21 / 109
4.ハードモードなハイキング
飯盒炊爨③
しおりを挟む
「あれ、黒崎」
声の方をちらりと見ると、長谷くんが嬉しそうに近寄ってくる。私はあわてて目を逸らした。
「なにしてんの? 米担じゃなかった?」
「香川が休みだから、その分の手伝い。おまえも仕事しろよ」
「してるよ! 邪魔だから散歩でもしてきてって追い出されただけ。てか、黒崎優しいじゃんっ」
「うるせぇ」
「あ、照れてるー」
長谷くんは、黒崎くんのどんな反応にもめげない。見習いたい心の強さだ。
話しかけられないようにお鍋に夢中なふりをしている私とは大違い……。
ぐつぐつ煮えるお鍋をゆっくりかき混ぜながら、聞こえてくる会話に思わず感心してしまう。
「そんなことより、さっきのあの子めちゃめちゃかわいいじゃん! もったいないっ」
「……おまえ、ほんとそういうの好きだな」
まわりのみんなが、ふたりを見てクスクス笑っている。
こんなに視線を集めている中で平然としている黒崎くんと長谷くんってすごい。そう思いながら、注目がふたりの方にうつったことに私はホッと胸をなで下ろした。
「黒崎が興味なさすぎなんだよ」
「長谷は興味ありすぎだろ」
ため息まじりの声のあと、ちょっと笑う。
黒崎くんって、こんなふうに話すんだ。私の前じゃ考えられない、くだけた感じ。
あの写真撮影のときも、こんなふうに話していたのかな。
あのとき感じた寂しさに似た感情が、胸の奥をふっと横切る。お鍋から立ちのぼる湯気が心と視界を曇らせた。
「じゃあ、何かあったら言って」
隣にいた黒崎くんがすっと離れる。
「は、はいっ。あの、あり……」
お礼を言おうとあわてて顔を上げると、彼はもう私に背を向けていた。去っていくその背中に長谷くんが抱きついてじゃれている。
恥ずかしくなって言葉の続きを飲み込む。誤魔化すように、私はまたぐるぐると鍋をかき混ぜた。
そろそろルーを入れてもいい頃かな。
火を止めてルーを割入れたら、焦がさないように弱火で……と手順を確認しながらお鍋の中をのぞき込んでいると、隣でカレーを作っていた男の子たちが口喧嘩をしはじめた。
内容は、まだルーを入れちゃダメなのに勝手に入れたとか、水が多すぎたのが間違いだとか、ささいなことだ。
けれど、だんだん口調が激しくなっていく。
怒鳴り声が怖くて身体が竦む。
どうしよう、止めた方がいいかな。でも、どうやって……。
そのうちに、ふたりはつかみ合いをはじめてしまって、もう私で止められる状態じゃなくなった。後ろで女の子たちが悲鳴をあげる。
とりあえず危ないから火を消さなきゃ。そう思ってコンロに手を伸ばしたとき、揉み合うふたりの身体が私の肩にぶつかった。
声の方をちらりと見ると、長谷くんが嬉しそうに近寄ってくる。私はあわてて目を逸らした。
「なにしてんの? 米担じゃなかった?」
「香川が休みだから、その分の手伝い。おまえも仕事しろよ」
「してるよ! 邪魔だから散歩でもしてきてって追い出されただけ。てか、黒崎優しいじゃんっ」
「うるせぇ」
「あ、照れてるー」
長谷くんは、黒崎くんのどんな反応にもめげない。見習いたい心の強さだ。
話しかけられないようにお鍋に夢中なふりをしている私とは大違い……。
ぐつぐつ煮えるお鍋をゆっくりかき混ぜながら、聞こえてくる会話に思わず感心してしまう。
「そんなことより、さっきのあの子めちゃめちゃかわいいじゃん! もったいないっ」
「……おまえ、ほんとそういうの好きだな」
まわりのみんなが、ふたりを見てクスクス笑っている。
こんなに視線を集めている中で平然としている黒崎くんと長谷くんってすごい。そう思いながら、注目がふたりの方にうつったことに私はホッと胸をなで下ろした。
「黒崎が興味なさすぎなんだよ」
「長谷は興味ありすぎだろ」
ため息まじりの声のあと、ちょっと笑う。
黒崎くんって、こんなふうに話すんだ。私の前じゃ考えられない、くだけた感じ。
あの写真撮影のときも、こんなふうに話していたのかな。
あのとき感じた寂しさに似た感情が、胸の奥をふっと横切る。お鍋から立ちのぼる湯気が心と視界を曇らせた。
「じゃあ、何かあったら言って」
隣にいた黒崎くんがすっと離れる。
「は、はいっ。あの、あり……」
