それはきっと、夜明け前のブルー

遠藤さや

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11.揺れる波間に見えるもの

帰り道④

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 私は何度も声を詰まらせながら、朝陽くんのことを話した。

 大和くんが朝陽くんだったこと。
 夏祭りの日に昔のことを謝ってくれたけれど、受け入れることができなかったこと。
 私がしどろもどろになっても、黒崎くんは急かしたり、もちろん怒ったりもせずに黙って話を聞いてくれた。
 海でもそうだったことを覚えている。
 あの時はその沈黙に不安や戸惑いを覚えたけど、今は大丈夫だって思える。
 手から伝わるぬくもりが、心も繋いでくれているように感じた。

「俺は……北野と大和の間のことに、俺が口出しすべきじゃないって思ってる。北野も望んでないだろうし」

 私が話し終えると、黒崎くんは繋いだ手を引いてゆっくりと歩き出した。
 地面に伸びるふたつの影も手を繋いでいる。
 足元がふわふわとおぼつかない。
 ぎゅっと握られた手がジンジンと痺れている気がした。
 
「……そう思っていたんだけど、大和が祭りで北野に会ったって言うから、大丈夫かなって気になって………」

 気まずそうに口元をすりすりと摩りながら、見上げる私にちらりと視線を送る。
 そして、少し考えるように目を泳がせてから、ぶっきらぼうに言った。

「ほんとは、ちょっと嫉妬もした」

「え?」

 嫉妬って……ヤキモチ?
 黒崎くんが……?

 びっくりして、黒崎くんを見つめたまま目を見開く。
 黒崎くんは、イタズラが見つかった子どもみたいにバツが悪そうな表情かおをしていた。

「良し悪しは別にして、北野の中のアイツってすげぇデカいんだなって思ったら、めちゃくちゃムカついた」

 素直な言葉が胸を甘く軋ませ、鼓動を高鳴らせる。じわじわとまた頬が熱くなっていく。

「あー、ヤバい。俺、ほんとかっこ悪いな」

 日焼けしていてわかりにくいけれど、黒崎くんの頬も赤くなっている気がした。

 最寄駅に降り立つと、夏空はゆっくりと夕暮れに近づいていた。
 わずかに蜂蜜色に染まった雲が、優しい光を散りばめ始めた青空に浮かんでいる。
 ジリジリと肌を焼いていた強い日差しが、少し穏やかになったように感じられた。
 けれど、舗道にはまだ熱気が残っていて、変わらず蒸し暑い。
 駅から家までの道のりをふたりで歩きながら、私はいつまでもこの時間が続けばいいなと思っていた。

 繋いでいた手は、あのあと駅に着いて定期を出すときに自然に離れて、そのままだ。
 もう一度繋ぎたいとは言えなくて、私はまたリュックのストラップを握っていた。

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