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10.夏祭り
水色⑤
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「あ、詩ちゃん! 黒崎くんの夏みかん!」
ママの声を背中に聞きながら、玄関を飛び出す。キョロキョロとまわりを見回しても、通りには人影は見えない。
たしか……遠足の帰りに送ってもらったときは、黒崎くんはこっちの方に帰って行った。
同じ町内だって言っていたから、彼の家はそこまで遠くはないはずだ。
記憶を辿り、私は今日二度目の全速力で黒崎くんを追いかけた。
朝陽くんは、黒崎くんの友達だ。
水泳のライバルで、仲が良いことも知っている。打ち明けても、困らせるだけかもしれない。
でも、黒崎くんには本当のことを伝えたい。ちゃんと向き合いたい。
お願い、間に合って……。
そう必死に祈りながら角を曲がろうとしたときだった。
「ブルー、また散歩してたんだな」
まがり角の向こうから聞こえてきた声に、ドキッと心臓が大きく脈打つ。とっさに壁に張り付いて身を隠した。
え、……ブルー?
うるさいくらいに高鳴る鼓動をなだめて、じっと聞き耳を立てる。
「ばぁちゃんが心配するから、早く帰れよ」
それは紛れもなく黒崎くんの声で、返事をするようにニャアオと鳴く声は、いつも聞くブルーのものだった。
どういうこと……?
頭の中を疑問符がぐるぐると回る。
ブルーを知っているってことは、黒崎くんは花さんの知り合いなんだろうか。
「ばあちゃんが心配する」って、まさか黒崎くんは花さんの孫……?
だけど、花さんに私と同じ歳の孫がいるなんて聞いたことがなかった。
頭が混乱して、考えがまとまらない。壁から少しだけ覗くと、地面に月明かりが映し出した大小ふたつの長い影が見えた。
気づかれないように、すぐにまた壁を背に身を潜める。声をかけることができなくて、私はそのまましばらく動けなかった。
黒崎くんとブルーがいなくなってから、急いで家に帰って今まで花さんからもらった手紙をすべて読み返した。
やっぱり孫がいることは書いていない。
けれど、何度も手紙を読み返しているうちに、私はピンク色の便せんのときと水色の便せんのときとでは筆跡が違うことに気づいた。
これ、どうして……。
ドクンドクンと、心臓が痛いくらいに高鳴る。
ハッと思い出して、私は棚からお気に入りの小物入れを取り出した。中には、黒崎くんと授業中にやり取りしたノートの切れ端が入っている。
それをおそるおそる開いて、花さんからの手紙と照らし合わせた。
「嘘……」
思わず、小さな呟きがこぼれる。
切れ端に書かれた黒崎くんの綺麗な字は、水色の便せんの文字と、全く同じに見えた。
ママの声を背中に聞きながら、玄関を飛び出す。キョロキョロとまわりを見回しても、通りには人影は見えない。
たしか……遠足の帰りに送ってもらったときは、黒崎くんはこっちの方に帰って行った。
同じ町内だって言っていたから、彼の家はそこまで遠くはないはずだ。
記憶を辿り、私は今日二度目の全速力で黒崎くんを追いかけた。
朝陽くんは、黒崎くんの友達だ。
水泳のライバルで、仲が良いことも知っている。打ち明けても、困らせるだけかもしれない。
でも、黒崎くんには本当のことを伝えたい。ちゃんと向き合いたい。
お願い、間に合って……。
そう必死に祈りながら角を曲がろうとしたときだった。
「ブルー、また散歩してたんだな」
まがり角の向こうから聞こえてきた声に、ドキッと心臓が大きく脈打つ。とっさに壁に張り付いて身を隠した。
え、……ブルー?
うるさいくらいに高鳴る鼓動をなだめて、じっと聞き耳を立てる。
「ばぁちゃんが心配するから、早く帰れよ」
それは紛れもなく黒崎くんの声で、返事をするようにニャアオと鳴く声は、いつも聞くブルーのものだった。
どういうこと……?
頭の中を疑問符がぐるぐると回る。
ブルーを知っているってことは、黒崎くんは花さんの知り合いなんだろうか。
「ばあちゃんが心配する」って、まさか黒崎くんは花さんの孫……?
だけど、花さんに私と同じ歳の孫がいるなんて聞いたことがなかった。
頭が混乱して、考えがまとまらない。壁から少しだけ覗くと、地面に月明かりが映し出した大小ふたつの長い影が見えた。
気づかれないように、すぐにまた壁を背に身を潜める。声をかけることができなくて、私はそのまましばらく動けなかった。
黒崎くんとブルーがいなくなってから、急いで家に帰って今まで花さんからもらった手紙をすべて読み返した。
やっぱり孫がいることは書いていない。
けれど、何度も手紙を読み返しているうちに、私はピンク色の便せんのときと水色の便せんのときとでは筆跡が違うことに気づいた。
これ、どうして……。
ドクンドクンと、心臓が痛いくらいに高鳴る。
ハッと思い出して、私は棚からお気に入りの小物入れを取り出した。中には、黒崎くんと授業中にやり取りしたノートの切れ端が入っている。
それをおそるおそる開いて、花さんからの手紙と照らし合わせた。
「嘘……」
思わず、小さな呟きがこぼれる。
切れ端に書かれた黒崎くんの綺麗な字は、水色の便せんの文字と、全く同じに見えた。
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