、そのまま二葉くんも連れて待機場所で待っている。
2人でなにか話しているようだ。すると、無表情だった二葉くんが、ふと照れたように微笑んだ。

(あ、こういうスチルあったなあ。)

お兄ちゃんも二葉くんが微笑んだので驚いているようだ。二葉くんの頬ををむにむにと引っ張ったりしてている。2人の様子をにまにまと見ていた私は、恭子ちゃんが私をじっと見ていることに気がついた。
「なあに、恭子ちゃん?」
「わたし、お兄ちゃんには彩ちゃんがお似合いだと思う。」
「……え?」
「お兄ちゃんが、女の子と一緒に出かけるなんて、初めてなの。私はお兄ちゃんが誰かと付き合うんだったら、彩ちゃんがいいと思う。彩たちゃんだったら、明るいし。可愛いし。」

(あああああっ!)

私は内心叫び声をあげた。
各ルートで、用意されている恋の障害となる相手がいたのを思い出したのだ。

二葉くんルートでは、彼の妹だった。
兄をとられるのが嫌で、なにかと妨害してくるのだ。
(妨害キャラ……?)

きっと睨みつけてくる恭子ちゃんを私は呆然と見つめていた。




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