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7.晴れた日は海へ行こう

海へ④

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 視線の先で、透きとおった青色の石が波に押し流されて砂の上をコロコロと転がる。ブルーを思い出して、震える指でそれを拾ってそっと握りしめた。

「俺は」

 黒崎くんがようやく口を開く。思わずぎゅっと肩に力が入る。

「俺は、その朝陽ってヤツじゃねぇよ」

 怒ったような呟きは、すぐに波音に消えた。
 ギシ、と油の切れたブリキ人形みたいに胸が軋む。指先が冷たく痺れて、痛い。

 ……言わなきゃよかった。

 さっきよりも、もっと大きな後悔がこみ上げてくる。
 私はきっと、伝え方を間違えたんだろう。けれど、謝ろうと思っても、もう言葉は出てこなかった。
 何も言えず、奥歯を噛みしめて涙をこらえる。
 しばらくして、黒崎くんはちょっと苛立ったようにガシガシと頭を掻いた。

「北野」

 名前を呼ばれて、ビクッと身体がすくむ。
 なにを言われるのか、すごく怖い。
 逃げ出したい気持ちでおそるおそる顔を上げると、すぐ近くに見えた瞳はまっすぐに私を見つめていた。

「俺は、あの英語の授業のときみたいに思ったことがすぐ態度や口に出るし、怖がらせたりイヤな思いをさせたりしないとは言えねぇけど……でも、そんなことしないから」

 え……。
 
 驚いて固まる私から目をそらすことなく、黒崎くんは静かな、でも力強い声で続けた。

「北野のこと、わざと傷つけたりは絶対にしない」

 ぽろりと涙がこぼれ落ちる。
 言葉が、きらきらと輝く光の粒みたいに目に見えた気がした。

「あ、ご、ごめ……な、さ」

 あわてて手の甲で隠すように涙を拭う。それでも、涙は次から次へとあふれて、止まってくれなかった。

「そんなに擦ると、目が腫れる」

 大きな手が私の手首を掴む。目の前に、困ったような表情の黒崎くんが見えた。

 ……あ。

 視線が絡まり、一瞬、時が止まる。
 
 波の音も、砂浜の向こうを走る車の音も、まるで消えてしまったみたいに、聞こえない。
 私の鼓動だけが、ふたりの間に大きく響いているように感じた。
 黒崎くんの唇がスローモーションみたいにゆっくりと動く。そして、なにか言おうとしたそのとき、

「わっ」

「きゃあっ」  

 ざぶりとやってきた大きな波が、しゃがみ込む私たちをずぶ濡れにして、現実の世界に引き戻した。
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