それはきっと、夜明け前のブルー

遠藤さや

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10.夏祭り

夏祭り⑦

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 見上げれば、オレンジ色から濃い紫色のグラデーションを作りながら空が夜へと近づいていく。離れた場所にある夜店の明かりがこちらまで漏れとどいて、楽しげなざわめきが遠い世界のことみたいに感じられた。

「ねぇ、私が言うのもなんだけど、時間いいの?」

 白石さんにそう言われて、ハッと気づく。

「あ、待ち合わせ……!」

 焦って時計を確認すると、19時をとうにすぎていた。

 どうしよう、待ち合わせ……。

 何の連絡もせず、一時間以上も待たせてしまっている。
 もう帰っちゃったかな。待ってくれているかな。
 ぐるぐる考えて、ますます焦りがせり上がってきた。
 アワアワしながら、急いで立ち上がって浴衣についた土をはらう。けれど、裾にべったりとついた泥は取れなかった。
 よく見れば、走っている途中にひっかけたのか、裾が少しやぶれてしまっている。首元も裾もはだけていて、着崩れどころじゃない。綺麗に結い上げた髪も、汗で乱れてぐちゃぐちゃだ。

 ……会えない。こんな姿、黒崎くんに見られたくない。

 じわじわと涙がこみ上げる。ぐっと奥歯を噛んでそれを堪えていると、バッグの中でスマホがピコンと鳴った。

 慌てて画面を開いて、何件も電話やメッセージの着信の表示があることに気づく。全部、由真ちゃんと夏梨ちゃんだった。


『どこにいるの? 黒崎くんが心配してるよ』 

『何かあった?』 
『大丈夫? 無事?』

『黒崎と一緒にいるから連絡して』


 ひとつひとつメッセージを確認して、胸が苦しくなる。
 すぐに電話をかけて説明したかったけれど、泣いてしまうのがわかっているからできなかった。


『連絡できなくてごめんなさい
 転んでしまって休んでました
 浴衣がやぶれちゃったので、このまま帰ります
 詳しくはまた連絡します
 心配かけて本当に本当にごめんなさい
 黒崎くんにも伝えてください
 また学校で謝ります』


 そこまで打って、画面にぽたりと涙が落ちる。いろんな感情がごちゃ混ぜになって、何の涙かもうわからなかった。
 それを拭ってメッセージを送る。スマホの電源を切ると、また涙があふれた。

「ねぇ、帰るの? 帰るなら送っていくわ。迎えを呼ぶから」 

 このままじゃ電車にも乗れない。そう思って素直に頷いたとき、後ろから声がした。

「詩」

 反射的にビクッと身体が跳ねる。
 夢の中で何度も聞いた声に、浴衣の袖の下で肌が粟立つ。
 信じられない思いでふり向いて、思わず後ずさった。
 そこには、つらい思い出の人の面影を残した大和くんーー朝陽くんが立っていた。
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