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狼が小鳥を追っちゃあおかしいか?

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思い返せばアイツとの出会いは最悪だった…

その時の俺はとんでもなく空きっ腹で
目がまわるほどだった。

トボトボと俯きながら歩いている時に
アイツを見つけた…

運が良いことにこちらに尻を向け、
小川の水を飲んでいた。

喰う身は少なそうだ…と一瞬感じたが、
そんな選り好みをしている場合でもなかった。
飢え死にしてはならんので狙い定めた。

残りの力を脚に集中させ、
距離を一気に詰める。
すかさず丸っこいアイツ目掛けて、
前脚を突き出し飛びかかった。

その瞬間!

特に驚く様子もなくヒラリと身をかわした。
目標を失った俺の体は無様にも小川に
顔から突っ込んだ。

あぁ、なんて情けない…
今度は俺が尻を突き上げて
水を飲む事になるとは…

しかも生意気な事に
「残念だったわね。オオカミくん」と抜かしやがった。

さらに生意気な事に「私だって簡単に食べられるわけにはいかないの、お腹を空かせて可哀想だけどね」と付け加えやがった。

「じゃあねぇ~」と捨て台詞を残し、
何処かへ飛び去ってしまった。
空きっ腹はイラつきで余計にキリキリと痛んだ。

別の日、偶然にも同じ場所を通りかかった。
あの時は何とか行き倒れる事は無かったが、
アイツに恥をかかされたことは
今思い出しても腹が立つ。

色々と思い出しながら歩いていると
やはりアイツがいた。
しかも、あの時と同じようにこちらに尻を向けて水を飲んでいる。

「………」

余裕綽々なその姿を見て、
無性にヤツを食べてやりたくなった。

空腹でもないのにこう思ったのは不思議だったが、そんな事は直ぐにどうでも良くなった。

今度は確実に仕留めるべく、
慎重に距離を詰めていった。
努力の甲斐あって目と鼻の先にヤツを捉える。

今度こそ間違いなくいける!
そう考えるより早く飛び掛かった‼︎

だがどうだ、アイツは軽々と俺の頭上を
跳び超えた。
お陰で俺はまた川に顔から突っ込むハメになった。

ただでさえ悔しくて恥ずかしいというのに、
ヤツは俺の鼻先にヒラリと乗っかり
こう言った。

「惜しかったわねぇ…もう少しだったのに」

畜生…オマエに言われなくても…と思った直後、ヤツはこう言った。

「木苺の実が落ちてたら、
もっと一生懸命に啄んだけどなぁ…」

なるほどな…

「じゃあね」飛び去る後ろ姿を眺めながら、
俺は勝利を明日の確信していた。

翌日、俺はありったけの木苺を摘んで
いつもの場所に急いだ。
不自然にならないように気をつけて
木苺を落として行くのだが、
もう一つ工夫をしてやる事にした。

何個かの木苺の下に深めの落とし穴を掘り、
軽く蓋をしておいたのだ。
飛び掛かるまでヤツが飛び去らないように
時間を稼ぐための工夫だ。

準備は整った!
後はアイツが罠にかかるのを待つばかりだ。

草むらの影に隠れながら待っていると、
ヤツがフラフラ飛んできた。
今度は仕損じるものかと
ジッと落とし穴の方を見つめる。

どうやら余程の好物らしい、
俺が用意した木苺を美味そうに啄み始めた。
何個か食べた後、
何も知らないヤツは落とし穴がある方に飛び込んだ!

よし!っと思ったのも束の間、
穴の上の木苺を飛び越えてしまった。

惜しいぃ…と思いながら見張け続けていたが、
途中から様子がおかしい事に気がついた。

落とし穴がある木苺を避けて食べられ、それだけ残されてしまったからだ。

「…気付かれてたのか………」

すっかり満足した様子で
「あぁ、美味しかった」とアイツは呟いた。

また負けた…奥歯を噛み締め、熱い視線を向ける。

「きっとあのオオカミさんね、今度お礼しなきゃ」

お礼と言うなら大人しく負けてくれ!
苛立ちとも悔しさとも他のものとも言っていい
心の揺らぎを感じながらそう思った。

今日のところは諦めて帰ろうとした時、
アイツはこう言ったのが聞こえた。

「そろそろ家に帰らないと」
これはチャンスかも知れない…

暗い森の奥深くに木々を縫うように
飛んでいく。
その後ろを静かにつける、
今度こそ絶対に勝つために…

しばらく進むと森の奥に鎮座する巨木に
ヤツの巣があるのを見つけた。

それに向かって飛び去る後ろ姿を見守った。
俺も明日のたまに一旦寝床に帰ろうと踵を返した。

その時だった。

「キャー‼︎」後ろからけたたましい叫び声が聞こえた。
即座に元の場所に駆け戻ると、
巣から飛び出たアイツに
何かが執念く飛びかかろうとしている。

ヘビだ!

牙を突き立てヤツを食うつもりらしい。
追い立てられたアイツは
羽を怪我をしたらしく、地面に落ちた。

ヘビはシメシメと言わんばかりに
体をくねらせながらにじり寄った。

射程圏内に入ったらしく、
「シャァァ」アイツ目掛けて素早く飛びかかった!

しかし、体は浮かんだままだった。
それもそうだ、
俺がヘビの首根っこに噛みついたからだ。

地にしっかりと足をつけ、
咥えたソレを吐き捨てた。

地面に叩きつけられ、
すっかり意気消沈したヘビは
そそくさと森の深くに消えていった。

「…ありがとう、助かったわ」初めて礼を言われた。
「あんなのどうって事ない…」ぶっきらぼうに返す。

「………そうだ!ちょっと顔を近づけて」
「なんだよ!いきなり…」
「いいから」

羽をケガして動きづらそうだったので、渋々顔を近づけてやった。

「チュ…チュ…」

俺の唇に嘴を2回付けてこう言った。

「さっきの分と木苺の分のお礼よ」
「………」


本当…最悪の出会いだ…


end
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みんなの感想(1件)

nekochikuwa
2024.05.03 nekochikuwa

ほんわか ほんのり

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