それはきっと、夜明け前のブルー

遠藤さや

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10.夏祭り

水色①

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 ずいぶん早い時刻に車で帰宅したボロボロの私を見て、ママは悲鳴を上げた。
 無理もない。浴衣は着崩れどころか破れていて泥までついているし、髪は汗で乱れてぐちゃぐちゃだ。白石さんが転んだと説明してくれなかったら、問い詰められて大変だっただろう。

「今日はごめんなさい……ありがと」

 白石さんは、帰り際に小さい声で謝ってくれた。
 今日のことを、白石さんのせいにするつもりは全くない。あのとき、彼女を追うと決めたのは私だ。それに、あのまま放って逃げていた方が後悔していたはずだから。
 けれど、お風呂に入ると、ぼろぼろと涙があふれ出てきた。
 今日の出来事が走馬灯のように頭を駆け巡る。
 白石さんと走って逃げたこと。みんなに迷惑や心配をかけたこと、黒崎くんに会えなかったこと。朝陽くんとのこと。

「う、うぅ……」

 堪えきれずに嗚咽が漏れた。

 ……こんなはずじゃなかった。

 浴衣を着て、黒崎くんと一緒に歩いて、由真ちゃんや夏梨ちゃんと笑って……。
 視界が滲んで、みんなの顔が見えなくなる。自分で思っていたよりもずっと今日のことを楽しみにしていたんだと、私は今さらながらに実感した。

 ひとしきり泣いてお風呂から出ると、縁側でブルーが待っていた。
 首をかしげる姿を見て、またぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。お風呂であんなに泣いたのに、まだ涙が残っていた。

「待っててくれたの?」

 まるで返事をするみたいに、やわらかな身体を膝にすり寄せてくる。そうっと撫でると、ブルーはそのまま私の膝に乗り、腕に首を置いてくつろぎはじめた。

 わわ……。

 ブルーが膝に乗るなんて、初めてのことだ。気持ちが弱っているってわかるんだろうか。
 膝に感じるぬくもりと重みが、心を優しく包んでくれている気がした。

「黒崎くんに謝らなきゃ……」

 膝の上のブルーを撫でながら、大きなため息が漏れる。けれど、学校は今日から夏休みに入ったし、私は彼の連絡先を知らない。
 水泳の補習のときにプールで会えればいいけれど、会えなければ謝るのは何週間も先になってしまう。

「でも、謝って許してくれるかな……」

 怒ってるかな。怒ってるよね。せっかく誘ってくれたのに、台無しにしてしまった。
 1時間以上待たせた上に何も言わずに帰るなんて、失礼もいいところだ。

 いろいろ考えてまたじわりと目頭が潤む。
 ブルーは私を見上げて、ニャアオと甘えるように鳴いた。 
 きっと励ましてくれてるんだ。
 そう思うと、ちょっとだけ元気が出た。
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