1 / 1
ケスラーの雲を抜けて
しおりを挟む
僕が生まれるずっと前、地球と月は喧嘩別れした。
喧嘩と言っても戦争しなかった、でもお互いに相手のことが嫌いになったからこうなってしまったと父さんが言っていた。
「なんでそうなったの?」と聞くと奥からお爺ちゃんが出てきた。
父さんは少々ウンザリした様な顔をしたが、お爺ちゃんは昔の話をしてくれた。
お爺ちゃんが子供だった頃、地球と月はお互いに無いものを補い合っていた。
月からは農産物や機械の材料を代わりに地球からはそれを加工した物を送っていた。
でもその内、月が物を送るのを渋り始めたらしい。
そこからお互いに送り出す荷物の量は減っていき、日を増すごとに険悪になっていった。
先に嫌気が刺したのかどちらなのかわからないが、絶交の日は突然やってきた。
ケスラーの雲が地球を覆ってしまったからだ。
ケスラーの雲…簡単に言うと宇宙のゴミが地球の周囲を覆ってしまって、僕らは宇宙に出られなくなったのだ。
昔のロケットの部品や使わなくなった人工衛星は宇宙のゴミになる。
でもそのゴミは止まっているワケじゃない、拳銃の弾くらい速いスピードで地球の周りを動いている。
そんなものが他のゴミにぶつかればビリヤードの玉みたいにぶつかったゴミを吹っ飛ばす。
しかも、吹っ飛ばされたゴミが更に別のゴミにぶつかってが延々と繰り返される。
それを繰り返す内、ブレイクショット直後のビリヤードテーブルの様に危険な宇宙ゴミが地球の周りを飛び回る事になったのだ。
だから、こんな状態でロケットを飛ばしても宇宙ゴミの弾丸に当たって、ゴミの仲間入りをするだけなのだ。
そんな厄介な雨雲のせいで僕は父さんの畑仕事を年がら年中手伝わされる事となった。
でも父さんが言うには、僕らが渋々でも畑仕事を手伝うおかげで地球は食べる事になんとか困らない様になったらしい。
大好きなアイスクリームが高級品じゃなくなったのも僕が3歳の頃らしいのだ。
とは言っても食べられるのは休みの日の昼下がり、町に買い出しに出る時ぐらいだけど…
買い出しが終わり、いつもの喫茶店に入る。
ドカッと父さんが先に席に着いて、給仕さんに一言「いつもの頼むよ」と声をかける。
その後、父さんはせっかく座った座席を離れて店のおじさんやお客さん達と話を始めた。
どうやら農場や町に落ちてきた宇宙ゴミの話をしているらしい。
僕の方はと言うと、久しぶりのアイスクリームを心待ちにしていた。
すると突然、店の外からけたたましいサイレンの音が聞こえた。
サイレンを聞けば直ぐにわかる、宇宙ゴミが落ちてくるのを知らせる警報だ。
気づいたときには父さんが僕の手を千切れんばかりに強く引っ張り、店中の人が慌てて外に飛び出した。
こういう事があった時は決まって近くの退避壕に入る事になっている。
とても重たくて分厚い扉を開けると薄暗い降り階段が目の前に現れる。
そこを父さんたちと一緒にゆっくりと降っていく。
降りきると地の底まで続いていそうな薄暗い部屋が現れる。
その中でまたサイレンが鳴るまでジッと耐えると言うわけだ。
結局この日は待避壕に2・3時間居たせいで、僕はアイスを食べ損なった。
せっかくの楽しみを1つフイにされたけど実はもう1つある、お爺ちゃんは嫌がってるらしいけど…
父さんの通信機を使って月に向けて交信するんだ。
大昔は大袈裟くらい大きくて複雑な機械を使ったとか聞いたけど今は違う。
僕ぐらいの歳でもやり方を教われば簡単に交信できると言えば、どんなものか想像がつくだろう。
予定通りの時間に通信機を作動させ、電波は分厚いケスラーの雲を抜けて月へ届く。
少々のノイズが聞こえた後「やぁ、コリン。元気にしてたかい?」
「うん!」嬉しくなってつい大きな声で答えてしまった。
交信相手の名前はマイケル、僕より歳上の工専生だ。
彼が聞かせてくれる月の話はいつも面白い。
例えば、ルナ・レスリングのイーゲル・アポロン選手が如何に強くてカッコいいかとか
静かの海で見た地球がとても綺麗だったとかそんな話だ。
そのお返しに僕もなんて事ない日常の出来事を彼に聞かせるんだ。
友達とイタズラを仕掛けて怒られた話とかハリケーンやブリザードが大変だった話みたいな感じ。
それをいつも楽しそうに聞いてくれるので、コチラもとても嬉しくて舌が追いつかないぐらいに早口になったりする。
もっと話していたいけど、いつも大概どちらかに邪魔が入る。
今日は僕の方で父さんに扉の枠をコンコンとノックされ、「そろそろお爺ちゃんが寝るから静かにしなさい」と叱られた。
「わかったよ、もうすぐで終わるから」振り返って返事をすると、父さんはゆっくりと廊下の闇へ消えた。
「ごめん、マイケル…」と謝ると「気にしないで、これに関しちゃあお互いさまじゃないか」と励ましてくれた。
「ありがとう、やっぱり君はいいお兄さんだ」と一言呟く。
少し照れながら「へへ、そうかな?」と返事が返ってきた。
そして、交信を終わる前に僕らは決まってこう返す事に決めている。
「それじゃあ、僕が偉大な一歩を踏むのを待っててね」
「いやいや僕が青い大地を踏むのが先さ」
end
喧嘩と言っても戦争しなかった、でもお互いに相手のことが嫌いになったからこうなってしまったと父さんが言っていた。
「なんでそうなったの?」と聞くと奥からお爺ちゃんが出てきた。
父さんは少々ウンザリした様な顔をしたが、お爺ちゃんは昔の話をしてくれた。
お爺ちゃんが子供だった頃、地球と月はお互いに無いものを補い合っていた。
月からは農産物や機械の材料を代わりに地球からはそれを加工した物を送っていた。
でもその内、月が物を送るのを渋り始めたらしい。
そこからお互いに送り出す荷物の量は減っていき、日を増すごとに険悪になっていった。
先に嫌気が刺したのかどちらなのかわからないが、絶交の日は突然やってきた。
ケスラーの雲が地球を覆ってしまったからだ。
ケスラーの雲…簡単に言うと宇宙のゴミが地球の周囲を覆ってしまって、僕らは宇宙に出られなくなったのだ。
昔のロケットの部品や使わなくなった人工衛星は宇宙のゴミになる。
でもそのゴミは止まっているワケじゃない、拳銃の弾くらい速いスピードで地球の周りを動いている。
そんなものが他のゴミにぶつかればビリヤードの玉みたいにぶつかったゴミを吹っ飛ばす。
しかも、吹っ飛ばされたゴミが更に別のゴミにぶつかってが延々と繰り返される。
それを繰り返す内、ブレイクショット直後のビリヤードテーブルの様に危険な宇宙ゴミが地球の周りを飛び回る事になったのだ。
だから、こんな状態でロケットを飛ばしても宇宙ゴミの弾丸に当たって、ゴミの仲間入りをするだけなのだ。
そんな厄介な雨雲のせいで僕は父さんの畑仕事を年がら年中手伝わされる事となった。
でも父さんが言うには、僕らが渋々でも畑仕事を手伝うおかげで地球は食べる事になんとか困らない様になったらしい。
大好きなアイスクリームが高級品じゃなくなったのも僕が3歳の頃らしいのだ。
とは言っても食べられるのは休みの日の昼下がり、町に買い出しに出る時ぐらいだけど…
買い出しが終わり、いつもの喫茶店に入る。
ドカッと父さんが先に席に着いて、給仕さんに一言「いつもの頼むよ」と声をかける。
その後、父さんはせっかく座った座席を離れて店のおじさんやお客さん達と話を始めた。
どうやら農場や町に落ちてきた宇宙ゴミの話をしているらしい。
僕の方はと言うと、久しぶりのアイスクリームを心待ちにしていた。
すると突然、店の外からけたたましいサイレンの音が聞こえた。
サイレンを聞けば直ぐにわかる、宇宙ゴミが落ちてくるのを知らせる警報だ。
気づいたときには父さんが僕の手を千切れんばかりに強く引っ張り、店中の人が慌てて外に飛び出した。
こういう事があった時は決まって近くの退避壕に入る事になっている。
とても重たくて分厚い扉を開けると薄暗い降り階段が目の前に現れる。
そこを父さんたちと一緒にゆっくりと降っていく。
降りきると地の底まで続いていそうな薄暗い部屋が現れる。
その中でまたサイレンが鳴るまでジッと耐えると言うわけだ。
結局この日は待避壕に2・3時間居たせいで、僕はアイスを食べ損なった。
せっかくの楽しみを1つフイにされたけど実はもう1つある、お爺ちゃんは嫌がってるらしいけど…
父さんの通信機を使って月に向けて交信するんだ。
大昔は大袈裟くらい大きくて複雑な機械を使ったとか聞いたけど今は違う。
僕ぐらいの歳でもやり方を教われば簡単に交信できると言えば、どんなものか想像がつくだろう。
予定通りの時間に通信機を作動させ、電波は分厚いケスラーの雲を抜けて月へ届く。
少々のノイズが聞こえた後「やぁ、コリン。元気にしてたかい?」
「うん!」嬉しくなってつい大きな声で答えてしまった。
交信相手の名前はマイケル、僕より歳上の工専生だ。
彼が聞かせてくれる月の話はいつも面白い。
例えば、ルナ・レスリングのイーゲル・アポロン選手が如何に強くてカッコいいかとか
静かの海で見た地球がとても綺麗だったとかそんな話だ。
そのお返しに僕もなんて事ない日常の出来事を彼に聞かせるんだ。
友達とイタズラを仕掛けて怒られた話とかハリケーンやブリザードが大変だった話みたいな感じ。
それをいつも楽しそうに聞いてくれるので、コチラもとても嬉しくて舌が追いつかないぐらいに早口になったりする。
もっと話していたいけど、いつも大概どちらかに邪魔が入る。
今日は僕の方で父さんに扉の枠をコンコンとノックされ、「そろそろお爺ちゃんが寝るから静かにしなさい」と叱られた。
「わかったよ、もうすぐで終わるから」振り返って返事をすると、父さんはゆっくりと廊下の闇へ消えた。
「ごめん、マイケル…」と謝ると「気にしないで、これに関しちゃあお互いさまじゃないか」と励ましてくれた。
「ありがとう、やっぱり君はいいお兄さんだ」と一言呟く。
少し照れながら「へへ、そうかな?」と返事が返ってきた。
そして、交信を終わる前に僕らは決まってこう返す事に決めている。
「それじゃあ、僕が偉大な一歩を踏むのを待っててね」
「いやいや僕が青い大地を踏むのが先さ」
end
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ワイルド・ソルジャー
アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。
世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。
主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。
旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。
ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。
世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。
他の小説サイトにも投稿しています。
絶世のディプロマット
一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。
レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。
レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。
※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第二部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。
宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。
そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。
どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。
そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。
しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。
この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。
これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。
そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。
そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。
SFお仕事ギャグロマン小説。

アンブラインドワールド
だかずお
SF
これは魂の壮大な物語
人々の意識に覆われた無知と呼ばれるカーテン未知なる世界の幕があがる時
見えなかった壮大な冒険が待っていた!!
『ブラインドワールド』の続編
本編をより深く読むには
『文太と真堂丸』が深く関わっているので、そちらも是非読んでみて下さい。
現在、アマゾンキンドル 読み放題にて検索して頂けると、読めるようになっておりますので、そちらからよろしくお願いします。
戦国時代の武士、VRゲームで食堂を開く
オイシイオコメ
SF
奇跡の保存状態で頭部だけが発見された戦国時代の武士、虎一郎は最新の技術でデータで復元され、VRゲームの世界に甦った。
しかし甦った虎一郎は何をして良いのか分からず、ゲーム会社の会長から「畑でも耕してみたら」と、おすすめされ畑を耕すことに。
農業、食堂、バトルのVRMMOコメディ!
※この小説はサラッと読めるように名前にルビを多めに振ってあります。
エレメンツハンター
kashiwagura
SF
「第2章 エレメンツハンター学の教授は常に忙しい」の途中ですが、3ヶ月ほど休載いたします。
3ヶ月間で掲載中の「第二次サイバー世界大戦」を完成させ、「エレメンツハンター」と「銀河辺境オセロット王国」の話を安定的に掲載できるようにしたいと考えています。
3ヶ月後に、エレメンツハンターを楽しみにしている方々の期待に応えられる話を届けられるよう努めます。
ルリタテハ王国歴477年。人類は恒星間航行『ワープ』により、銀河系の太陽系外の恒星系に居住の地を拡げていた。
ワープはオリハルコンにより実現され、オリハルコンは重力元素を元に精錬されている。その重力元素の鉱床を発見する職業がルリタテハ王国にある。
それが”トレジャーハンター”であった。
主人公『シンカイアキト』は、若干16歳でトレジャーハンターとして独立した。
独立前アキトはトレジャーハンティングユニット”お宝屋”に所属していた。お宝屋は個性的な三兄弟が運営するヒメシロ星系有数のトレジャーハンティングユニットで、アキトに戻ってくるよう強烈なラブコールを送っていた。
アキトの元に重力元素開発機構からキナ臭い依頼が、美しい少女と破格の報酬で舞い込んでくる。アキトは、その依頼を引き受けた。
破格の報酬は、命が危険と隣り合わせになる対価だった。
様々な人物とアキトが織りなすSF活劇が、ここに始まる。

【デス】同じ一日を繰り返すことn回目、早く明日を迎えたい(´;ω;`)【ループ】
一樹
SF
ある日目覚める度に殺されるという、デスループを繰り返してきた主人公。
150回目くらいで、掲示板の住人たちに助言を求めようとスレ立てを思いついた。
結果、このループの原因らしきものをつきとめたのだった。
※同名タイトルの連載版です。短編の方は削除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる