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4.ハードモードなハイキング
赤①
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あのあと、すぐに先生と一緒に夏梨ちゃんが駆けつけてくれて、私は救護テントに運ばれた。
お鍋にぶつかる寸前で黒崎くんが引き寄せてくれたおかげでどこにも怪我はない。けれど、しばらく震えが止まらなくて、落ち着くまで夏梨ちゃんがそばについていてくれた。
カレー作りが途中だったことやいろんな人に迷惑をかけてしまったことが申し訳なくて、さらに気持ちが沈む。
「やっぱりイケメンはやることがちがうよね。あの鍛えた筋肉は飾りじゃなかった。そりゃモテるはずだよ」
夏梨ちゃんが黒崎くんのことを話しながら、グフフと笑う。きっとわざと冗談ぽく言って、私を励まそうとしてくれているんだろう。
「もう、夏梨ちゃんてば」
「だって、今日は二桁いくんじゃないかって言われてたんだから。まぁ、あの告白の後じゃ、気後れしちゃうだろうけど」
かまどの前で見たいつもと変わらず無表情な黒崎くんを思い出す。大勢の人に注目されていても気にする素振りもなく、淡々として見えた。
「あんな人前で告白するって、すごい勇気だよね」
私には絶対に無理だ。想像するだけで恐ろしい。
「人目があると無下に断れないって思ったんじゃないかな。でも、黒崎くんはいつもの『無理』ってバッサリだよ。あの場でキッパリ断れるのって、黒崎くんくらいじゃない?」
「無理……」
黒崎くんの言葉をなぞると、不機嫌そうな顔がふっと頭をよぎる。まるで自分がひと言で切り捨てられたみたいな気持ちになって、ぎゅっと胸が苦しくなった。
「みんな今日は本気だからね。我先にって感じだったんだろうなぁ」
夏梨ちゃんによると、毎年この遠足で仲良くなって付き合うカップルが多いらしく、男子も女子も気合いが入っているそうだ。
由真ちゃんが来ないと知ったときの近藤くんの言動を思い出して、そういうことだったのかと私はやっと理解した。
もうすぐ昼食が始まるのか、ざわめきが遠くに聞こえる。いつの間にかテントから見える炊事場には人影が少なくなっていた。
夏梨ちゃんはそれを確認するようにまわりを見回してから、ニンマリ笑って私に身を寄せた。
「でも、今日は詩ちゃんが一番接近したよね。抱き締められちゃったんだもん」
「え?」
一瞬、意味がわからなくて、きょとんとしてしまう。夏梨ちゃんは私がとぼけていると思ったのか、ちょっと頬をふくらませて、
「もう! 助けてもらうときに抱き締められたでしょ。後ろからぎゅううっと」
「抱き締め……」
思わず「あ」と声がもれる。瞬間、恐怖と動揺ですっかり忘れていた記憶が、一気によみがえってきた。
「まわりの女の子たち、すごかったんだよ! 悲鳴をあげて大騒ぎ! ねね、写真撮影のときに黒崎くんの筋肉がすごいって先輩たちが騒いでたでしょ? 実際に触れてみてどうだった?」
興奮して前のめりになる夏梨ちゃんの声は、もう聞こえなかった。
わわわわわわ……!
顔が火を噴いたように熱くなる。
私を抱き留めてくれたたくましい腕や耳元で響いた声、ぬくもりやその感触まで鮮明に思い出して、恥ずかしさで叫び出してしまいそうになった。
「ちょ、わ、詩ちゃん! 顔やばいっ」
夏梨ちゃんがびっくりして、目を丸くする。
きっと、私の顔は真っ赤になっていたんだろう。それは鏡を見なくても、頬を隠した手のひらの熱さから十分すぎるくらいわかった。
うう、恥ずかしい……。
おかげで恐怖はどこかに飛んで行ったけれど、顔の熱が冷めるまで私はもうしばらくテントから出られなかった。
お鍋にぶつかる寸前で黒崎くんが引き寄せてくれたおかげでどこにも怪我はない。けれど、しばらく震えが止まらなくて、落ち着くまで夏梨ちゃんがそばについていてくれた。
カレー作りが途中だったことやいろんな人に迷惑をかけてしまったことが申し訳なくて、さらに気持ちが沈む。
「やっぱりイケメンはやることがちがうよね。あの鍛えた筋肉は飾りじゃなかった。そりゃモテるはずだよ」
夏梨ちゃんが黒崎くんのことを話しながら、グフフと笑う。きっとわざと冗談ぽく言って、私を励まそうとしてくれているんだろう。
「もう、夏梨ちゃんてば」
「だって、今日は二桁いくんじゃないかって言われてたんだから。まぁ、あの告白の後じゃ、気後れしちゃうだろうけど」
かまどの前で見たいつもと変わらず無表情な黒崎くんを思い出す。大勢の人に注目されていても気にする素振りもなく、淡々として見えた。
「あんな人前で告白するって、すごい勇気だよね」
私には絶対に無理だ。想像するだけで恐ろしい。
「人目があると無下に断れないって思ったんじゃないかな。でも、黒崎くんはいつもの『無理』ってバッサリだよ。あの場でキッパリ断れるのって、黒崎くんくらいじゃない?」
「無理……」
黒崎くんの言葉をなぞると、不機嫌そうな顔がふっと頭をよぎる。まるで自分がひと言で切り捨てられたみたいな気持ちになって、ぎゅっと胸が苦しくなった。
「みんな今日は本気だからね。我先にって感じだったんだろうなぁ」
夏梨ちゃんによると、毎年この遠足で仲良くなって付き合うカップルが多いらしく、男子も女子も気合いが入っているそうだ。
由真ちゃんが来ないと知ったときの近藤くんの言動を思い出して、そういうことだったのかと私はやっと理解した。
もうすぐ昼食が始まるのか、ざわめきが遠くに聞こえる。いつの間にかテントから見える炊事場には人影が少なくなっていた。
夏梨ちゃんはそれを確認するようにまわりを見回してから、ニンマリ笑って私に身を寄せた。
「でも、今日は詩ちゃんが一番接近したよね。抱き締められちゃったんだもん」
「え?」
一瞬、意味がわからなくて、きょとんとしてしまう。夏梨ちゃんは私がとぼけていると思ったのか、ちょっと頬をふくらませて、
「もう! 助けてもらうときに抱き締められたでしょ。後ろからぎゅううっと」
「抱き締め……」
思わず「あ」と声がもれる。瞬間、恐怖と動揺ですっかり忘れていた記憶が、一気によみがえってきた。
「まわりの女の子たち、すごかったんだよ! 悲鳴をあげて大騒ぎ! ねね、写真撮影のときに黒崎くんの筋肉がすごいって先輩たちが騒いでたでしょ? 実際に触れてみてどうだった?」
興奮して前のめりになる夏梨ちゃんの声は、もう聞こえなかった。
わわわわわわ……!
顔が火を噴いたように熱くなる。
私を抱き留めてくれたたくましい腕や耳元で響いた声、ぬくもりやその感触まで鮮明に思い出して、恥ずかしさで叫び出してしまいそうになった。
「ちょ、わ、詩ちゃん! 顔やばいっ」
夏梨ちゃんがびっくりして、目を丸くする。
きっと、私の顔は真っ赤になっていたんだろう。それは鏡を見なくても、頬を隠した手のひらの熱さから十分すぎるくらいわかった。
うう、恥ずかしい……。
おかげで恐怖はどこかに飛んで行ったけれど、顔の熱が冷めるまで私はもうしばらくテントから出られなかった。
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