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4.ハードモードなハイキング
ハイキング①
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昼食と後片付けが終わると、ハイキングが再開された。
午前中と同じように、班ごとに時間差で出発してチェックポイントを通りゴールの広場を目指す。
地図で確認すると、吊り橋はなく緩やかな下り道が多くて少しホッとした。
今度は遅れないようにしなきゃ。これ以上迷惑はかけられない。
そう意気込んで集合場所に向かったけれど、班のメンバーはまだ誰も来ていなかった。
夏梨ちゃんの班の出発を見送ってから時計を確認すると、私たちの出発時刻までまだ少し時間があった。
そうだ。今のうちに、もう一度トイレに行っておこうかな。
もちろん黒崎くんたちはダメだなんて言わないだろうけれど、途中で行きたいとはなかなか言い出しにくい。
もう一度黒崎くんたちが集まっていないのを確かめてから、私は急いでトイレに向かった。
集合時間を過ぎているせいか、トイレは空いていた。入口近くの手洗い場の前で数人の女の子がかたまって何か話しているくらいで、他に人はいない。
急がなくちゃ。
あせっていると、個室の外から女の子たちの声が聞こえてきた。
「あの子なんなの?」
「あれって絶対わざとだよね」
きっと、さっき手洗い場にいた子たちだろう。どうやら誰かに怒っているみたいだ。
「でも、あの子はもうフラれてるし、百合子が気にすることないでしょ」
「もう! マリちゃんはいつも考えが甘いのよ」
会話を盗み聞きしていたようで気まずいけれど、出ないわけにはいかない。
仕方なく個室を出て手洗い場に向かうと、そこにいた全員が険しい表情で一斉に私を見た。
えっ、なに……?
驚いて立ち止まり、女の子たちの顔を見返す。見覚えがある気もしたけれど、知らない子たちだ。
私は気にしないふりをして端っこの水道で手を洗い、素早くトイレを出ようとした。
でも、女の子たちは私を睨んだまま、通せんぼするみたいに入口の前から動こうとはしなかった。
「えっと、なにか……」
棘のように攻撃的な視線が痛い。誰かと勘違いしてるんじゃないかと思って尋ねようとすると、ひとりの女の子が歩み出てきた。
「北野さん、だよね? フラれてるくせに勘違いして調子に乗らないでよね。黒崎くんは優しいからアンタを助けただけなんだからね!」
大きな声で言って、犯人を示すみたいに私を指さす。
どうやら人違いじゃないみたいだ。私はびっくりして、ぎゅっとリュックのストラップを握りしめた。
黒崎くんに助けてもらったって、きっとさっきのお鍋のときのことだろうか。それなら、調子に乗るもなにも、本当にその事実しかない。
「ちょっと、聞いてるの!?」
「なんとか言いなさいよ!」
黙り込む私に腹を立てて、さらに口調が強くなる。その迫力がすごくて、思わずごくりと息を呑んだ。
こんなふうに男の子のことで問い詰められるなんて、平和な女子校ではなかったことで、戸惑いの方が大きかった。
「え、えっと、黒崎くんには助けてもらっただけで何にもないから……」
事実だから、そう答えるしかない。
困惑しながら女の子たちを見回して、真ん中に立つ女の子に目が止まった。怒っているせいかツンとしているけれど、細くて色白でお人形さんみたいに可愛い。納得がいかないのかずっと私を睨んでいる。
……黒崎くんのことが好きなのかな。
でも、他には何も言えない。だって、助けてもらっただけで、本当に何にもないんだもの。
「ね、もういいじゃない。時間だから行こうよ」
黙って固まっていると、一番端っこにいた背の高い女の子がみんなをなだめるように言って出口に促した。
「これ以上卑怯な真似したら許さないからね」
「いい気にならないでよね!」
口々に捨てゼリフを残し、女の子たちがトイレから出ていく。台風が去ったあとみたいに、シンと静まり返る。
呆気にとられて、私はしばらく動けなかった。
……恋って、すごいな。
まったく範囲に入ってない私相手でも、なにかあると思っちゃうんだから。
あのパワーは、私にはない。
