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第八話 少し昂ぶる

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 Rの装備がドロップしたことで少し安心してダンジョン探索に挑むことが出来る。今日もまず10層に入り、装備が破損したことを考慮してRレッドリザードマン装備に切り替える。アイテムボックスから装備を切り替えるだけで、自動で装備できるから便利だ。

 万が一に備えた訓練を開始する。今までの装備依存からの戦いから脱却するため、同じ装備をしたリザードマンとの戦いに挑む。
 リザードマンから繰り出された攻撃をRレッドリザードマンの盾で防ぐと今までと違う衝撃が加わった。

「いてぇ!!思ってたよりずっと強い」

 実際に攻撃を受けたわけじゃないが、盾を持つ手が痛い。防御力の低さが体を伝って実感させる。しかし雷の鎧からリザードマンの鎧に変わったことで少し動きが軽い。染みついた習慣からつい剣を振って雷撃を繰り出そうとしてしまう。攻撃は空を切り、剣先からは何も出ない。キャッ、恥ずかしい。

 悲しい、なんて弱い装備だろう。心なしかリザードマンが笑っているかのように思える。くそぅ、お前なんてSSR装備つければいちころなんだからな。
 リザードマンとの激闘を制し、勝どきを上げる。あぶなかった、一度頭に剣を受けて、頭が揺さぶられたときは死を感じさせた。同時に感じたことのない昂ぶりも感じた。この感覚を知っている、ギャンブルで勝った時の感じだ。
 そうか、ギャンブルだけに目がいっていたが、ダンジョンもまたギャンブルなのだ。今まで安全圏でちまちまと攻撃していただけだったので気づかなかったが、ベットするのは己の命、報酬はたまに出る大当たりのドロップ品。
 俺はこの半年を後悔した。
 なんでこんなギャンブルを前にして無駄な時間を過ごしたんだろうか。俺はアイテムボックスにSSR雷の装備を封印する気持ちで押し込む。深くに。

 下手をすれば死んでしまうリスク、そこにあるのは興奮だった。人は死を実感するとき、子孫を残そうと身体の一部を膨張させるという。さすがに素手で挑むわけにはいかないし、万が一の保険としてSSR装備を売るのもなしだ。しかし程よく命をかけられるこの環境はまさしく俺が求めていた、渇望していたギャンブルだったのだ。

 そうしてその日から俺のダンジョン攻略は本格的にスタートした。まず浅い層は今まで踏破してしまって目新しさはない。
 10層のリザードマンとの戦いは今の俺にはちょうどいい相手だ。装備に頼っていた戦い方から脱却し、冒険者として相応しい経験を身に付けるのだ。

「おりゃ!!」

 10層の攻略が始まって一週間が経った。Rレッドリザードマンの装備もセットで揃い装備している。
 それでも今の俺はリザードマンに対して遅れをとることはない、同時に2体相手にしても余裕で戦えるほど鮮麗されていた。
 ダンジョンに入ると何か体が軽く感じるし、俺ってこんなに運動神経よかったかなぁ。体の成長って30になるまで続く人もいるっていうし、俺の成長期はまだ続いていたんだ!ダンジョンで鍛えられてるしな。

「おっこの光は!!!SRきたぁあ!!!!!」

 びひゃぁあああ!!!リザードマンから初のSRドロップが出た!!この瞬間もまた堪らない。全身にビビビと電撃が走るように快感が駆け巡る。こんなに真剣に取り組んだことはなかったのでその成果が出るとうれしくて堪らない。ドロップ品はSRレッドリザードマンの剣だった。R装備のセット効果はなくなってしまうが、その攻撃力はそれを補って有り余るほどだ。

 なによりUR幸運のネックレスを失ってからの俺はレアドロップに飢えていた。SSRは当然ドロップしないしSRすらなかったのだ。
 ウキウキになった俺はその日はダンジョンから帰り換金してからカジノにいった。
 100万タラーすった。






 ダンジョンアミューズメントパークの関係者と思われる衣装に身を包み、後藤舞は江戸川区に訪れていた。本来ファミリー層で賑わう地区だが、この施設が出来てからはその住民層は変化していた。1kのぼろアパートの需要が増し、新しい安いアパートが建設されていっている。

「ここが東京23区を名乗るのはおこがましいわね、ギャンブル特区として隔離するべきじゃないかしら」

 浮浪者のような外見のものがウロウロしている街の様子を見て、彼女がぼそりと呟く。

「さて、問題の新庄誠はどうなってるかしら、海《かい》にも話をききにいかないと」

 海、後藤の妹だ。ダンジョンでの受付嬢をしている。彼女は情報の収集係として開店当初から変わらず職務をこなしている。扱う情報の機密性も高いため、重要な役職にあるのは変わりない。最近は忙しいのか舞のメールに対する返事もない。

 ダンジョンの前につくと中の様子をうかがう。相変わらず昼から酒を飲んでいるようなギャンブル狂いの人たちが散見される。こんな者達でもガチャから生み出される素材の足しになるのだからやはりここは狂っている。

 そんな組織に属している自分は正常なのか?と自問自答していると、裏口から出てくる海の姿が見えた。

「海、メールくらい返してよね、そんなに忙しいの?」
「あ、お姉ちゃん、そうだね、忙しいのもあるけど……例の人、すごいよ」

 例の人、とはおそらく新庄誠のことだろう。レイスの魂の供給が減少している話を聞いていないはずはないが、すごいとは何事だろう

「最近なんだけど、10層のリザードマンの納品が多くなったの。装備もR雷の装備からRリザードマンの装備に変わって、どうやら探索を下に始めたみたい。ウフフ」
「あんたのその破滅願望は理解出来ないわ、今まで接してきた人が急に死ぬのが楽しみなんてほんと悪趣味よね」
「ずっと6層の納品ばっかで変化がなくてつまらなかったのよね、これからいついなくなってもおかしくないと思うと…ウヒ」

 ニヤニヤする妹に呆れつつ、急にレイス狩りをやめた理由を探る。

「別にレイスが全滅したって話は聞かないし、他のダンジョンでは確認されてるんでしょ?なら単に飽きたんじゃないかな」

 もっともらしい理由を付けられて多少納得する。しかしやはりこの目で実際に彼を見て変化を確認したほうがいい。そう思い彼女は今日も潜っていった彼を追いかけ10層へと転移していった。
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