それはきっと、夜明け前のブルー

遠藤さや

文字の大きさ
上 下
75 / 109
10.夏祭り

水色①

しおりを挟む
 ずいぶん早い時刻に車で帰宅したボロボロの私を見て、ママは悲鳴を上げた。
 無理もない。浴衣は着崩れどころか破れていて泥までついているし、髪は汗で乱れてぐちゃぐちゃだ。白石さんが転んだと説明してくれなかったら、問い詰められて大変だっただろう。

「今日はごめんなさい……ありがと」

 白石さんは、帰り際に小さい声で謝ってくれた。
 今日のことを、白石さんのせいにするつもりは全くない。あのとき、彼女を追うと決めたのは私だ。それに、あのまま放って逃げていた方が後悔していたはずだから。
 けれど、お風呂に入ると、ぼろぼろと涙があふれ出てきた。
 今日の出来事が走馬灯のように頭を駆け巡る。
 白石さんと走って逃げたこと。みんなに迷惑や心配をかけたこと、黒崎くんに会えなかったこと。朝陽くんとのこと。

「う、うぅ……」

 堪えきれずに嗚咽が漏れた。

 ……こんなはずじゃなかった。

 浴衣を着て、黒崎くんと一緒に歩いて、由真ちゃんや夏梨ちゃんと笑って……。
 視界が滲んで、みんなの顔が見えなくなる。自分で思っていたよりもずっと今日のことを楽しみにしていたんだと、私は今さらながらに実感した。

 ひとしきり泣いてお風呂から出ると、縁側でブルーが待っていた。
 首をかしげる姿を見て、またぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。お風呂であんなに泣いたのに、まだ涙が残っていた。

「待っててくれたの?」

 まるで返事をするみたいに、やわらかな身体を膝にすり寄せてくる。そうっと撫でると、ブルーはそのまま私の膝に乗り、腕に首を置いてくつろぎはじめた。

 わわ……。

 ブルーが膝に乗るなんて、初めてのことだ。気持ちが弱っているってわかるんだろうか。
 膝に感じるぬくもりと重みが、心を優しく包んでくれている気がした。

「黒崎くんに謝らなきゃ……」

 膝の上のブルーを撫でながら、大きなため息が漏れる。けれど、学校は今日から夏休みに入ったし、私は彼の連絡先を知らない。
 水泳の補習のときにプールで会えればいいけれど、会えなければ謝るのは何週間も先になってしまう。

「でも、謝って許してくれるかな……」

 怒ってるかな。怒ってるよね。せっかく誘ってくれたのに、台無しにしてしまった。
 1時間以上待たせた上に何も言わずに帰るなんて、失礼もいいところだ。

 いろいろ考えてまたじわりと目頭が潤む。
 ブルーは私を見上げて、ニャアオと甘えるように鳴いた。 
 きっと励ましてくれてるんだ。
 そう思うと、ちょっとだけ元気が出た。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俯く俺たちに告ぐ

青春
【第13回ドリーム小説大賞優秀賞受賞しました。有難う御座います!】 仕事に悩む翔には、唯一頼りにしている八代先輩がいた。 ある朝聞いたのは八代先輩の訃報。しかし、葬式の帰り、自分の部屋には八代先輩(幽霊)が! 幽霊になっても頼もしい先輩とともに、仕事を次々に突っ走り前を向くまでの青春社会人ストーリー。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...