それはきっと、夜明け前のブルー

遠藤さや

文字の大きさ
上 下
85 / 109
11.揺れる波間に見えるもの

帰り道②

しおりを挟む
 ……なんて言って切り出そう。

学校を出て駅までの道をふたりで歩きながら、朝陽くんとのことがぐるぐると頭を巡る。
 夏祭りの日はあの場の勢いで黒崎くんを追いかけたから、どう伝えるかまでは考えていなかった。
 不自然な沈黙が続いて、余計に焦っていると、

「そうだ、あの人覚えてる? リレーメンバーのことで揉めてた先輩。皆川さんっていうんだけど」

 黒崎くんが思い出したように話しはじめた。
 思わずぎゅっと身体に力が入る。
 忘れるはずがない。黒崎くんは大丈夫だと言っていたけれど、ずっと気がかりだった。
 もしかして、あの人とまたなにかあったんだろうか。
 心配になってきゅっと眉を寄せると、黒崎くんは自分の眉間を指して笑った。

「北野、顔すげぇ険しくなってる。大丈夫。悪いことじゃなくって、あの人、最近リレーのアドバイスとかしてくれるようになった」

「アドバイス……」

「ん、引き継ぎのタイミングが3泳となかなか合わなかったんだけど、それを見てくれてるから助かってる」

 あ、もしかして、昨日の……。

 黒崎くんが、先輩たちと隣のコースで何度も飛び込みの練習をしていたことを思い出す。真剣に取り組む彼らからは、嫌がらせや悪意なんて全く感じられなかった。

「すごいね。よかった……嬉しい」

 海で黒崎くんが言っていた、認めてくれるまでがんばるしかないって言葉が頭に浮かび、じわりと胸が熱くなった。

「まだ全然これからだけど」

 そう言いながらも、黒崎くんは少し照れたようにわずかに頬をゆるめる。
 彼が嬉しそうなことが、一番嬉しかった。
 黒崎くんの笑顔を見ていると、胸がきゅうっと苦しくなる。嬉しいのに切ないような、不思議な気持ち。
 けれど、今日はそれに後ろめたさを感じるのは、私が朝陽くんのことを話せていないからなんだろうか。

 ふたりの間に、さっきより優しい沈黙が流れる。
 本当はこのまま、朝陽くんの話なんてしたくない。
 こんなふうに笑って話せるようになったのに、それがなくなってしまうんじゃないかと怖くてためらってしまう。
 私は、昔も今も変わらず弱虫だ。

 夕方近くになって太陽が目に見えて傾きはじめても、日差しは少しも陰ることなく照りつけていた。
 三日間の補習で日焼けした肌がヒリヒリと痛む。
 足元から伸びる影は、地面に焼けついたように色濃かった。
 それが、私の中の消えない黒い感情を表しているように思えて、あわてて目を逸らす。
 
 ……ああ、そっか。

 私は、朝陽くんを許せない自分を黒崎くんに知られたくないんだ。
 すべてを知った彼に、どう思われるかを恐れているんだ。
 それを自覚して、さらに心が重くなった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ
青春
K市内一と言われる超絶美少女の高校三年生柊美久。そして同じ高校三年生の武智悠斗は、何故か彼女に絡まれ疎まれる。何をしたのか覚えがないが、とにかく何かと文句を言われる毎日。だが、それでも彼女に歯向かえない事情があるようで……。疋田美里という、主人公がバイト先で知り合った可愛い女子高生。彼女の存在がより一層、この物語を複雑化させていくようで。 しょっぱなヒロインから嫌われるという、ちょっとひねくれた恋愛小説。

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

【完結】カワイイ子猫のつくり方

龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。 無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

M性に目覚めた若かりしころの思い出

kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

処理中です...