それはきっと、夜明け前のブルー

遠藤さや

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7.晴れた日は海へ行こう

浮遊感

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 海で拾った小石を電灯の光に透かしてみる。透きとおった濃い青の中にある黒や金銀の細かい粒が、きらきらと光ってとても綺麗だ。

「見て、ブルーの目の色に似てない? 海で拾ったの」

 小石をブルーの目の前に差し出すと、ブルーは顔を近づけてクンクンと鼻を鳴らす。

 ふふっ、かわいい。

 ブルーが間違えて食べないように小石をポケットにしまって、今度はおやつを小さくちぎって床の上に置いた。

「今日はね、黒崎くんが何度も笑ってくれたんだよ。いつもはこんなふうに不機嫌な顔してるのに」

 指で眉間を押さえてしかめっ面をして見せると、おやつを食べ終えたブルーが首を動かしてニャアオと鳴く。まるで頷いているみたいに見えて、思わず笑ってしまう。

「砂浜を裸足で歩いて、綺麗な石を拾って、いろんな話をして、波もかぶって、ずぶ濡れになって……すごく楽しかったの」

 今日の出来事のひとつひとつが、きらきらと輝いて頭に浮かぶ。潮の香りや波の音も、まだ鮮明に思い出せる。
 けれど、すべてが眩しすぎて、遠い昔のことのようにも思えた。

「本当に、すごくすごく楽しかったの。でも、思い出すと、悲しくないのに涙が出ちゃいそうになる……」

 話していると、喉の奥が熱くなる。
 海から帰ってきてから、私はずっと身体がふあふあしていた。
 日焼けをしたせいなのか、海水をかぶってしまったせいなのか、泳いだあとみたいな浮遊感が抜けない。
 目を閉じると、穏やかな波の音や眩しい太陽の光、そして、黒崎くんの笑顔や困ったような表情かおが浮かんでくる。
 そのたびに胸が苦しくなったり、手足をバタバタして床を転げ回りたくなったり、じわりと涙が滲んだりした。

「朝陽くんの話をしたからかなぁ」

 黒崎くんは、朝陽くんのことを聞いても「そんなことくらいで」とバカにしたり、否定したりしなかった。黙って私の話を聞いて、まっすぐで嘘のない言葉を返してくれた。
 私は、あれから何度も、黒崎くんが海で言ってくれたことを心の中で繰り返した。
 傷つけないって言ってくれたことも、自分のことを話してくれたことも。
 全部があったかくて、くすぐったくて、優しくて……。
 じわじわと視界が潤む。

「嬉しいのに、おかしいよね……」

 やわらかいブルーの身体をなでると、少し気持ちが和らぐ。
 きっと、今日は嬉しかったり恥ずかしかったり、いろんな感情が忙しくて、心が追いついていないせいだ。
 それに、黒崎くんがお祭りに誘ってくれたことも、私の中でまだうまく整理できていなかった。
 朝陽くんのことを聞いて、リハビリ的な意味で誘ってくれたんだろうか。落ち着いて考えてみれば、それが一番しっくりくる。
 それに、自分が一緒に行くと即答したことも不思議だった。緊張や不安よりも嬉しさの方が大きいことに驚いていた。

「よし、書けた!」

 花さんへの手紙には、もうすぐ始まる期末テストの話と、今日アクシデントから海へ行って、ブルーの瞳に似た色の石を拾ったことを書いた。

『今日見たぴかぴかの青空も綺麗だけど、私はブルーの目のような深い青色も好きです』 

 そう書き足して、便せんを折りたたむ。
 ブルーは首輪に手紙を結ぶことに慣れたのか、最近では結びやすいように首を伸ばしてくれるようになった。

「また明日ね。気をつけて帰ってね」

 いつものように声をかけると、ブルーは返事代わりにチリンと鈴を鳴らした。
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