それはきっと、夜明け前のブルー

遠藤さや

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11.揺れる波間に見えるもの

補習③

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「息継ぎのときに身体が沈むのは、呼吸しようとして頭を上げすぎるからなんだよね。足を着けたままでいいから、息継ぎのときに左腕に左耳をくっつけて呼吸してみて」

「はいっ」

 まず私の泳ぎを見てふたりが問題点をピックアップ。それをひとつずつ横井さんが解説、黒崎くんが実技して見せてくれた。ひとつ練習して、私ができるようになれば、次のステップに進む。

 横井さんが自分で言っていたとおり、彼女の教え方は丁寧でとてもわかりやすかった。黒崎くんも、私が理解しやすいようにと横井さんの指示通りにお手本を見せてくれる。
 ただ闇雲にもがいていた手足を意識して動かすだけで、こんなにも違うのかと驚いた。
 もしかしたら、泳げるようになるかもしれない。
 私のその期待が伝わったのか、黒崎くんの指導にも段々と熱が入り、泳いでいる私への直接指導が始まった。

「上半身を起こしすぎると下半身が沈んでしまうから、身体を水平に保つことを意識して」

「タイミングがわからないなら、息継ぎと手の動きをセットで考えて。水をかく手が太ももを通りすぎるくらいに息継ぎしてみて」

「息継ぎのときの目線は斜め後ろ。上を見ると身体が沈むから」

「きつくてもキックは休まない」

 ……鬼だ、水泳の鬼がいる。

 練習のはじめは、スクロールのときに黒崎くんが私の手を持ったり、息継ぎのときにあごに触れて顔の角度を変えたりすることが恥ずかしくて、意識してしまっていた。頬もきっと赤くなっていたに違いない。
 けれど、指導が進むにつれて、あまりのハードさにそんなことを考えている余裕なんてなくなった。

 いつの間にか横井さんは黒崎くんに指導を完全にバトンタッチしていて、戻ってきた部員さんとプールサイドで楽しそうに話をしている。
 それを視界の端に映しながら、私は全力で水をかき、息を吸った。
 
 朝陽くんの顔は、浮かばなかった。
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