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第十三話 難敵現る

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 昨日は楽しかったなぁ。俺にもあんな時代があったんだな、どこで間違えたんだろうか。そりゃパチンコからだろ、このパチンカスが。
 俺は気を取り直してアイスゴーレムの討伐を開始する。いい運気をもらったのか、今日は3体目の敵からRアイスゴーレムの靴が手に入った。しかしゴーレムの倒すのは継続した。冷気耐性の防具がない、むしろ涼しいSR水の鎧とRレッドリザードマンの鎧しかないのだ。

 それから一週間かけてRアイスゴーレムの装備セットを全てドロップさせた。そして幸運だったのがN幸運のネックレスをガチャでゲットしたことだ。

「幸運のネックレス様ぁ!また会えましたね。俺はずっと待っていたんですよ」

 効果のほどは実感できるほどではなかったがまた同じアイテムが手に入って嬉しかった。Nの幸運ってどれくらいだろう、四葉のクローバーを見つけやすくなるくらいのささやかなものと思っておこう。

 俺は15層の道を逸れて、未開の地の探索を開始した。雪の上をRアイスゴーレムの靴を使ってザクザクと進んでいく。靴は若干沈むが、浮力でも発動しているかのようにスタスタと歩くことが出来る。
 これも不思議な力だろうか、履いたことはないが通常はこんなに雪の上を軽快に歩くことが出来ないだろう。なんなら走ることもできる。

 剣の切っ先は先端から少し下がって、円形のつっかえがついている。登山者が使うトレッキングポールの先端のようになっている。突きにはあまり使えないが、雪上でバランスをとるのに便利だ。

 入口付近からすぐ右の方向へ歩き、かなり遠くまでくると洞窟が見えてきた。オークの拠点があった時のように、何かのモンスターの拠点かもしれない。俺は洞窟内に入ると雪がないのでSRの装備に取り換えて、戦闘に備える。
 周囲を警戒しながら奥に進むと、ところどころに焚火で暖をとる、猿のように毛でおおわれた大きな人型のモンスターが見えてきた。俺は複数体いることを確認すると、無用な戦闘を避け、洞窟内を安全に進んでいた。
 しかし、安全だと思っていたら後ろからイエティっぽい感じのそれが近づいてくるのを察知した。どうやら偵察しに洞窟内をうろついているらしい。

 近くに身を隠せるような場所はなく、戦闘は避けられないと判断し、相手が気づく前に先制攻撃を仕掛ける。松明を持ってうろついていたイエティは、俺の接近に気づくと手に持っていた松明を投げつけてくる。それを盾で弾いてイエティに斬りつける。

「硬い!」

 俺の攻撃が相手の頭に直撃したにもかかわらず、敵はバランスを崩すのみで血もかすり傷の程度のようだ。相手のイエティの咆哮が木魂する。

「ウオオオオオオオオオオ」

 まずい、味方を呼ばれたか。俺は囲まれる前にとにかく目の前のイエティを倒すために追撃をする。骨が固いなら内臓、毛で覆われていない腹を中心に攻撃を繰り出した。相手は素手だったが、強大な膂力を駆使し腕を振り回してくる。

 盾で正直に受けると吹き飛ばされそうな腕の勢いに、盾を斜めにして受け流すようにしたり、フットワークを使って回避していく。
 そして相手の懐に入り込むと、心臓に向かって剣で一突きした。イエティは一撃で倒れ、ドロップアイテムが出現した。

 しかし、先ほどの咆哮を聞いたのかぞろぞろと他のイエティが出てくる。俺は洞窟からの逃走を考えたが、出口につながる道から来るモンスターにきびすを返して奥に進むことにした。

 俺は走った。雪用の装備ではなく10層で手に入れたSRとRの混ざった装備だったため、雪や氷の耐性はないが、身軽に移動が出来ていた。
 俺は頭の中でマップを作りながら走り続ける。
 先ほどの場所から離れていくと、飛び出してくるイエティは少なくなってきたが、追いかけてくるイエティはまだいる。振り切るには速度が少し足りていないようだ。追いつかれていない、どちらかと言えばこちらの方が若干早い。

 そうして俺は頭の中になんとなく作ったマップを参考にして出口への道を模索する。だがあまりにも複雑になったため完全に迷ってしまった。イエティを振り切ることには成功したが、今の自分の位置すらわからない。かなり奥に来てしまったのだけは確かだ。

「完全に迷ったな。来た道を戻ってみるか?いや、追いかけてきたイエティと鉢合わせるのが落ちだろうな」

 俺はさらに奥に進むことに決めた。何か事態が好転するアイテムが手に入るかもしれない。単独のイエティならしっかり戦えば倒せないこともない。

 そう決めた俺は慎重に周囲に気を配りながら奥へ奥へと進んでいく。するとそこに似つかわしくない大きな人工物の扉が現れた。

「宝物庫か?」

 何か役に立つアイテムがあるかもしれない。見たことはないがワープゲートがあるのだから転送できるアイテムがあるかもしれない。ダンジョンの傾向からその階層やそこに至るまでにそれに対応するアイテムがドロップする、つまり対イエティに有利な装備があるかもしれない。そういえばダンジョンなのに宝箱見たことないなあとか色々考えたが、目の前の幸運を掴んだと思い扉を開ける。

「何も、ない…いや!奥に宝箱がある!」

 俺は当たり部屋だったと確信し、部屋の奥の宝箱に走っていく。
 すると扉がバタンと閉まる。

「閉じ込められた…?」

 俺が驚いて扉の方に振り返っていると、宝箱のあった方向の上から何かが落ちてくる音がした。スタッと小さな音を立てて落ちてきたのは一見どこかの執事かのように見えた。

「貴方が訪問者ですか」

 モンスターがしゃべった!?いや人みたいだしもしかして転移してきた冒険者か?しかしそこから感じるのはあり得ないほどのプレッシャーだった。

「あの、俺そこにある宝箱に用があるんですけど」
「ああこれですか、これは私のものなので渡すことは出来ませんよ」

 にこやかに笑う執事は殺気を放つ。なんだこいつ、先着順だろ普通、俺は断固としてそれを拒否し、所有権を主張する。

「いや先に見つけたのは俺なんだけど」
「ふむ…ならば私を倒して奪えばいいのでは?」
「頭いかれてんのか、冒険者同士で奪い合いとか」
「冒険者同士……?ははは!そうですか、私が冒険者だと、そうおっしゃるのですね」

 俺はぞくりと背筋に嫌な予感が走った。
 中央にいた俺は即座に扉の方に向かい距離を取る。やばいやつだと本能が告げている。扉の取っ手に手をかけて開けようとするが扉は開かない。

「無駄ですよ、その扉は私が消えるまで開くことはありません」

 丁寧に、そして静かに執事の男が答える。

 俺はSSR装備をアイテムボックスから取り出し、全身の装備を入れ替える。こいつ相手に余裕を持つことは出来なさそうだ。

「あんたが消えて扉が開くなら、どっかいってくれねぇかな」
「それはお断りします。なんせ前回から随分待たされてしまったのでね。それに」

 俺は相手が何か続けてしゃべろうとしたところにSSR雷の剣で雷撃を飛ばす。俺が持つ一番瞬間火力があって遠距離攻撃が出来る魔法だ。相手に直撃するのを見てダメージを確認する。

「……無粋ですねぇ、他人がしゃべっているときに攻撃するなど、こういうときは静かに聞くのがお約束ではありませんか?」

 ほぼ無傷!?若干焦げたような感じはするが、執事は服をパンパンと埃を払いネクタイを締め直しスーツをビシッと着なおす。

 魔法軽減か、雷に耐性があるのか、どちらかは分からないが雷魔法は目くらましにくらいにしか使えなさそうだ。後は信じれるのは剣の攻撃力。俺はSSR全身装備の力を信じて相手に向かっていった。
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