それはきっと、夜明け前のブルー

遠藤さや

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4.ハードモードなハイキング

赤②

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 救護テントから戻ると、クラスのみんなはカレーを食べ始めていた。

「あっ、北野さん! 大丈夫だった?」

「詩ちゃん、怪我なかった?」

 出迎えてくれた須川くんだけでなく、夏梨ちゃんと同じ班の人たちからも声をかけてもらって、申し訳なさと気恥ずかしさでなんだか居たたまれない気持ちになる。

「心配かけて、ごめんなさい。カレーも途中で……」

「いやぁ、無事でよかったよ! カレーなら大丈夫だから、ほら、ここ座って! 食べて食べて!」

 うちの班のカレーが無事に完成していることに、ホッと胸を撫で下ろす。須川くんに促されて、私は黒崎くんの隣に腰をかけた。

 うう、よりによって黒崎くんの隣……。

 顔がまだ赤い気がして、前髪を整えるふりをして頬を隠す。席がせまくて腕が何度も触れてしまって、私はその度にきゅっと身を縮こめた。
 触れた部分がピリピリと痺れている気がする。また炊事場での出来事を思い出してしまいそうになって、頭の中の雑念をあわててふり払う。ひとりで意識してジタバタしている自分が恥ずかしかった。

「怪我、なかった?」

 隣から聞こえた低い声に、ドキンと鼓動が大きく脈打つ。

「は、はい……だいじょぶ、です」

 まさか話しかけられると思っていなくて、顔も上げられないまま、それだけ答えるのが精一杯だった。
 もちろんそれ以上黒崎くんがなにか言うはずもなく、ざわめきの中で私たちの間だけが静かになる。

 気まずい……。

 私が気の利いたことを言えないのはいつものことだけれど、黒崎くんの前だと余計にひどい。
 何か言わなきゃとぐるぐると考えていると、助けてもらったお礼を彼にまだちゃんと伝えていないことに気づいた。戻ってきて一番に言わなきゃいけないことなのに。
 
「……あの、た、助けてくれて、ありがとうござい、ます」

 絞り出した声に、黒崎くんはひとこと「ああ」とだけ返して黙った。ふたりの間にまた沈黙が流れる。

 ……怒ってるんじゃ、ないよね。

 それとも、気づかないうちにまた何かしてしまったんだろうか。
 そう思っても、確かめることはできない。返事を期待していたわけではないのに、胸がチクチク痛む。
 私は考えることを諦めて、身体を小さくしてカレーを黙々と食べた。焦がしていないはずなのに、少し苦い。
 やっぱり黒崎くんの隣は居心地が悪かった。
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