11 / 14
十
しおりを挟む
「グウゥゥ………ヌゥ……」
鋭い痛みに呻きをあげながら、
掌を地に付けゆっくりと上体を起こす。
だが、それを喜蔵が
みすみす見逃すわけがなかった。
ヒュ…バッ………
「グゥアアァァァ‼︎」
背中の傷は大きく交差し、
とうとうあの大菊童子が悲鳴を上げた。
それでもなお、体は確かに立ち上がろうと
懸命に力を振り絞っている。
「…………」
息の根を止めるため、
ゆっくりと大鬼へと近づく喜蔵。
静かな殺意を滲ませる目は
頸から視線を外そうとせず、
運命は既に決したかに見えた。
……タタタタタッタッ‼︎
‼︎ヒュッ‼︎
ガチーン‼︎…ギギギ……
背後から迫り来る何かを
身を翻して刀で受けた。
その直後、やっとの思いで上体を
地から引き剥がした
大菊童子が振り返りながら叫んだ。
「?……義助…義助かっ⁈」
「菊‼︎さっさと村に戻るぞっ‼︎‼︎」
ギリギリと音を立て、
額に近づく刃に争いながら叫ぶ。
「水路…水路はどうすんだ‼︎」
痛みを抑えながら尋ねる。
「この期に及んで…
まだわからんかっ‼︎たわけ‼︎‼︎」
義助が一喝すると流石の大菊童子も驚いた。
「……水路の…一つで……ウジウジと…」
ギリギリと刀が押し込まれていく
「それでも貴様っ……地獄の…」
喜蔵がグッと押し込む。
「悪鬼かっ‼︎‼︎‼︎」
弾き飛ばされ、大きく後ろへ転倒する。
喜蔵から離そうと大菊童子が
駆け出そうとすると
「待て‼︎」
鋭い視線と共に義助が叫ぶ。
一瞬動きを止めたと同時に
槍の群れが突き立てられ、
行く手を阻まれた。
「…手向かう形となって
申し訳ございません……」
儀助が刀を傍らに置き、
手と膝を地につけた。
「米を納めておれば
このような事にならなかったのは
重々承知しております…」
首を垂れ、俯き気味で言葉を繋ぐ。
「…しかし、今ある米を取られては…
ただひたすらに飢え死を
待つばかりなのです……」
覚悟を含んで静かに囁く。
「斯くなる上は…
私の首を差し上げます」
「義助‼︎」
大鬼が叫んだが儀助は構わず続ける。
「何の足しにもなりませぬが…
この首で来年の刈り取りまで
待っていただけないでしょうか…」
「お願いいたします‼︎」
頭を地につけ、首を喜蔵に捧げた。
「ヴワァハハハハ‼︎」
笑みを浮かべながら事の次第を
見守っていた蔭虎が遂に吹き出した。
「だそうじゃ、喜蔵!
其奴の首を刎ねてやれ!」
「最も…何の手柄にもならぬがのぉ‼︎
ハハハハァ!」
「…………」
ヒュッ‼︎……
刀を大きく振り下ろし、
カチッ…
鞘へと収めた。
「…なっ……」
予想だにしなかった光景に
蔭虎は面を食らった。
そんな主をよそに儀助の元へと歩み寄る。
「………」
スッと右手を差し伸べる。
差し伸べられた手に一瞬戸惑ったが、
右手でしっかりと掴み、
勢いよく立ち上がる。
「なぁにをしておるのだぁ‼︎喜蔵ぉ‼︎」
「………わかりませんか…
愛想が尽き果てたんですよ…貴方に…」
「何ぃ‼︎」
青筋を浮かべて蔭虎は叫んだ。
「此度の戦、所詮は貴方の怨みを
晴らすものに過ぎない…」
顔を儀助の方へと向ける。
「この者たちは愛する者のため
死力を尽くしておると言うのに……」
肩を落し、溜め息混じりに呟いた。
「…父の代から
お仕えしてまいりましたが………
恥を恥とも思わぬ、
者にはついてゆけません‼︎‼︎」
「喜蔵ぉぉ‼︎貴様ぁぁぁ‼︎‼︎」
「………早く……」
「……」
「早く行かれよ‼︎」
「…は!はい‼︎、菊‼︎」
「おう‼︎」
「そうはさせるかぁ‼︎‼︎」
振り上げられた刀が喜蔵を捉える。
「殺せぇ‼︎一人残らずぶち殺せぇぇ‼︎‼︎」
鬼と熊殺しを前にして、
お互い顔を見合わせてたじろぐ。
それに気づいた蔭虎は
激しく激昂した。
「何をしておる‼︎‼︎‼︎」
ザ…ザザ…ザザザザザッ…
戸惑い気味ではあったものの、
鋭い光が3人に向けられた。
「………」
カチッ…シュッ!
睨み付けるような切先は
取り囲む者達を気圧した。
「……来い…熊殺しの技を見よ‼︎」
鋭い痛みに呻きをあげながら、
掌を地に付けゆっくりと上体を起こす。
だが、それを喜蔵が
みすみす見逃すわけがなかった。
ヒュ…バッ………
「グゥアアァァァ‼︎」
背中の傷は大きく交差し、
とうとうあの大菊童子が悲鳴を上げた。
それでもなお、体は確かに立ち上がろうと
懸命に力を振り絞っている。
「…………」
息の根を止めるため、
ゆっくりと大鬼へと近づく喜蔵。
静かな殺意を滲ませる目は
頸から視線を外そうとせず、
運命は既に決したかに見えた。
……タタタタタッタッ‼︎
‼︎ヒュッ‼︎
ガチーン‼︎…ギギギ……
背後から迫り来る何かを
身を翻して刀で受けた。
その直後、やっとの思いで上体を
地から引き剥がした
大菊童子が振り返りながら叫んだ。
「?……義助…義助かっ⁈」
「菊‼︎さっさと村に戻るぞっ‼︎‼︎」
ギリギリと音を立て、
額に近づく刃に争いながら叫ぶ。
「水路…水路はどうすんだ‼︎」
痛みを抑えながら尋ねる。
「この期に及んで…
まだわからんかっ‼︎たわけ‼︎‼︎」
義助が一喝すると流石の大菊童子も驚いた。
「……水路の…一つで……ウジウジと…」
ギリギリと刀が押し込まれていく
「それでも貴様っ……地獄の…」
喜蔵がグッと押し込む。
「悪鬼かっ‼︎‼︎‼︎」
弾き飛ばされ、大きく後ろへ転倒する。
喜蔵から離そうと大菊童子が
駆け出そうとすると
「待て‼︎」
鋭い視線と共に義助が叫ぶ。
一瞬動きを止めたと同時に
槍の群れが突き立てられ、
行く手を阻まれた。
「…手向かう形となって
申し訳ございません……」
儀助が刀を傍らに置き、
手と膝を地につけた。
「米を納めておれば
このような事にならなかったのは
重々承知しております…」
首を垂れ、俯き気味で言葉を繋ぐ。
「…しかし、今ある米を取られては…
ただひたすらに飢え死を
待つばかりなのです……」
覚悟を含んで静かに囁く。
「斯くなる上は…
私の首を差し上げます」
「義助‼︎」
大鬼が叫んだが儀助は構わず続ける。
「何の足しにもなりませぬが…
この首で来年の刈り取りまで
待っていただけないでしょうか…」
「お願いいたします‼︎」
頭を地につけ、首を喜蔵に捧げた。
「ヴワァハハハハ‼︎」
笑みを浮かべながら事の次第を
見守っていた蔭虎が遂に吹き出した。
「だそうじゃ、喜蔵!
其奴の首を刎ねてやれ!」
「最も…何の手柄にもならぬがのぉ‼︎
ハハハハァ!」
「…………」
ヒュッ‼︎……
刀を大きく振り下ろし、
カチッ…
鞘へと収めた。
「…なっ……」
予想だにしなかった光景に
蔭虎は面を食らった。
そんな主をよそに儀助の元へと歩み寄る。
「………」
スッと右手を差し伸べる。
差し伸べられた手に一瞬戸惑ったが、
右手でしっかりと掴み、
勢いよく立ち上がる。
「なぁにをしておるのだぁ‼︎喜蔵ぉ‼︎」
「………わかりませんか…
愛想が尽き果てたんですよ…貴方に…」
「何ぃ‼︎」
青筋を浮かべて蔭虎は叫んだ。
「此度の戦、所詮は貴方の怨みを
晴らすものに過ぎない…」
顔を儀助の方へと向ける。
「この者たちは愛する者のため
死力を尽くしておると言うのに……」
肩を落し、溜め息混じりに呟いた。
「…父の代から
お仕えしてまいりましたが………
恥を恥とも思わぬ、
者にはついてゆけません‼︎‼︎」
「喜蔵ぉぉ‼︎貴様ぁぁぁ‼︎‼︎」
「………早く……」
「……」
「早く行かれよ‼︎」
「…は!はい‼︎、菊‼︎」
「おう‼︎」
「そうはさせるかぁ‼︎‼︎」
振り上げられた刀が喜蔵を捉える。
「殺せぇ‼︎一人残らずぶち殺せぇぇ‼︎‼︎」
鬼と熊殺しを前にして、
お互い顔を見合わせてたじろぐ。
それに気づいた蔭虎は
激しく激昂した。
「何をしておる‼︎‼︎‼︎」
ザ…ザザ…ザザザザザッ…
戸惑い気味ではあったものの、
鋭い光が3人に向けられた。
「………」
カチッ…シュッ!
睨み付けるような切先は
取り囲む者達を気圧した。
「……来い…熊殺しの技を見よ‼︎」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
我は魔王なり…
三須田 急
ファンタジー
ここは剣と魔法の世界…
1人の若者は恐るべき魔王から世界を救い、
人々から英雄として歓呼の声で迎えられた…
しかし、貴方は知っているだろうか?
彼の行く末を…
イケメンの意味はイケてるメンディーの略
ゆり
ファンタジー
町の小料理屋で働く凛月は、ある日「輝夜(かぐや)」と名乗る男と出会う。彼は、この国では誰もが知る、『ツクヨミ』だった。彼の強さとその意志に、凛月は次第に惹かれていく。凛月と輝夜の、それぞれの壮絶な過去と、地獄のような現状。腐りきったこの世を変えるため、彼は闇を切り開くべく刀を抜いた。
彼の戦いは自由を掴むまで、終わらない。
最後の封じ師と人間嫌いの少女
飛鳥
ファンタジー
封じ師の「常葉(ときわ)」は、大妖怪を体内に封じる役目を先代から引き継ぎ、後継者を探す旅をしていた。その途中で妖怪の婿を探している少女「保見(ほみ)」の存在を知りに会いに行く。強大な霊力を持った保見は隔離され孤独だった。保見は自分を化物扱いした人間達に復讐しようと考えていたが、常葉はそれを止めようとする。
常葉は保見を自分の後継者にしようと思うが、保見の本当の願いは「普通の人間として暮らしたい」ということを知り、後継者とすることを諦めて、普通の人間らしく暮らせるように送り出そうとする。しかし常葉の体内に封じられているはずの大妖怪が力を増して、常葉の意識のない時に常葉の身体を乗っ取るようになる。
危機を感じて、常葉は兄弟子の柳に保見を託し、一人体内の大妖怪と格闘する。
柳は保見を一流の妖怪退治屋に育て、近いうちに復活するであろう大妖怪を滅ぼせと保見に言う。
大妖怪は常葉の身体を借り保見に迫り「共に人間をくるしめよう」と保見に言う。
保見は、人間として人間らしく暮らすべきか、妖怪退治屋として妖怪と戦うべきか、大妖怪と共に人間に復習すべきか、迷い、決断を迫られる。
保見が出した答えは・・・・・・。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【R18】絶望の枷〜壊される少女〜
サディスティックヘヴン
ファンタジー
★Caution★
この作品は暴力的な性行為が描写されています。胸糞悪い結末を許せる方向け。
“災厄”の魔女と呼ばれる千年を生きる少女が、変態王子に捕えられ弟子の少年の前で強姦、救われない結末に至るまでの話。三分割。最後の★がついている部分が本番行為です。
【R18】淫魔の道具〈開発される女子大生〉
ちゅー
ファンタジー
現代の都市部に潜み、淫魔は探していた。
餌食とするヒトを。
まず狙われたのは男性経験が無い清楚な女子大生だった。
淫魔は超常的な力を用い彼女らを堕落させていく…
英雄の末裔――ヴァイスハイト帝国篇――
三田村優希(または南雲天音)
ファンタジー
神聖不可侵である三帝国がひとつ、ヴァイスハイト帝国。
皇帝ゲオルグが崩御し、皇太子クレメンスが至尊の冠を頭上に頂こうと国内が騒がしくなっている頃。
隣国のプラテリーア公国は混乱に乗じて、国境の一部を我が物にしようと画策していた。全ては愛娘イザベラに大公位を譲位するために。
しかしイザベラ本人は弟である嫡男ロベルトが次期大公と公言して憚らない。
姫将軍と称されるイザベラを皇后に迎えプラテリーア公国を支配下に置こうとクレメンスは考えるが、それが内乱の火種となろうとは、彼は思っていなかった。
封印を守護する三帝室と長きに渡り対峙する魔人が、誕生するきっかけとなる話。
国と時代、主人公を変えて共通の敵と対峙する三帝室の物語第一弾。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる