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12.いつか、きっと

インターハイ⑧

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 レースの後すぐに、黒崎くんへの勝利者インタビューが行われた。
 涙を拭ってしゃくり上げながら電光掲示板に目を向けると、プールから上がったばかりの黒崎くんが映し出される。
 テレビで見たことのあるスポンサーボードの前でのインタビューだ。よく見れば、テレビ中継やマスコミ関係者らしき人たちもいる。
 インターハイがそれだけ大きな試合なのだと、私は改めて実感した。

「優勝おめでとうございます! ライバル対決、制しましたね!」

 インタビュアーの男性が興奮した様子で黒崎くんに束になったマイクを向けると、また歓声と大きな拍手が会場中から湧き起こる。
 大型ビジョンの中で、黒崎くんはまだ肩で息をしながらわずかに頭を下げた。
 
「ありがとうございます。まだ一度しか勝ってないので、やっと同じスタートラインに立てたくらいです」

 優勝したというのに、全く浮かれた様子がない。ちょっと無愛想にも見えてしまういつも通りの無表情が、とても黒崎くんらしい。
 彼が喜びを露わにしたのは、タイムが表示されて優勝が決まったあの瞬間だけだった。

「大和くんの持つ高校記録にあと0.02秒と迫るタイムでした。ライバル対決はこれからも続きますね!」

「次は、塗り替えます」

 強気な発言に、また会場が盛り上がる。
 浮かれているようには見えなくても、彼がこの勝利で気持ちが高揚していることが伝わってきた。

 その後も、今日の泳ぎやレース運びについての質問に丁寧に答えていく。
 そして、今後の目標を尋ねられると、黒崎くんは日に焼けた頬をきゅっと引き締めた。
 
「まずは来月の新人戦、それから今年はユースオリンピックもあるので、世界の強い選手とも渡り合えるようにがんばります」

 未来を見据えるまっすぐな眼差しは、とても力強い。
 彼のひとつひとつの言葉が熱く心を震わせた。

 ……ああ、そうだ。

 当たり前だけれど、これで終わりじゃないんだ。
 黒崎くんはもうこの先を見つめている。
 立ち止まらず、歩んでいく。
 海や学校帰りに話してくれた言葉や彼のまっすぐな想いが、まるで走馬灯のように思い浮かんだ。
 
 黒崎くんだけじゃなく、朝陽くんやこの場所にいる選手はみんな、きっと迷いや葛藤を乗り越えてここに立っている。
 その中で勝てる人はひと握りだ。
 それでも、負けたときの悔しさも辛さも、勝利の喜びも感動も、すべて前に進む力に変えていく。
 たとえ今日負けていたとしても、黒崎くんは絶対に諦めなかっただろう。

 胸が苦しいくらいに熱く疼く。
 その強さが眩しかった。

 ……私も、なれるかな。
 
 うつむかずに立っていられるように。
 自分に負けないように。
 誰も傷つけなくてもいいように。

 いつか、……前に進めるように。

 止まっていた涙が、またじわりとあふれ出す。
 画面の中の黒崎くんの姿を見つめながら、私は小さな決意を胸に刻み込んだ。
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