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7.晴れた日は海へ行こう

砂浜③

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「あ」

 黒崎くんがふっと後ろを振り向く。その声に重なって、運行再開のアナウンスが駅の方から聞こえてきた。
 ふたりとも線路の方に目を向けたまま、黙り込む。
 それは、この時間の終わりを告げていた。 

「服も乾いてきたし、行こう」

 黒崎くんが立ち上がる。素直に頷いたけれど、この小さな冒険がもうすぐ終わってしまうことを、私はとても寂しく感じていた。

 帰ったら、また戻っちゃうのかな……。

 スカートについた砂を払いながら、ちらりと黒崎くんを盗み見る。同じように砂を払う彼の横顔からは、先ほどの余韻はまったく感じ取れなかった。

 黒崎くんは、近づいたと思えば遠ざかる。今日の出来事も、なかったことみたいになってしまうんだろうか。 
 それを思うと、胸がチクチク痛んだ。
 靴下と靴を履いて、ごわごわする制服を気にしながら駅まで戻ってくると、ホームの掲示板に貼ってあった夏祭りのポスターが目に留まった。

 わ、お祭りがあるんだ……。

 7月の下旬に、この駅の海の反対側にある神社で開催されるらしい。駅から神社までの道には夜店がならび、砂浜では花火が打ち上がると書いてある。
 去年の夏に引っ越し前の学校の友だちと浴衣を着てお祭りに行ったことを思い出して、ちょっとしんみりしてしまう。
 今年は、由真ちゃんと夏梨ちゃんと行けるかな。
 念のために日付を写真に撮っておこうと鞄からスマホを取り出す。

「祭り、行きたいの?」

 黒崎くんが私の肩越しにポスターを覗き込む。声が近くて、胸の辺りがまたきゅうっと苦しくなった。

「は、はい。行きたいなって、思って……」

 動揺を悟られないように平静を装って写真を撮っていると、

「一緒に行く? この日なら関東大会も終わってるし」

「えっ」

 思わず大きな声を出してふり向く。聞き間違いじゃないかと、スマホを握りしめて黒崎くんの目をじっと見つめてしまった。

「祭り、行く? 一緒に」

 おさない子に話すように、黒崎くんはちょっと笑いながら、わざと区切ってゆっくりと繰り返す。
 からかわれているのかな、と思ったけれど、いろいろ考える前に、私は首がもげるほど頷いていた。

「じゃあ、約束な」

 ぶっきらぼうに言って、黒崎くんがふいっと目をそらす。

 お祭り……約束……。

 ちょうど到着した電車にそのまま乗り込んだけれど、足元がふわふわしておぼつかない。
 胸がドキドキと高鳴る。もう寂しさは感じなかった。
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