それはきっと、夜明け前のブルー

遠藤さや

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7.晴れた日は海へ行こう

海へ②

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 砂浜までは、1分もかからなかった。
 屋根のある駅のホームにいたときと違って、照りつける太陽が眩しい。すでにジリジリと肌が焼けはじめている。

「せっかくここまで来たのに、海行かないまま帰るのはもったいないだろ。それに、ここからなら電車が動けばすぐわかるし」

 そう言いながら、黒崎くんは靴と靴下を脱ぎ、制服のズボンの裾を膝下までまくり上げて砂浜に入っていく。

 ……もしかして、海に入るのかな。

 砂浜の手前の階段で立ち止まって見ていると、黒崎くんはくるりとこちらをふり向いた。

「何してんの。北野も、早く」

「えっ」

「そのままじゃ、海に入れないだろ」

 当たり前のことのように言って、砂の上で私を待っている。
「私は見てるからいいです」とは言えなくて、素足になることにちょっと恥ずかしさを感じながら靴と靴下を脱ぐ。靴の中に畳んだ靴下を入れて、私はそっと砂浜に足を踏み入れた。
 粒の細かな砂のさらさらした感触が、気持ちがいい。真夏には熱くて素足では歩けない砂浜も、初夏の午前中はまだ心地よい温かさだ。 
 濡れていない砂はやわらかくて、油断して歩くと足を取られて何度もバランスを崩しそうになった。

「あー、泳ぎてぇ」

 すでにふくらはぎまで海に入っている黒崎くんが、波に足を洗わせながら大きな声を出す。
 あんなに毎日泳いでいてもそう思うことに驚いてしまう。泳ぐのが苦手な私には、考えられないことだ。

「黒崎くん、泳ぐの、好きなんだね」

「ん、水を見ると泳ぎたくなる」

 素直に答えてくれる黒崎くんがなんだか小さな子どもみたいに見えて、つい頬がゆるむ。
 楽しそうな黒崎くんにつられて、私も波打ち際まで進んでみた。ざざざと波が打ち寄せて、私の足を濡らす。水は意外にまだ冷たかった。

 白い模様を描きながら足元に寄せてきた波が引いて、足の下で砂がさらさらと崩れてさらわれていく。
 少しくすぐったいような不思議な感覚が面白くて、波が打ち寄せるタイミングで足の指をぐにぐにと動かしていると、すぐそばで声がした。

「俺も、その感触好き」

 ドキッとして顔を上げると、目の前に黒崎くんがいて、私の足元を見下ろしていた。

 わ、わわ、近いっ。 

 うつむいた横顔が私の肩のすぐ隣に見えて、身体にぐっと力が入る。彼の日に焼けた肌や、すっと通った鼻筋、意外と長いまつ毛まではっきり見えた。 
 ふいに、黒崎くんをイケメンだと言っていた夏梨ちゃんの言葉を思い出す。

 ……ほんとだ、すごく整ってる。

 今までは怖くてちゃんと見る余裕がなかったから気づかなかったけれど、黒崎くんはとても綺麗な顔立ちをしていた。
 なるほど、これは女子のみなさんが放っておかないわけだ。
 近さにドキドキしながらも目を離せずにいると、黒崎くんがふっと顔を上げた。
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