10 / 14
九
しおりを挟む
「グルゥオォォ‼︎‼︎」
憎っくき蔭虎目掛けて
怒りに狂う大鬼が突撃していた。
手足を大きく振り上げ下ろし、
行く先全てを踏み殺さんとする勢いである。
「構え‼︎」
号令とともに三列の横隊が
一斉に弓を引いた。
後方の蔭虎は微笑を浮かべ、
大鬼を見据えた。
「…てぇ‼︎‼︎」
ヒョォ‼︎…ヒュ…
大鬼目掛けて、一斉に矢が放たれた。
飛びゆく様は全て貪る
蝗の大群を思わせる。
「グルゥアァァ‼︎ヌンッ‼︎‼︎」
それを持ってしても大鬼の突進は止まらない。
岩盤を思わせる頑強な肉体は
その悉くを弾き返し、
その一撃一撃が大鬼の怒りを焚きつけた。
「退け!退けぇ‼︎」
雪崩をうって弓兵が
陣の後方へと退却を始めた。
陣の中央から左右に分かれる様は
敗走というにはしなやかであった。
「…菊!………おのれ……聞こえておらん…」
矢の雨を掻い潜り、
必死に跡を追っていた義助だったが、
遂にその足を止めた。
体勢そのままに息を整える。
敵が退きつつある陣に目をやると、
何やら強烈な違和感が感じられた。
まるで大鬼を迎え入れるかのように
見えたからだ。
「‼︎…いかん‼︎」
真意に気づいた義助は
大菊童子の跡を急いで追った。
怒りに狂える大鬼は今
ある危機に気付かぬまま、
砂煙を巻き上げ敵陣へと突進を続けた。
「それぇ、きおったわ‼︎」
そう叫ぶと蔭虎は刀を振り上げ、
号令を掛ける。
「喜蔵が出るぞぉ‼︎はよぉ道を開けぃぃ‼︎‼︎」
声に喜びの色が漏れている。
陣に走った亀裂はついに
御大将の下まで達した。
討ち取る側からすれば
これ以上にありがたい事はない。
死出の道を轟然と
地獄の鬼が駆け上がっていく。
だがその道中にただ一人、
ただ佇む者が見えた。
「邪魔だぁぁぁ‼︎」
戦場に突如現れた
立木目掛けて
大太刀を薙ぎ払った。
瞬間!
その鈍に喜蔵が
飛び乗ったかと思うと
鬼の額から血潮が吹き出した。
叫び声も上がらぬ内に肩を踏みつけ、
背中に一筋の斬撃を繰り出す。
切り傷が大きく口を開け、
墨と見紛う程の
黒い血飛沫が吹き上がった。
ドゴォォォォォン‼︎ズガガガ‼︎
敵将を前にして大菊童子が
その巨体を地に沈める。
「ウゥゥゥゥ…グゥゥゥ…」
呻き声を上げ、血の雨を降らせるそれは
すぐに立ち上がることができなかった。
ヒュッ…
地に降り立った喜蔵は倒れ込んだ
鬼の方を見つめつつ
刀を振り下ろし、汚れを払った。
「………」
一方、守りを固める村にも
大きな危機が迫っていた。
「たっ!…大変だぁ!……大変だぁぁ‼︎‼︎」
完全に落ち着きを失った平助が
村中を駆け回った。
あまりの取り乱し様に
七兵衛が両肩を掴んで尋ねる。
「どうしただ!平助‼︎
落ち着いて話すど‼︎」
揺らしながら問いただす最中、
平助が走ってきた方角が
俄かに騒がしい事に気づいた。
七兵衛は直感で悟った。
「敵だ……伏せてたんだど‼︎」
すぐさま、伝えるべき事を失った
平助を引き寄せ半ば叫ぶ様にこう伝えた。
「爺様に伝えるんだど‼︎
山から敵が来たど‼︎‼︎」
混乱の中にありつつも
しっかりと頷き、
平助は孝蔵の元へと駆けて行った。
それと入れ替わりの様に敵の足軽
が目に飛び込んできた。
ヒュッ…………
七兵衛は即座に槍を前に構えた。
眉間に皺を刻み、
敵を睨みつける。
胸に沸るような怒気と
どこか静かな心を抱えて
しっかりと脚を踏ん張った…
憎っくき蔭虎目掛けて
怒りに狂う大鬼が突撃していた。
手足を大きく振り上げ下ろし、
行く先全てを踏み殺さんとする勢いである。
