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日が沈む
山野の影が赤い陽光で鮮明に映る。
山の上に武者はなく
荒れ野とむくろの山が残るのみであった。
戦には負けなかった、
だが、失った物が多すぎた。

「…うぅ…………ぅぅ……」
大鬼は地面にべったりと胡座あぐらをかき、
その膝に手を置き
うつむきながら泣いている。
自らの急ぎすぎた義憤ぎふん
狭くなりすぎた視野のせいで
七兵衛と平助をはじめとした
多くの命が奪われた事を悔い、
びながら泣いた。

儀助はそれをだまって見つめる。
責める言葉もなぐさめの言葉も必要なく、
辛さは彼以上に頭にもたげていたからだ。

人は死に
田畑は荒れ
村は深く傷つき
残された者達は途方に暮れていると
何かがゆっくりと落日を背にして
登ってくるのが見えた。

戦いに疲れ、半ば投げやりな村人達は
ただその影を見つめることしかできなかった。
徐々に影の輪郭りんかくがくっきりと浮かんでくると
その姿に儀助は驚愕きょうがくした。

自らの主君に背いて、
自分たちを逃がしてくれた男だ…

ゆっくりと歩み来る喜蔵は
具足ぐそくを取り払い、
脇差わきざしすらない
丸腰同然の姿であった。

村人達の前に立ち、
頭を地に付けて、こう言った。
「…此度こたびは…誠に申し訳ない‼︎」
そのままの姿勢で静かに言葉を繋げた。
「……もはや…許されない事は
わかっている……」
だから…と言おうとすると…

「その首なら必要ありません…」
儀助が静かにそう言った。
喜蔵は顔を上げて、
彼の顔を見つめ直した。

「それよりも…ここで生きませんか?」
「……しかし…」
「一人でも手が必要なんです…明日の為に」
「…………」
喜蔵は再び、頭を下げた。

「菊!」
「…………」
「いつまでもこうしちゃおれん…
とむらいを終えたら、
もう一度溝を切るぞ‼︎」
「…………」
「菊‼︎」
返事が無いので、
大菊童子の下に駆け寄った。

「菊‼︎、‼︎……」
そこには涙を流したまま、
力尽きた大鬼の姿があった。

かつて京の都を火に沈め、
地獄の悪鬼と恐れられながら、
力なき農民達に闘った者の
最後だった。

それの様をしっかと見届けた儀助は
燃えるような夕陽に目を向けた。


日はまた昇る…
そう感じられるだけでもう充分だった。


鬼吠の社はこの後に建てられた。
勇敢ゆうかんな者達を弔い、
村を守ってきたはずのこの神社が
いつ忘れ去られ、
打ち捨てられたのかわからない。

ただ、どれだけち果てても
心を失わずに戦い続けた者達が
かつてここに息づいていた事は変わらない。
それを示すように
今も鬼吠神社は山中に
ひっそりとたたずんでいる…

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