それはきっと、夜明け前のブルー

遠藤さや

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7.晴れた日は海へ行こう

砂浜①

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 穏やかな波が初夏の日差しを照り返して輝き、きらきら光る海面が白っぽく霞んでいるように見える。快晴の今日は、水平線が綺麗に見渡せた。
 見上げると、日の光が空いっぱいに散りばめられていて、澄んだ青が眩しい。太陽が高くなったせいか、さっきよりも日差しが強く感じる。海水をかぶった肌はじりじりと音を立てて焼けて、すでに熱を持ちはじめていた。

 私たちは砂浜から上がり、階段にならんで座って濡れた制服を着たまま乾かしていた。
 洗わないと潮の匂いは取れないだろうし、乾いても潮が固まってごわごわになっちゃいそうだ。
 手でスカートのシワを伸ばしながら、ちらりと隣を見ると、黒崎くんはぼんやりと海を眺めていた。
 ずっと水泳を続けているからか、光に透けると彼の髪は少し茶色く見える。学校にいたら、きっと気づかなかったことだ。
 胸の奥がなんだかくすぐったくて、自然と口元がゆるむ。心をなでるように聞こえてくる波音が、ふたりの間の沈黙を優しいものに変えてくれているように思えた。
 少し前までは、話すことはおろか目を合わせることさえできなかったのに、今こうしてならんで海を見ているなんて、人生なにが起こるかわからない。

 黒崎くんも、そう思っているかな……。

 けれど、こっそり様子を伺っても、無表情な横顔からは彼が何を考えているのかまったく読み取れなかった。

 さっき、何を言おうとしていたんだろう。
 
 考えても答えは出ない。
 もちろん尋ねる勇気もなくて、私は彼と同じように黙ってまた海を眺めた。
 そうして、さっきの黒崎くんの言葉を何度も反芻する。心がじわりと潤んで、また涙が出そうになった。

 平日の午前中だということもあり、人はあまりいない。梅雨が明ければ、週末には海水浴客でいっぱいになるだろう。こんなに空いている初夏の海を見られるのは貴重かもしれない。
 宝石を散りばめたように光る海をぼんやりと眺めていると、隣で黒崎くんが口を開いた。

「この前、ごめんな」

「え?」

「江口とプールに来てたとき」

 更衣室での水泳部の先輩とのことだと気づいて、あせって首を横に振る。
 まさか、こんなふうに黒崎くんの方から話題に出してくるとは思わなかった。

「ううん。わ、私の方こそ、おせっかいで……」

 本当は今でも気になっていた。毎日こっそり、黒崎くんがどこかに怪我をしていないか確かめていたくらいだ。

「あれから……その、どう……?」

「ああ、風当たりがキツいのはいつもだし、大したことない。大丈夫」

 勇気をふり絞って尋ねた私に、黒崎くんは何でもないことみたいにさらりと答える。強がって言っているようには見えなかった。

 ……大丈夫って。

 一方的に悪意をぶつけられて、そんな状況で部活に参加するのって全然大丈夫には思えない。あの時だって、黒崎くんは殴られて怪我をしていた。
 それなのに、どうして彼が何でもないことのように言い切れるのか不思議だった。
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