54 / 109
8.わたしはまだ恋を知らない
約束①
しおりを挟む
水泳は苦手だけれど、水泳が終わった後の授業は、お気に入りの時間だ。
教室に漂うかすかな塩素の匂いと、身体に残る心地よい気だるさが眠気を誘う。クーラーの冷気でひんやりと冷たくなった身体に、窓から差し込む陽光がじわじわと染み込んでくる。
……ふわふわする。
今日はたくさん泳いだからか、まだ水の中にいるみたいな浮遊感が抜けない。
この前の海の日みたいだ。
黒崎くんがいつも眠そうにしているの、わかるなぁ。
そう思いながら、ちょっとだけ目を閉じる。
教科書を朗読する先生の声が、子守唄みたいに優しい。いつもはうるさいセミの声も、カツカツと響くチョークの音も、遠くに聞こえた。
少しだけのつもりが、いつの間にか寝てしまっていたようで、目を開けて一瞬ここがどこかわからなかった。
机の上に頬を乗せたまま、ぼんやりと目だけを動かすと、隣の席の黒崎くんと目が合う。
……あ、黒崎くんだ。
薄く霞がかった視界の中で、頬杖をついて私を見ていた黒崎くんが、ふっと目を細めた。
あ、笑った。
笑ってくれるの、何回目かなぁ。
嬉しくなって、頬がふにゃっとゆるむ。それを見て、黒崎くんがまた笑った。こんなふうに笑ってくれるなんてあの海以来だ。
ふふっ、いい夢……このまま覚めないでほしいなぁ。
と、思ったところで、もやに覆われていた頭が画面が切り替わるみたいに突然覚醒した。
「……っ」
目の前で、黒崎くんが笑いながら私を見ている。
ゆ、夢じゃない……っ。
びっくりして目を見開き、ガバッと起き上がると、黒崎くんが手のひらで口を押さえて顔をそむけた。
う、うう……恥ずかしい。
顔は見えなくても、震える肩で彼が笑っていることがわかる。
よりによって黒崎くんの方を向いて寝てしまうなんて。おまけに寝ぼけて笑いかけちゃうし。
よだれ、垂れてなかったかな。寝言とか言ってないよね。
口元を確かめ、きっと真っ赤になっているだろう熱い頬を両手で包んで、隠すようにうつむく。
もう一生黒崎くんの顔、見られない……。
そう思って小さくなっていると、隣から小さく折りたたまれた紙が飛んできた。
これ、黒崎くんから……?
確かめたくても黒崎くんの方は恥ずかしくて見られない。
おそるおそる紙を開いてみると、千切られたノートの切れ端に綺麗な字が書かれていた。
教室に漂うかすかな塩素の匂いと、身体に残る心地よい気だるさが眠気を誘う。クーラーの冷気でひんやりと冷たくなった身体に、窓から差し込む陽光がじわじわと染み込んでくる。
……ふわふわする。
今日はたくさん泳いだからか、まだ水の中にいるみたいな浮遊感が抜けない。
この前の海の日みたいだ。
黒崎くんがいつも眠そうにしているの、わかるなぁ。
そう思いながら、ちょっとだけ目を閉じる。
教科書を朗読する先生の声が、子守唄みたいに優しい。いつもはうるさいセミの声も、カツカツと響くチョークの音も、遠くに聞こえた。
少しだけのつもりが、いつの間にか寝てしまっていたようで、目を開けて一瞬ここがどこかわからなかった。
机の上に頬を乗せたまま、ぼんやりと目だけを動かすと、隣の席の黒崎くんと目が合う。
……あ、黒崎くんだ。
薄く霞がかった視界の中で、頬杖をついて私を見ていた黒崎くんが、ふっと目を細めた。
あ、笑った。
笑ってくれるの、何回目かなぁ。
嬉しくなって、頬がふにゃっとゆるむ。それを見て、黒崎くんがまた笑った。こんなふうに笑ってくれるなんてあの海以来だ。
ふふっ、いい夢……このまま覚めないでほしいなぁ。
と、思ったところで、もやに覆われていた頭が画面が切り替わるみたいに突然覚醒した。
「……っ」
目の前で、黒崎くんが笑いながら私を見ている。
ゆ、夢じゃない……っ。
びっくりして目を見開き、ガバッと起き上がると、黒崎くんが手のひらで口を押さえて顔をそむけた。
う、うう……恥ずかしい。
顔は見えなくても、震える肩で彼が笑っていることがわかる。
よりによって黒崎くんの方を向いて寝てしまうなんて。おまけに寝ぼけて笑いかけちゃうし。
よだれ、垂れてなかったかな。寝言とか言ってないよね。
口元を確かめ、きっと真っ赤になっているだろう熱い頬を両手で包んで、隠すようにうつむく。
もう一生黒崎くんの顔、見られない……。
そう思って小さくなっていると、隣から小さく折りたたまれた紙が飛んできた。
これ、黒崎くんから……?
確かめたくても黒崎くんの方は恥ずかしくて見られない。
おそるおそる紙を開いてみると、千切られたノートの切れ端に綺麗な字が書かれていた。
11
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
鮫島さんは否定形で全肯定。
河津田 眞紀
青春
鮫島雷華(さめじまらいか)は、学年一の美少女だ。
しかし、男子生徒から距離を置かれている。
何故なら彼女は、「異性からの言葉を問答無用で否定してしまう呪い」にかかっているから。
高校一年の春、早くも同級生から距離を置かれる雷華と唯一会話できる男子生徒が一人。
他者からの言葉を全て肯定で返してしまう究極のイエスマン・温森海斗(ぬくもりかいと)であった。
海斗と雷華は、とある活動行事で同じグループになる。
雷華の親友・未空(みく)や、不登校気味な女子生徒・翠(すい)と共に発表に向けた準備を進める中で、海斗と雷華は肯定と否定を繰り返しながら徐々に距離を縮めていく。
そして、海斗は知る。雷華の呪いに隠された、驚愕の真実を――
全否定ヒロインと超絶イエスマン主人公が織りなす、不器用で切ない青春ラブストーリー。
あずさ弓
黒飛翼
青春
有名剣道家の息子として生まれる来人。当然のように剣道を始めさせられるも、才能がなく、親と比較され続けてきた。その辛さから非行を繰り返してきた彼は、いつしか更生したいと思うようになり、中学卒業を機に地元を出て叔母の経営する旅館に下宿することに決める。
下宿先では今までの行いを隠し、平凡な生活を送ろうと決意する来人。
しかし、そこで出会ったのは先天性白皮症(アルビノ)を患う梓だった。彼女もまた、かつての来人と同じように常人と比較されることに嫌気がさしているようで、周囲に棘を振りまくような態度をとっていた。来人はそんな彼女にシンパシーを感じて近づこうとするのだが、彼女はさらに重いものを抱えていたようで……
来人の生き様と梓の秘密が絡み合ったとき。そこに生まれる奇跡の出来事は必見―。
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる