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第二十三話 お付き合い

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「好きです、付き合ってください」
「あ、はい」

 俺と優菜ちゃんはあっさりと付き合うことになった。





 話は少し遡って優菜ちゃんとおしゃれなカフェで少し時間を潰して会話をした後、俺は人気の少ない公園のベンチに座り、自販機で買ってきたコーヒーを手渡す。外はまだ肌寒く、春の訪れには少し遅いようだ。

「甘いやつだけど平気?ブラックのほうがよかった?」
「どっちも大丈夫です、ありがとうございます」

 優菜ちゃんは冷えた手を温めるように缶を両手に持って暖を取る。俺はすぐに開けてグビグビとブラックコーヒーを飲む。

(にがっ)

 ちょっとカッコつけてブラックにしたけど、やっぱ苦いわ。素直に普通のやつにすればよかった。
 よくわからない見栄を張るのはなんでだろう、そういえば彼女たちには俺の表面的なことしか話していないし、誇張してる部分も多々ある。
 ただのギャンブル好きで、刺激を求めてダンジョン潜って、毎日カジノでお金をすってるクズですよ~とは言えなかった。

 俺は彼女達に、世間の役に立つためだとか、困っている人を見過ごせないからとか、なにか高尚な目的をもってダンジョンに潜っていることになっている。最近組み始めた舞についてもおおむね事実だが、助け合いってやつ?って自慢した時は尊敬の目で見られていたのを覚えている。

「それで、話についてなんですけど」
「うん」
「まず、誠さんって私の命の恩人じゃないですか、それに人の為に危険なダンジョンに挑んでますよね」
「……うん」
「それにかっこいいし、あの日、私寝ちゃいましたけど、何もなかったじゃないですか。そういう紳士的なところもありますよね」
「……うん」
「それで、今私フリーなんですよね」
「うん」
「だからその……」

 ここから冒頭に戻るというわけだ。





 俺の返事を聞いた彼女は嬉しそうに微笑んだ。正直美人度で言えばちょっと可愛いなくらいで、小動物的な可愛さはある。プロポーションも普通で、言い方が悪いけど中の上くらいの子だ。
 でも他人から向けられる好意というのは想像以上に嬉しいものだった。俺はつい彼女の手を握り、ゆっくりと恋人繋ぎにする。

「暖かいですね」
「うん」

 俺と優菜ちゃんは少し見つめあった後、静かに目を閉じた。
 これってそういうことだよね、いいのかな。いいよね!うん!!

 恋人との初めてのキスは甘いコーヒーの味がした。




「ちょっとこっちまで敵漏れてきてるわよ!」

 俺が浮かれて9層の敵と戦っていると、舞の叱責が飛んでくる。仕方ないだろう、楽しいんだから、ダンジョンに身が入らない俺の気持ちも分かって欲しい。
 
「別にあんたに恋人が出来ようがなんでもいいけど、冒険はしっかりやってよね」
「ごめんごめん、でもさあ、やっぱり俺って魅力あるんだなあって、分かる人には分かる?みたいな」
「ほんとに貴方の本性を知ったうえで好きあってるならいいけど、女って意外と狡猾だからね、気を付けたほうがいいわよ」

 優菜ちゃんみたいな天使をお前みたいな悪魔と一緒にしないでくれ!
 俺は「そんなことはない!」といいつつも若干の後ろめたさも感じていた。本当の自分ね、それを知った時彼女はどう反応するんだろうか。
 運よくSSR装備を手にしただけのただのギャンブル好きが、大した目的もなく刺激を求めてダンジョンに潜ってるだけなんて分かったら幻滅するだろうか。
 なら今からでも遅くない。今日から真面目に、誰かの為に冒険すればいいじゃないか。

「いいからさっさと稼ぐわよ、まだSR装備揃ってないし、お金も全然足りないんだからね」
「当然じゃないか、君が満足するまで付き合ってあげるよ」
「……そういう無理な装いは長く続かないからあきらめた方がいいわよ。いずれバレルだろうから今のうちだけ楽しむのをお勧めするわ」

 嫌な忠言を受け、俺は陰鬱な気分になる。
 幸せは長く続かない、幸運のネックレスのようにいずれは砕ける運命なのか。そんなことないよな?ないと言って欲しい。
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