それはきっと、夜明け前のブルー

遠藤さや

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8.わたしはまだ恋を知らない

恋する気持ち

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今日の花さんからの手紙には、


『夜明け前の空を見たことがありますか?
 ブルーの目の色に似ていて、とても綺麗です』


 短くそう書かれていた。

 夜明け前の空は、ブルーの目の色……。

 口の中で呟きながらブルーの青い瞳をのぞき込み、同じ空の色を想像して小さく息がもれた。
 今日の手紙の内容に、水色の便せんはぴったりだ。もしかしたら花さんは、内容で便せんの色を変えているのかもしれない。
 ピンク色の便せんのときは、元気で明るい。水色の便せんのときは、文章は短いけれどいつも優しい感じがした。
 さっそくお返事を書こうとして、ふっと既視感が頭をよぎる。けれど、それはほんの一瞬で、何なのかをつかむ前にすぐに消えていった。

 何だったのかな、今の。

 不思議に思いながらも縁側に寝転んで続きを書いていると、ブルーが腕にやわらかな身体をすり寄せてきた。

「ふふっ。もうひとつおやつ食べる?」

 尋ねながら、今までは床に置いていたおやつを、思いきって手のひらに置いてみる。ブルーが私の手から直接なにかを食べたことはまだない。

 まだ早いかな……。

 ドキドキして見ていると、ブルーは小さな舌を出して私の手からさかなの形をしたおやつを食べた。

 わ、食べたっ。

 嬉しくて足をバタバタしたくなるのを我慢して、じっとブルーを見つめる。愛おしさがじわじわとこみ上げてきた。
 そおっと手を伸ばして撫でると、チリンと鈴を鳴らして、手に顔をすり寄せてくる。気持ちいいのか、喉がゴロゴロと鳴っている。かわいい。

「ブルーのことなら、かわいいとか好きだとか、はっきりわかるのになぁ」

 思わず心の声がこぼれ出た。
 今日見た黒崎くんのイタズラっぽい笑顔がふっと浮かび、また胸が苦しくなる。

 これが、好きってことなんだろうか。
 つかめない自分の心がもどかしい。初めての気持ちなのに、みんなどうしてそれが恋だとわかるんだろう。

「誰か教えてくれないかなぁ」

 ため息まじりに呟くと、ブルーがニャアオと優しく鳴いた。まるで慰めようとしてくれているみたいだ。

「ね、花さんならなんて言うかな?」

 以前手紙に恋の言葉を書いてくれたことを思い出す。少し恥ずかしいけれど、花さんなら答えてくれるかもしれない。
 私はちょっと考えて、手紙の最後に文を付け足した。


『私は恋をしたことがないので、この気持ちが恋なのかどうか、よくわかりません
 花さんはどんなときに、この人が好きなんだなって、思いますか?』


 折りたたんだ紙をブルーの首輪に結びつける。
 いつもは手紙を結んだらすぐに帰ってしまうのに、ブルーはまだ座ったまま動かなかった。

 どうやら今日はもう少しいてくれるらしい。
 撫でると、またゴロゴロと喉を鳴らす。ちょっとずつ距離が縮まっていくことが嬉しい。ブルーも私のことが好きだといいな。

「想いに色が着いて、目に見えたらいいのにね」

 私の言葉を聞いて、ブルーは賛同するみたいにニャアオと高く鳴いた。
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