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6.雨の日の憂鬱

白石さん

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 梅雨に入り、何日も雨が続いた。
 雨が降るとブルーは来ない。それだけで雨の日は本当に憂鬱になる。
 今日も早朝から小雨が降り続いていた。


「北野さん、おはよう」

 いつも通り早く登校して手洗い場で花瓶に花を生けていると、ポンと軽く背中を叩かれた。静かだった校舎に、ちらほらと生徒が登校しはじめている。
 挨拶を返そうと肩越しに振り向いて、胸がざわりと波立つ。そこには、女の子がふたり立っていた。

「お花、綺麗ね。持って来たの?」

 首を傾げるようにして私に笑いかける彼女には見覚えがあった。
 長く艶やかな髪ときらきらと輝く大きな瞳が、お人形さんみたいに愛らしい。遠足で囲まれた時に真ん中にいた女の子だ。
 私の記憶では、こんなふうに友好的に話しかけるような雰囲気ではなかったけれど。

「うん、庭で咲いたから……」

 綺麗だからとママが持たせてくれた紫陽花だ。淡い黄と薄紫のパステルカラーがとても可愛い。
 にこやかに話しかけられたことに戸惑いながらも、何も気にしていないふりをして答える。でも、あまりうまくいかなかったらしく、

「やだ、もしかして警戒してる?」

 雨音に包まれた静かな廊下に楽しげに弾んだ声が響く。ドキッとして口をつぐむ私に、彼女はふふっと笑って細い肩をすくめた。

「大丈夫よ。謝ろうと思って話しかけたの。この前はごめんね。みんなが勘違いしちゃって。邪魔な芽は早めに摘まなきゃって、思ったみたいなの。北野さんはもうフラれてるのにね」

 邪魔な芽……。

 決して謝っているようには思えなくて返事に困ってしまう。黒崎くんのことも否定したかったけれど、余計にややこしくなりそうで躊躇われた。

「百合子、やめなよ」

 彼女の隣でそれまで黙っていた背の高いショートヘアの女の子が大きなため息を吐く。遠足の時に一緒にいた人だ。

「本当のことだもの、いいでしょ」

「そんなことばっかり言ってると顔が歪むよ」

「もうっ、マリちゃんは黙ってて!」

 突然始まったふたりの言い合いに困惑していると、階段の方から話し声が聞こえてきた。そろそろ他の生徒も登校してくる時間だ。

「ほら、行くよ。英表の課題写すんでしょ」

「はぁい。北野さん、またね」

 そう言って、少し不満そうに唇を尖らせながら引っ張られていく。

 何だったんだろう。
 せっかく知り合ったから、仲良くしたかったとか……ないよね。
 敵意を向けられるよりは、ずっといいけれど……。

 心に残るモヤモヤを感じながら花瓶の底についた水滴をふきんで拭き取っていると、後ろから声がした。

「おはよ、詩。今の白石さん? 仲良かったっけ?」

「もしかしてライバル宣言された?」

 聞き慣れた声にホッとして振り向く。
 けれど、なんと言っていいかわからず、首を傾げる由真ちゃんと目を輝かせる夏梨ちゃんに曖昧に笑い返すことしかできなかった。
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