それはきっと、夜明け前のブルー

遠藤さや

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7.晴れた日は海へ行こう

海へ①

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「今出たところで、次の電車が15分後くらいだって」

「あ、ありがとう、ございます。あの、私も、しました連絡、今」

「なんでカタコト」

 小さく笑いながら、私の隣に座る。額の傷が気になって、私は風を気にするふりをして前髪をそっと手で押さえた。

「俺、海見るの久しぶり」

 黒崎くんの声がいつもより優しく聞こえる。海から吹く風がさわさわと頬をなでて通りすぎていく。
 ホームには私たちの他に人はいなくて、一面に広がる光の海が、なんだかすごく遠くまで来たような気にさせた。

「あ、私も……」

「北野は初めてだろ、海」

「……」

 やっぱりさっきのはからかわれていたんだとわかって、ちょっと唇がとがる。
 黒崎くんはいたずらっぽく目を細めて、今日何度目かの笑顔を私に向けた。 
 う、ずるいなぁ。いつもはぶっきらぼうなのに、たまに見せる笑顔が優しいとか。

 ほんと、ずるい……。

 胸がまた、きゅううっと音を立ててくぼむ。
 由真ちゃんたちは、正しい。雨の中で不良少年が捨て猫に傘を差し出している場面を見たときって、きっとこんな感じなんだ。
 ふたりの話を思い出してひとりで納得していると、ポーンと軽い電子音が鳴り、その後にアナウンスが流れた。

「ーー駅付近で信号機故障が発生し、列車運行を見合わせております。安全が確認でき次第、発車いたしますのでーー」

 信号機の故障……。

 声を追いかけるように天井を見上げてアナウンスを聞いていた黒崎くんが、わずかに眉を下げる。

「当分、動きそうにないな」

 信号機の故障って、どれくらいかかるんだろう。これじゃあHRや1時間目どころか、午前中の授業に間に合うかすらあやしい。 
 申し訳なさで、穴の開いた風船みたいにしゅるしゅると気持ちがしぼんでいく。そもそも、自分の失態に黒崎くんを巻き込んでいるのに浮かれている私……穴があったら入りたい。

「あの、黒崎くん……ごめん、なさい」

 頭を下げると、呆れたようなため息が落ちてきた。

「北野が信号機壊したの?」

「……壊してはない、です」

「じゃあ、謝る必要ないだろ。俺が勝手について来たんだし。それより行こう」

 ぷるぷると首を横ぶりする私に、黒崎くんは何でもないことのように言って、さっと立ち上がる。「でも」や「だって」と反論する余地は1ミリもなかった。

「え、ど、どこに?」

「海。目の前にあるんだし、ここで待つよりずっといいだろ」

 ぶっきらぼうに返す黒崎くんは、いつもより楽しそうに見えた。
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