それはきっと、夜明け前のブルー

遠藤さや

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3.前途多難な石の日々

石①

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 翌日、重い足を引きずるようにして登校すると、私がみんなの前で黒崎くんに告白して、こっぴどくフラれたという噂が広まっていた。
 廊下を歩いても教室にいても、無数の針のような視線がつき刺さる。

「急に有名人だね、詩ちゃん」

「黒崎相手に堂々と公開告白した猛者だって」

「猛者……」

 何、その猛々しい武士みたいなの……。
 
 きっと身の程知らずだと言われているんだろう。ヒソヒソとささやく声が刺のように痛い。
 大きな声で誤解だと伝えたい。あれは、告白じゃなく謝罪だって。
 でも、実際は目立たないように小さくなって、噂が消えるのを待つことしかできなかった。私は猛者でも武士でもなく、怖がりの小心者だ。
 とぼとぼと教室に戻って自分の席で次の授業の準備をしていると、前の席の長谷くんが帰ってきた。

「昨日はごめんね、北野ちゃん。告白の邪魔しちゃって!」

 大きな声であっけらかんと謝られて、ぎゃあっと叫びそうになる。

「あ、あの、昨日のあれは、こ、告白じゃなくて」

「わかる、わかるよ。あの黒崎に公開告白するとか、ある意味勇者だもんね。それだけで俺はすごいと思う!」

「いえ、あのっ。だから、そ、そうじゃなくて」

「大丈夫、恥ずかしいことじゃないって!」

 話がまったく通じない……。

 必死に弁明しようとしたけれど、長谷くんはひとりで納得して頷き、生温かい笑顔を浮かべるだけで、全然話を聞いてくれなかった。それどころか「俺、協力しよっか?」と、間違った方向に進んで行ってしまう。
 そこに黒崎くんも席に戻ってきて、私は全身から冷や汗が吹き出るくらい焦った。
 この噂は、黒崎くんの耳にもきっと届いているだろう。嫌な気分になっているに違いない。それがわかっていても、何もできなかった。
 黒崎くんは授業中も班ごとのグループワークの最中も、一切私を見ないし話すこともない。私も、不機嫌そうな彼を見ると震え上がるほど怖くて、謝ることも話しかけることも諦めて完璧な石と化していた。
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