「構え‼︎」
号令とともに三列の横隊が
一斉に弓を引いた。
後方の蔭虎は微笑を浮かべ、
大鬼を見据えた。
「…てぇ‼︎‼︎」
ヒョォ‼︎…ヒュ…
大鬼目掛けて、一斉に矢が放たれた。
飛びゆく様は全て貪る
蝗の大群を思わせる。
「グルゥアァァ‼︎ヌンッ‼︎‼︎」
それを持ってしても大鬼の突進は止まらない。
岩盤を思わせる頑強な肉体は
その悉くを弾き返し、
その一撃一撃が大鬼の怒りを焚きつけた。
「退け!退けぇ‼︎」
雪崩をうって弓兵が
陣の後方へと退却を始めた。
陣の中央から左右に分かれる様は
敗走というにはしなやかであった。
「…菊!………おのれ……聞こえておらん…」
矢の雨を掻い潜り、
必死に跡を追っていた義助だったが、
遂にその足を止めた。
体勢そのままに息を整える。
敵が退きつつある陣に目をやると、
何やら強烈な違和感が感じられた。
まるで大鬼を迎え入れるかのように
見えたからだ。
「‼︎…いかん‼︎」
真意に気づいた義助は
大菊童子の跡を急いで追った。
怒りに狂える大鬼は今
ある危機に気付かぬまま、
砂煙を巻き上げ敵陣へと突進を続けた。
「それぇ、きおったわ‼︎」
そう叫ぶと蔭虎は刀を振り上げ、
号令を掛ける。
「喜蔵が出るぞぉ‼︎はよぉ道を開けぃぃ‼︎‼︎」
声に喜びの色が漏れている。
陣に走った亀裂はついに
御大将の下まで達した。
討ち取る側からすれば
これ以上にありがたい事はない。
死出の道を轟然と
地獄の鬼が駆け上がっていく。
だがその道中にただ一人、
ただ佇む者が見えた。
「邪魔だぁぁぁ‼︎」
戦場に突如現れた
立木目掛けて
大太刀を薙ぎ払った。
瞬間!
その鈍に喜蔵が
飛び乗ったかと思うと
鬼の額から血潮が吹き出した。
叫び声も上がらぬ内に肩を踏みつけ、
背中に一筋の斬撃を繰り出す。
切り傷が大きく口を開け、
墨と見紛う程の
黒い血飛沫が吹き上がった。
ドゴォォォォォン‼︎ズガガガ‼︎
敵将を前にして大菊童子が
その巨体を地に沈める。
「ウゥゥゥゥ…グゥゥゥ…」
呻き声を上げ、血の雨を降らせるそれは
すぐに立ち上がることができなかった。
ヒュッ…
地に降り立った喜蔵は倒れ込んだ
鬼の方を見つめつつ
刀を振り下ろし、汚れを払った。
「………」
一方、守りを固める村にも
大きな危機が迫っていた。
「たっ!…大変だぁ!……大変だぁぁ‼︎‼︎」
完全に落ち着きを失った平助が
村中を駆け回った。
あまりの取り乱し様に
七兵衛が両肩を掴んで尋ねる。
「どうしただ!平助‼︎
落ち着いて話すど‼︎」
揺らしながら問いただす最中、
平助が走ってきた方角が
俄かに騒がしい事に気づいた。
七兵衛は直感で悟った。
「敵だ……伏せてたんだど‼︎」
すぐさま、伝えるべき事を失った
平助を引き寄せ半ば叫ぶ様にこう伝えた。
「爺様に伝えるんだど‼︎
山から敵が来たど‼︎‼︎」
混乱の中にありつつも
しっかりと頷き、
平助は孝蔵の元へと駆けて行った。
それと入れ替わりの様に敵の足軽
が目に飛び込んできた。
ヒュッ…………
七兵衛は即座に槍を前に構えた。
眉間に皺を刻み、
敵を睨みつける。
胸に沸るような怒気と
どこか静かな心を抱えて
しっかりと脚を踏ん張った…
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
我は魔王なり…
三須田 急
ファンタジー
ここは剣と魔法の世界…
1人の若者は恐るべき魔王から世界を救い、
人々から英雄として歓呼の声で迎えられた…
しかし、貴方は知っているだろうか?
彼の行く末を…
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメンの意味はイケてるメンディーの略
ゆり
ファンタジー
町の小料理屋で働く凛月は、ある日「輝夜(かぐや)」と名乗る男と出会う。彼は、この国では誰もが知る、『ツクヨミ』だった。彼の強さとその意志に、凛月は次第に惹かれていく。凛月と輝夜の、それぞれの壮絶な過去と、地獄のような現状。腐りきったこの世を変えるため、彼は闇を切り開くべく刀を抜いた。
彼の戦いは自由を掴むまで、終わらない。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【R18】絶望の枷〜壊される少女〜
サディスティックヘヴン
ファンタジー
★Caution★
この作品は暴力的な性行為が描写されています。胸糞悪い結末を許せる方向け。
“災厄”の魔女と呼ばれる千年を生きる少女が、変態王子に捕えられ弟子の少年の前で強姦、救われない結末に至るまでの話。三分割。最後の★がついている部分が本番行為です。
英雄の末裔――ヴァイスハイト帝国篇――
三田村優希(または南雲天音)
ファンタジー
神聖不可侵である三帝国がひとつ、ヴァイスハイト帝国。
皇帝ゲオルグが崩御し、皇太子クレメンスが至尊の冠を頭上に頂こうと国内が騒がしくなっている頃。
隣国のプラテリーア公国は混乱に乗じて、国境の一部を我が物にしようと画策していた。全ては愛娘イザベラに大公位を譲位するために。
しかしイザベラ本人は弟である嫡男ロベルトが次期大公と公言して憚らない。
姫将軍と称されるイザベラを皇后に迎えプラテリーア公国を支配下に置こうとクレメンスは考えるが、それが内乱の火種となろうとは、彼は思っていなかった。
封印を守護する三帝室と長きに渡り対峙する魔人が、誕生するきっかけとなる話。
国と時代、主人公を変えて共通の敵と対峙する三帝室の物語第一弾。
最後の封じ師と人間嫌いの少女
飛鳥
ファンタジー
封じ師の「常葉(ときわ)」は、大妖怪を体内に封じる役目を先代から引き継ぎ、後継者を探す旅をしていた。その途中で妖怪の婿を探している少女「保見(ほみ)」の存在を知りに会いに行く。強大な霊力を持った保見は隔離され孤独だった。保見は自分を化物扱いした人間達に復讐しようと考えていたが、常葉はそれを止めようとする。
常葉は保見を自分の後継者にしようと思うが、保見の本当の願いは「普通の人間として暮らしたい」ということを知り、後継者とすることを諦めて、普通の人間らしく暮らせるように送り出そうとする。しかし常葉の体内に封じられているはずの大妖怪が力を増して、常葉の意識のない時に常葉の身体を乗っ取るようになる。
危機を感じて、常葉は兄弟子の柳に保見を託し、一人体内の大妖怪と格闘する。
柳は保見を一流の妖怪退治屋に育て、近いうちに復活するであろう大妖怪を滅ぼせと保見に言う。
大妖怪は常葉の身体を借り保見に迫り「共に人間をくるしめよう」と保見に言う。
保見は、人間として人間らしく暮らすべきか、妖怪退治屋として妖怪と戦うべきか、大妖怪と共に人間に復習すべきか、迷い、決断を迫られる。
保見が出した答えは・・・・・・。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる