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11.揺れる波間に見えるもの
帰り道②
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……なんて言って切り出そう。
学校を出て駅までの道をふたりで歩きながら、朝陽くんとのことがぐるぐると頭を巡る。
夏祭りの日はあの場の勢いで黒崎くんを追いかけたから、どう伝えるかまでは考えていなかった。
不自然な沈黙が続いて、余計に焦っていると、
「そうだ、あの人覚えてる? リレーメンバーのことで揉めてた先輩。皆川さんっていうんだけど」
黒崎くんが思い出したように話しはじめた。
思わずぎゅっと身体に力が入る。
忘れるはずがない。黒崎くんは大丈夫だと言っていたけれど、ずっと気がかりだった。
もしかして、あの人とまたなにかあったんだろうか。
心配になってきゅっと眉を寄せると、黒崎くんは自分の眉間を指して笑った。
「北野、顔すげぇ険しくなってる。大丈夫。悪いことじゃなくって、あの人、最近リレーのアドバイスとかしてくれるようになった」
「アドバイス……」
「ん、引き継ぎのタイミングが3泳となかなか合わなかったんだけど、それを見てくれてるから助かってる」
あ、もしかして、昨日の……。
黒崎くんが、先輩たちと隣のコースで何度も飛び込みの練習をしていたことを思い出す。真剣に取り組む彼らからは、嫌がらせや悪意なんて全く感じられなかった。
「すごいね。よかった……嬉しい」
海で黒崎くんが言っていた、認めてくれるまでがんばるしかないって言葉が頭に浮かび、じわりと胸が熱くなった。
「まだ全然これからだけど」
そう言いながらも、黒崎くんは少し照れたようにわずかに頬をゆるめる。
彼が嬉しそうなことが、一番嬉しかった。
黒崎くんの笑顔を見ていると、胸がきゅうっと苦しくなる。嬉しいのに切ないような、不思議な気持ち。
けれど、今日はそれに後ろめたさを感じるのは、私が朝陽くんのことを話せていないからなんだろうか。
ふたりの間に、さっきより優しい沈黙が流れる。
本当はこのまま、朝陽くんの話なんてしたくない。
こんなふうに笑って話せるようになったのに、それがなくなってしまうんじゃないかと怖くてためらってしまう。
私は、昔も今も変わらず弱虫だ。
夕方近くになって太陽が目に見えて傾きはじめても、日差しは少しも陰ることなく照りつけていた。
三日間の補習で日焼けした肌がヒリヒリと痛む。
足元から伸びる影は、地面に焼けついたように色濃かった。
それが、私の中の消えない黒い感情を表しているように思えて、あわてて目を逸らす。
……ああ、そっか。
私は、朝陽くんを許せない自分を黒崎くんに知られたくないんだ。
すべてを知った彼に、どう思われるかを恐れているんだ。
それを自覚して、さらに心が重くなった。
学校を出て駅までの道をふたりで歩きながら、朝陽くんとのことがぐるぐると頭を巡る。
夏祭りの日はあの場の勢いで黒崎くんを追いかけたから、どう伝えるかまでは考えていなかった。
不自然な沈黙が続いて、余計に焦っていると、
「そうだ、あの人覚えてる? リレーメンバーのことで揉めてた先輩。皆川さんっていうんだけど」
黒崎くんが思い出したように話しはじめた。
思わずぎゅっと身体に力が入る。
忘れるはずがない。黒崎くんは大丈夫だと言っていたけれど、ずっと気がかりだった。
もしかして、あの人とまたなにかあったんだろうか。
心配になってきゅっと眉を寄せると、黒崎くんは自分の眉間を指して笑った。
「北野、顔すげぇ険しくなってる。大丈夫。悪いことじゃなくって、あの人、最近リレーのアドバイスとかしてくれるようになった」
「アドバイス……」
「ん、引き継ぎのタイミングが3泳となかなか合わなかったんだけど、それを見てくれてるから助かってる」
あ、もしかして、昨日の……。
黒崎くんが、先輩たちと隣のコースで何度も飛び込みの練習をしていたことを思い出す。真剣に取り組む彼らからは、嫌がらせや悪意なんて全く感じられなかった。
「すごいね。よかった……嬉しい」
海で黒崎くんが言っていた、認めてくれるまでがんばるしかないって言葉が頭に浮かび、じわりと胸が熱くなった。
「まだ全然これからだけど」
そう言いながらも、黒崎くんは少し照れたようにわずかに頬をゆるめる。
彼が嬉しそうなことが、一番嬉しかった。
黒崎くんの笑顔を見ていると、胸がきゅうっと苦しくなる。嬉しいのに切ないような、不思議な気持ち。
けれど、今日はそれに後ろめたさを感じるのは、私が朝陽くんのことを話せていないからなんだろうか。
ふたりの間に、さっきより優しい沈黙が流れる。
本当はこのまま、朝陽くんの話なんてしたくない。
こんなふうに笑って話せるようになったのに、それがなくなってしまうんじゃないかと怖くてためらってしまう。
私は、昔も今も変わらず弱虫だ。
夕方近くになって太陽が目に見えて傾きはじめても、日差しは少しも陰ることなく照りつけていた。
三日間の補習で日焼けした肌がヒリヒリと痛む。
足元から伸びる影は、地面に焼けついたように色濃かった。
それが、私の中の消えない黒い感情を表しているように思えて、あわてて目を逸らす。
……ああ、そっか。
私は、朝陽くんを許せない自分を黒崎くんに知られたくないんだ。
すべてを知った彼に、どう思われるかを恐れているんだ。
それを自覚して、さらに心が重くなった。
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