それはきっと、夜明け前のブルー

遠藤さや

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7.晴れた日は海へ行こう

電車①

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 今日は朝から眩しいくらいの快晴だった。
 梅雨明けはまだ先だろうけれど、久しぶりに青く晴れ上がった空は、まるで長い雨の時期が終わったみたいに澄み渡っている。

「詩、まだいたの? 時間は大丈夫なの?」

 洗濯カゴを抱えたママが洗面所を覗いて、私がまだいることにびっくりしている。
 無理もない。いつもなら30分以上前に家を出ているんだから。

「大丈夫! あと、もうちょっと」

 どうしても髪の跳ねが直らなくて、仕方なくひとつに結んでいくことにしたけれど、なかなか上手くいかなかった。
 ポニーテールには、いい思い出がない。幼稚園にポニーテールをして行った日は必ず、馬のしっぽだとからかわれ、結った髪をひっぱられてぐちゃぐちゃにされた。
 今でも髪をひとつに結ぶたびに、朝陽くんのことを思い出してちょっと憂鬱になってしまう。
 やっと結び終えて時計を見ると、遅刻ギリギリの電車の時刻が迫ってきていた。

「わ、やばい!」

 徒歩10分の駅までの道のりを、全速力で走って3分で電車に飛び乗る。けれど、乗れたことに安心していた私は、息を整える間もなく通勤通学ラッシュの洗礼を受け、もみくちゃになった。

 く、苦しい……っ。

 扉の近くにいたせいで、駅に到着するたびに出たり入ったりを繰り返し、最後には駅員さんにぎゅうぎゅうと背中を押されて詰め込まれる。
 明日から何があっても絶対、早い電車に乗ろう。これじゃあ学校に着く前にぺっちゃんこだ。

 学校の最寄り駅まで、あと数駅。
 うう、それまでの我慢……。

 そう考えて扉に張り付いて耐えていたけれど、私はそれよりも降りられるかどうかの問題だと気づいた。
 こちらの扉は開かないから、降りるまでに反対側の扉に移動しなきゃならない。でも、電車内は身動きすらできないくらいにすし詰め状態だ。
 鞄を胸の前で抱きしめながらルートを確保しようとまわりを見まわすと、同じ学校の人たちの集団と、そこから少し離れた場所に見覚えのある横顔を見つけた。

 ……あ、黒崎くんだ。

 背が高いから、まわりの人より頭ひとつ分出ていてよく目立つ。 
 今日は、朝練はなかったのかな。
 プールで物騒な場面に遭遇した日から、あのことについては何も話していない。そもそも隣に座っていても、黒崎くんと話すこと自体少ないのだけれど。
 迷惑そうに見えた黒崎くんの表情かおを思い出し、ずしりと心が重くなる。
 感情の読み取れない無表情な横顔をじっと見つめていると、黒崎くんがふっとこちらを向いた。
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