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4.ハードモードなハイキング

飯盒炊爨③

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「あれ、黒崎」

 声の方をちらりと見ると、長谷くんが嬉しそうに近寄ってくる。私はあわてて目を逸らした。

「なにしてんの? 米担じゃなかった?」

「香川が休みだから、その分の手伝い。おまえも仕事しろよ」

「してるよ! 邪魔だから散歩でもしてきてって追い出されただけ。てか、黒崎優しいじゃんっ」

「うるせぇ」

「あ、照れてるー」

 長谷くんは、黒崎くんのどんな反応にもめげない。見習いたい心の強さだ。
 話しかけられないようにお鍋に夢中なふりをしている私とは大違い……。
 ぐつぐつ煮えるお鍋をゆっくりかき混ぜながら、聞こえてくる会話に思わず感心してしまう。

「そんなことより、さっきのあの子めちゃめちゃかわいいじゃん! もったいないっ」

「……おまえ、ほんとそういうの好きだな」

 まわりのみんなが、ふたりを見てクスクス笑っている。
 こんなに視線を集めている中で平然としている黒崎くんと長谷くんってすごい。そう思いながら、注目がふたりの方にうつったことに私はホッと胸をなで下ろした。

「黒崎が興味なさすぎなんだよ」

「長谷は興味ありすぎだろ」

 ため息まじりの声のあと、ちょっと笑う。

 黒崎くんって、こんなふうに話すんだ。私の前じゃ考えられない、くだけた感じ。
 あの写真撮影のときも、こんなふうに話していたのかな。
 あのとき感じた寂しさに似た感情が、胸の奥をふっと横切る。お鍋から立ちのぼる湯気が心と視界を曇らせた。

「じゃあ、何かあったら言って」

 隣にいた黒崎くんがすっと離れる。

「は、はいっ。あの、あり……」

 お礼を言おうとあわてて顔を上げると、彼はもう私に背を向けていた。去っていくその背中に長谷くんが抱きついてじゃれている。
 恥ずかしくなって言葉の続きを飲み込む。誤魔化すように、私はまたぐるぐると鍋をかき混ぜた。  
 そろそろルーを入れてもいい頃かな。
 火を止めてルーを割入れたら、焦がさないように弱火で……と手順を確認しながらお鍋の中をのぞき込んでいると、隣でカレーを作っていた男の子たちが口喧嘩をしはじめた。
 内容は、まだルーを入れちゃダメなのに勝手に入れたとか、水が多すぎたのが間違いだとか、ささいなことだ。
 けれど、だんだん口調が激しくなっていく。
 怒鳴り声が怖くて身体が竦む。

 どうしよう、止めた方がいいかな。でも、どうやって……。

 そのうちに、ふたりはつかみ合いをはじめてしまって、もう私で止められる状態じゃなくなった。後ろで女の子たちが悲鳴をあげる。
 とりあえず危ないから火を消さなきゃ。そう思ってコンロに手を伸ばしたとき、揉み合うふたりの身体が私の肩にぶつかった。
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