それはきっと、夜明け前のブルー

遠藤さや

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7.晴れた日は海へ行こう

電車④

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「綺麗……」

 子どもみたいに窓に張り付く私を、すぐ近くの座席に座る人がクスクス笑っている。それに気づいて、私は恥ずかしくなってちょっと肩を竦めた。

「もしかして、海見るの初めての人?」

 頭の上から、笑いまじりのからかうような声が落ちてくる。ふり仰ぐと、黒崎くんは窓の外を見るためにさっきより近い位置にいて、大きな身体にトンと肩が触れた。

 あ。

 間近くで目が合い、ふたりとも一瞬固まる。

「え、あ、み、見たこと、あり、ます」

 なんとかそれだけ言って、私はあわてて俯いた。心臓がまた大きな音を立てて早鐘を打つ。頬がじわじわと熱くなっていく。

 うっ、やだ。赤くならないで……。

 そう思えば思うほど、頬が赤くなっていくのがわかった。耳まで熱を持ちはじめている。
 私はもう顔を上げることができなくなった。

「赤くなられると、俺までうつる」

 困ったような呟きが耳に届く。いつもの黒崎くんのぶっきらぼうな声とは少し違って聞こえて、また胸がぎゅっと軋んだ。

「ご、ごめん、なさい……」

 小さな声で謝って、くるりと窓の方に向き直る。私は両手で頬を隠し、ひたすら窓の外を見て熱がおさまるのをじっと待った。
 ガタンと電車が大きく揺れて、到着前のアナウンスが流れる。次の駅で開閉扉が変わると聞いて、ホッと息をついた。

 よかった……私、このままじゃ心臓がもたない。

 そう思うのに、寂しさに似た感情が胸を横切る。それが何なのか、私にはわからなかった。 

「北野、着いたら香川あたりに遅刻するって連絡しといて。俺の分も」

「あ、は、はい」

 話しかけられて、背筋をぴんと伸ばして答える。ちらっと見ると、黒崎くんは私から離れて、何事もなかったように扉の上に掲示している路線図を確認していた。

 自分のことなのに何にもしてない、私……。

 ちょっと焦って、同じように路線図を見上げる。学校から5駅先まで来てしまっていて、さらに申し訳なさが募った。
 ようやく電車が駅に着き、久しぶりにこちら側の扉が開く。やっとスカートが解放されて自由の身だ。
 ホームに降り立ってぐぐーっと身体を伸ばすと、道路を挟んですぐ向こうに一面の海が見えた。

 わ、駅からも海が見えるんだ……。

 目の前に広がる白銀の輝きに、思わず目を奪われる。私は深呼吸をして、潮風を肺いっぱいに吸い込んだ。
 このことは、今日の手紙に書こう。そうだ、写真を撮って由真ちゃんたちにも見せよう。
 名案を思いついて、鞄の中をガサゴソしてスマホを探していると、ポンと軽く背中を叩かれた。

「時刻表見てくる」

「えっ、あっ。は、はいっ」

 私が風景を堪能しているうちに、黒崎くんはもう次の行動にうつっている。

 同じ高校生なのに、この違い……。

 状況を忘れてはしゃいでいる自分が恥ずかしくて、急いで鞄の中からスマホを取り出し、近くのベンチに座って由真ちゃんにメッセージを送る。
 電車の扉にスカートが挟まって降りられなかったこと、遅刻しちゃうこと、黒崎くんが一緒について来てくれたこと。
 簡潔に書いて、これでいいかなと確認していると、黒崎くんが戻ってきた。
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