お礼を言おうとあわてて顔を上げると、彼はもう私に背を向けていた。去っていくその背中に長谷くんが抱きついてじゃれている。
恥ずかしくなって言葉の続きを飲み込む。誤魔化すように、私はまたぐるぐると鍋をかき混ぜた。
そろそろルーを入れてもいい頃かな。
火を止めてルーを割入れたら、焦がさないように弱火で……と手順を確認しながらお鍋の中をのぞき込んでいると、隣でカレーを作っていた男の子たちが口喧嘩をしはじめた。
内容は、まだルーを入れちゃダメなのに勝手に入れたとか、水が多すぎたのが間違いだとか、ささいなことだ。
けれど、だんだん口調が激しくなっていく。
怒鳴り声が怖くて身体が竦む。
どうしよう、止めた方がいいかな。でも、どうやって……。
そのうちに、ふたりはつかみ合いをはじめてしまって、もう私で止められる状態じゃなくなった。後ろで女の子たちが悲鳴をあげる。
とりあえず危ないから火を消さなきゃ。そう思ってコンロに手を伸ばしたとき、揉み合うふたりの身体が私の肩にぶつかった。
11
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
夏の出来事
ケンナンバワン
青春
幼馴染の三人が夏休みに美由のおばあさんの家に行き観光をする。花火を見た帰りにバケトンと呼ばれるトンネルを通る。その時車内灯が点滅して美由が驚く。その時は何事もなく過ぎるが夏休みが終わり二学期が始まっても美由が来ない。美由は自宅に帰ってから金縛りにあうようになっていた。その原因と名をす方法を探して三人は奔走する。
【完結】カワイイ子猫のつくり方
龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。
無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。
その花は、夜にこそ咲き、強く香る。
木立 花音
青春
『なんで、アイツの顔見えるんだよ』
相貌失認(そうぼうしつにん)。
女性の顔だけ上手く認識できないという先天性の病を発症している少年、早坂翔(はやさかしょう)。
夏休みが終わった後の八月。彼の前に現れたのは、なぜか顔が見える女の子、水瀬茉莉(みなせまつり)だった。
他の女の子と違うという特異性から、次第に彼女に惹かれていく翔。
中学に進学したのち、クラスアート実行委員として再び一緒になった二人は、夜に芳香を強めるという匂蕃茉莉(においばんまつり)の花が咲き乱れる丘を題材にして作業にはいる。
ところが、クラスアートの完成も間近となったある日、水瀬が不登校に陥ってしまう。
それは、彼女がずっと隠し続けていた、心の傷が開いた瞬間だった。
※第12回ドリーム小説大賞奨励賞受賞作品
※表紙画像は、ミカスケ様のフリーアイコンを使わせて頂きました。
※「交錯する想い」の挿絵として、テン(西湖鳴)様に頂いたファンアートを、「彼女を好きだ、と自覚したあの夜の記憶」の挿絵として、騰成様に頂いたファンアートを使わせて頂きました。ありがとうございました。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
鮫島さんは否定形で全肯定。
河津田 眞紀
青春
鮫島雷華(さめじまらいか)は、学年一の美少女だ。
しかし、男子生徒から距離を置かれている。
何故なら彼女は、「異性からの言葉を問答無用で否定してしまう呪い」にかかっているから。
高校一年の春、早くも同級生から距離を置かれる雷華と唯一会話できる男子生徒が一人。
他者からの言葉を全て肯定で返してしまう究極のイエスマン・温森海斗(ぬくもりかいと)であった。
海斗と雷華は、とある活動行事で同じグループになる。
雷華の親友・未空(みく)や、不登校気味な女子生徒・翠(すい)と共に発表に向けた準備を進める中で、海斗と雷華は肯定と否定を繰り返しながら徐々に距離を縮めていく。
そして、海斗は知る。雷華の呪いに隠された、驚愕の真実を――
全否定ヒロインと超絶イエスマン主人公が織りなす、不器用で切ない青春ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる