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十二
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「グルルゥゥウォォォォ‼︎」
化け物が雄叫びを上げて現れた。
この世に生きる者にとって
これ以上の恐怖は無い。
「う、うわぁぁぁ‼︎」、「ひぃあぁぁぁ‼︎」
先ほどまで自信に満ち満ちていた諸兵が
叫び声を上げる。
「…!、菊だ‼︎菊が帰ってきたぞ‼︎」
同時に村の誰かが喜びの声を上げた。
「退けぇ‼︎死にたくなければ退けぇぇ‼︎‼︎」
大太刀を振り回し、轟音を轟かせる。
その一声は敵味方入り乱れ、
もはや計略なぞ無い乱戦に秩序を取り戻した。
「……!、横陣を組め!……
山を登って組み直すのだ……」
「菊だぁ…爺様の家に集まれぇ……」
どこからとも無く声が響く。
それに応えて人間が蠢き、
いるべき場所へと急いだ。
人間の引き潮を蹴散らしながら、
大鬼が進む。
「七兵衛ぇぇ‼︎平助ぇぇ‼︎どこだぁぁぁ‼︎」
やや焦りの入った声で二人の男を探す。
相変わらず人が履き捨てられる塵のように
吹き飛ぶので、それを見た敵兵は
たちまち恐慌状態に陥った。
一方、儀助は混乱から
立ち直ろうとする波の中で
違和感を感じ取っていた。
誰よりも冷静でただ一点を
目指して進む何かが来ている。
それが自分の背後とわかると身を翻して、
切先を向ける。
人の走力を明らかに超えたそれを
一人でも迎え撃たなければならない。
ダ…ダダ…ダッダッダッダッ!
思ったよりも少ないがそれは間違いなく
敵の騎馬武者であった。
少なくとも十騎以上がこちらに向かって
斜面を駆け上ってくる。
眉間に皺を寄せ、精神を研ぎ澄ます。
少ないとはいえ、追い立てられれば疲弊しきった
村人達にはひとたまりも無い。
一騎でも討ち倒すため、
覚悟を決めて斬りかかろうとした。
その時‼︎
「これまで‼︎双方これまでぇ‼︎」
先頭の騎馬武者が声を張り上げた。
「蔭虎様が打ち取られたぁ‼︎
これ以上の戦は無用‼︎これ以上の戦は無用だぁ‼︎」
他の騎兵も衝撃の一報を声を張り上げながら、
村の隅から隅まで伝える。
儀助はしばらく茫然と立ち尽くした後、
刀を鞘へと静かに納めた。
その後もしばらくは降って湧いた勝利に
俯いているばかりであったが、
それから醒めるような衝撃が
耳に飛び込んできた。
「七兵衛ぇぇぇぇぇ‼︎平助ぇぇぇぇぇ‼︎‼︎」
大菊童子の声だった。
「すまねぇぇ‼︎……俺が…俺が………」
吹き出しそうな涙をこらえたような
嗚咽が続いた。
村中に響き渡ったその声は
呆気ない幕切れ、
困惑と落胆が支配する空気、
そして、大き過ぎる喪失、
それら全ての現実を
叩きつけるかのようであった。
化け物が雄叫びを上げて現れた。
この世に生きる者にとって
これ以上の恐怖は無い。
「う、うわぁぁぁ‼︎」、「ひぃあぁぁぁ‼︎」
先ほどまで自信に満ち満ちていた諸兵が
叫び声を上げる。
「…!、菊だ‼︎菊が帰ってきたぞ‼︎」
同時に村の誰かが喜びの声を上げた。
「退けぇ‼︎死にたくなければ退けぇぇ‼︎‼︎」
大太刀を振り回し、轟音を轟かせる。
その一声は敵味方入り乱れ、
もはや計略なぞ無い乱戦に秩序を取り戻した。
「……!、横陣を組め!……
山を登って組み直すのだ……」
「菊だぁ…爺様の家に集まれぇ……」
どこからとも無く声が響く。
それに応えて人間が蠢き、
いるべき場所へと急いだ。
人間の引き潮を蹴散らしながら、
大鬼が進む。
「七兵衛ぇぇ‼︎平助ぇぇ‼︎どこだぁぁぁ‼︎」
やや焦りの入った声で二人の男を探す。
相変わらず人が履き捨てられる塵のように
吹き飛ぶので、それを見た敵兵は
たちまち恐慌状態に陥った。
一方、儀助は混乱から
立ち直ろうとする波の中で
違和感を感じ取っていた。
誰よりも冷静でただ一点を
目指して進む何かが来ている。
それが自分の背後とわかると身を翻して、
切先を向ける。
人の走力を明らかに超えたそれを
一人でも迎え撃たなければならない。
ダ…ダダ…ダッダッダッダッ!
思ったよりも少ないがそれは間違いなく
敵の騎馬武者であった。
少なくとも十騎以上がこちらに向かって
斜面を駆け上ってくる。
眉間に皺を寄せ、精神を研ぎ澄ます。
少ないとはいえ、追い立てられれば疲弊しきった
村人達にはひとたまりも無い。
一騎でも討ち倒すため、
覚悟を決めて斬りかかろうとした。
その時‼︎
「これまで‼︎双方これまでぇ‼︎」
先頭の騎馬武者が声を張り上げた。
「蔭虎様が打ち取られたぁ‼︎
これ以上の戦は無用‼︎これ以上の戦は無用だぁ‼︎」
他の騎兵も衝撃の一報を声を張り上げながら、
村の隅から隅まで伝える。
儀助はしばらく茫然と立ち尽くした後、
刀を鞘へと静かに納めた。
その後もしばらくは降って湧いた勝利に
俯いているばかりであったが、
それから醒めるような衝撃が
耳に飛び込んできた。
「七兵衛ぇぇぇぇぇ‼︎平助ぇぇぇぇぇ‼︎‼︎」
大菊童子の声だった。
「すまねぇぇ‼︎……俺が…俺が………」
吹き出しそうな涙をこらえたような
嗚咽が続いた。
村中に響き渡ったその声は
呆気ない幕切れ、
困惑と落胆が支配する空気、
そして、大き過ぎる喪失、
それら全ての現実を
叩きつけるかのようであった。
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