脱力してため息を吐きながら、鏡をのぞく。ちょっと悲しそうな表情をした私が、こちらをのぞき返していた。
午前中と同じように、班ごとに時間差で出発してチェックポイントを通りゴールの広場を目指す。
地図で確認すると、吊り橋はなく緩やかな下り道が多くて少しホッとした。
今度は遅れないようにしなきゃ。これ以上迷惑はかけられない。
そう意気込んで集合場所に向かったけれど、班のメンバーはまだ誰も来ていなかった。
夏梨ちゃんの班の出発を見送ってから時計を確認すると、私たちの出発時刻までまだ少し時間があった。
そうだ。今のうちに、もう一度トイレに行っておこうかな。
もちろん黒崎くんたちはダメだなんて言わないだろうけれど、途中で行きたいとはなかなか言い出しにくい。
もう一度黒崎くんたちが集まっていないのを確かめてから、私は急いでトイレに向かった。
集合時間を過ぎているせいか、トイレは空いていた。入口近くの手洗い場の前で数人の女の子がかたまって何か話しているくらいで、他に人はいない。
急がなくちゃ。
あせっていると、個室の外から女の子たちの声が聞こえてきた。
「あの子なんなの?」
「あれって絶対わざとだよね」
きっと、さっき手洗い場にいた子たちだろう。どうやら誰かに怒っているみたいだ。
「でも、あの子はもうフラれてるし、百合子が気にすることないでしょ」
「もう! マリちゃんはいつも考えが甘いのよ」
会話を盗み聞きしていたようで気まずいけれど、出ないわけにはいかない。
仕方なく個室を出て手洗い場に向かうと、そこにいた全員が険しい表情で一斉に私を見た。
えっ、なに……?
驚いて立ち止まり、女の子たちの顔を見返す。見覚えがある気もしたけれど、知らない子たちだ。
私は気にしないふりをして端っこの水道で手を洗い、素早くトイレを出ようとした。
でも、女の子たちは私を睨んだまま、通せんぼするみたいに入口の前から動こうとはしなかった。
「えっと、なにか……」
棘のように攻撃的な視線が痛い。誰かと勘違いしてるんじゃないかと思って尋ねようとすると、ひとりの女の子が歩み出てきた。
「北野さん、だよね? フラれてるくせに勘違いして調子に乗らないでよね。黒崎くんは優しいからアンタを助けただけなんだからね!」
大きな声で言って、犯人を示すみたいに私を指さす。
どうやら人違いじゃないみたいだ。私はびっくりして、ぎゅっとリュックのストラップを握りしめた。
黒崎くんに助けてもらったって、きっとさっきのお鍋のときのことだろうか。それなら、調子に乗るもなにも、本当にその事実しかない。
「ちょっと、聞いてるの!?」
「なんとか言いなさいよ!」
黙り込む私に腹を立てて、さらに口調が強くなる。その迫力がすごくて、思わずごくりと息を呑んだ。
こんなふうに男の子のことで問い詰められるなんて、平和な女子校ではなかったことで、戸惑いの方が大きかった。
「え、えっと、黒崎くんには助けてもらっただけで何にもないから……」
事実だから、そう答えるしかない。
困惑しながら女の子たちを見回して、真ん中に立つ女の子に目が止まった。怒っているせいかツンとしているけれど、細くて色白でお人形さんみたいに可愛い。納得がいかないのかずっと私を睨んでいる。
……黒崎くんのことが好きなのかな。
でも、他には何も言えない。だって、助けてもらっただけで、本当に何にもないんだもの。
「ね、もういいじゃない。時間だから行こうよ」
黙って固まっていると、一番端っこにいた背の高い女の子がみんなをなだめるように言って出口に促した。
「これ以上卑怯な真似したら許さないからね」
「いい気にならないでよね!」
口々に捨てゼリフを残し、女の子たちがトイレから出ていく。台風が去ったあとみたいに、シンと静まり返る。
呆気にとられて、私はしばらく動けなかった。
……恋って、すごいな。
まったく範囲に入ってない私相手でも、なにかあると思っちゃうんだから。
あのパワーは、私にはない。
脱力してため息を吐きながら、鏡をのぞく。ちょっと悲しそうな表情をした私が、こちらをのぞき返していた。
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