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10.夏祭り
夏祭り②
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「お祭り行くんでしょ? 私も神社で待ち合わせなの。一緒に行きましょ」
「えっ、あ、えっと……」
警戒を促す由真ちゃんたちの言葉が頭に浮かび、焦ってしどろもどろになる。そんな私を白石さんはクスクス笑って、返事を待たずに歩き出した。
神社までの道路の両端には、ずらりと夜店がならぶ。今はまだそんなに人通りは多くないけれど、帰りはかなり混みそうだ。
「私も浴衣にすればよかったなぁ」
少し唇を尖らせて、私を振り返る。白を纏った白石さんはいつも以上に可憐でかわいくて、雑踏の中でも彼女だけ縁取られたように鮮やかに映る。それに今日は、言葉に棘が感じられなかった。
黒崎くんとの約束までは、時間がある。彼はまだ来ていないだろう。
待ち合わせ相手を聞かれたら正直に言うべきかを考えていると、なんだか悪いことをしている気分になってくる。
機転を利かせて駅で待ち合わせだと断ればよかったのだと気づいたときには、もう神社の鳥居が見えていた。
夏の夕暮れは遅くて、空はまだ日の光を残して明るい。神社に着いても夜の気配はほとんど感じられなかった。
日没まではまだ長そうだな、と思いながら待ち合わせの鳥居を確認していると、隣で白石さんが呻き声を上げて地面にしゃがみ込んだ。
「白石さん、どうしたの? どこか痛い?」
「お腹……痛い、みたい」
絞り出すように言って、白石さんはぎゅっと私の腕をつかんだ。眉を寄せ、痛みに顔を歪めている。
「どこかで休みたい」と言う白石さんを支えてキョロキョロとまわりを見まわすと、鳥居の向こうに彼女の友達を数人見つけた。
「百合ちゃん、大丈夫?」
しゃがみ込む白石さんに気づいて、あわてて駆け寄ってくる。おそらく遠足のときに一緒にいた人たちだ。
「北野さん、悪いけど手伝ってくれる? 中の空いてる場所で休ませたいの」
そう言って私が答える前に数人分のバッグを差し出し、白石さんの身体を支える。
私は頷いてそれを受け取り、一緒に境内に入った。よろよろと歩く白石さんはすごく辛そうで、病院に行かなくていいのかと心配になってくる。
参道の両側にならぶ夜店の間を通って脇道に入り、とりあえず人気のない社務所の奥にある花壇の縁に白石さんを座らせた。
かなり痛むのか、白石さんは俯いてお腹を押さえたまま動かない。
お腹を温めた方がいいだろうけれど、わたしは羽織るものを何も持って来ていなかった。おまけに、白石さんの友達は飲み物を買いに行っていてそばには私だけしかいない。体調が悪いときに心を許せる人がそばにいないのはきっと不安だろう。
そう思うと何かせずにはいられなくて、私は隣に座って丸まる背中をそうっと撫でた。
華奢な肩にグッと力が入る。触れられたくなかったかな、と思ったけれど、白石さんは何も言わなくて、私はそのまま背中を撫で続けた。
「えっ、あ、えっと……」
警戒を促す由真ちゃんたちの言葉が頭に浮かび、焦ってしどろもどろになる。そんな私を白石さんはクスクス笑って、返事を待たずに歩き出した。
神社までの道路の両端には、ずらりと夜店がならぶ。今はまだそんなに人通りは多くないけれど、帰りはかなり混みそうだ。
「私も浴衣にすればよかったなぁ」
少し唇を尖らせて、私を振り返る。白を纏った白石さんはいつも以上に可憐でかわいくて、雑踏の中でも彼女だけ縁取られたように鮮やかに映る。それに今日は、言葉に棘が感じられなかった。
黒崎くんとの約束までは、時間がある。彼はまだ来ていないだろう。
待ち合わせ相手を聞かれたら正直に言うべきかを考えていると、なんだか悪いことをしている気分になってくる。
機転を利かせて駅で待ち合わせだと断ればよかったのだと気づいたときには、もう神社の鳥居が見えていた。
夏の夕暮れは遅くて、空はまだ日の光を残して明るい。神社に着いても夜の気配はほとんど感じられなかった。
日没まではまだ長そうだな、と思いながら待ち合わせの鳥居を確認していると、隣で白石さんが呻き声を上げて地面にしゃがみ込んだ。
「白石さん、どうしたの? どこか痛い?」
「お腹……痛い、みたい」
絞り出すように言って、白石さんはぎゅっと私の腕をつかんだ。眉を寄せ、痛みに顔を歪めている。
「どこかで休みたい」と言う白石さんを支えてキョロキョロとまわりを見まわすと、鳥居の向こうに彼女の友達を数人見つけた。
「百合ちゃん、大丈夫?」
しゃがみ込む白石さんに気づいて、あわてて駆け寄ってくる。おそらく遠足のときに一緒にいた人たちだ。
「北野さん、悪いけど手伝ってくれる? 中の空いてる場所で休ませたいの」
そう言って私が答える前に数人分のバッグを差し出し、白石さんの身体を支える。
私は頷いてそれを受け取り、一緒に境内に入った。よろよろと歩く白石さんはすごく辛そうで、病院に行かなくていいのかと心配になってくる。
参道の両側にならぶ夜店の間を通って脇道に入り、とりあえず人気のない社務所の奥にある花壇の縁に白石さんを座らせた。
かなり痛むのか、白石さんは俯いてお腹を押さえたまま動かない。
お腹を温めた方がいいだろうけれど、わたしは羽織るものを何も持って来ていなかった。おまけに、白石さんの友達は飲み物を買いに行っていてそばには私だけしかいない。体調が悪いときに心を許せる人がそばにいないのはきっと不安だろう。
そう思うと何かせずにはいられなくて、私は隣に座って丸まる背中をそうっと撫でた。
華奢な肩にグッと力が入る。触れられたくなかったかな、と思ったけれど、白石さんは何も言わなくて、私はそのまま背中を撫で続けた。
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