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第三章

12 レオス・ヴィダールは帰る

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 闘技大会の表彰式は滞りなく行われた。準優勝だった少年は未だ医務室で休んでいるようだ。大会の運営から優勝者へのメダルの授与が行われる。俺は次どうしようかなあなんて考えてた。わざわざ帝国にきてまで強者を求めたのに、まあしらみつぶしに旅をして強者を求め続けるということも出来なくはないが、さすがにそれはないだろう。

 腐っても俺はシャドウィ王国の貴族だ。領地のこともあるし、学園にもいかなければ。しかしこのぽっかり穴の開いた心を埋めるものはないのだろうか。ないんだろうな……。

 表彰式が終わり、各自帰路についていく。俺も帰ろうとすると、先程の少年が前に立ち塞がってきた。

「レオス・ヴィダールだな、こちらに来てもらおう」

 いきなり何を言ってるんだこいつは。俺はもう帰るんだよ、付き合ってられるか。
 俺はその言葉を無視して横を通り過ぎようとする。すると少年の両脇にある建物の影から兵士たちがゾロゾロと出てきた。

「……どっかのお偉いさんか?」

「こうなっては致し方ない。我はグランバール帝国第3皇子カセル・グランバールだ。素直に従ったほうが身のためのだぞ」

 逆恨みか? 何の意図があって、いや帝国とは敵国ではないが同盟国でもない。あくまで中立国の貴族相手に何かするなんてことあり得るか?……あり得そう。

「悪いが、予定が詰まってるんでね。帰らせてもらう」

「まあそういうと思ったよ。お前ら、やれ!」

 カセルがそう号令を出すと、兵士たちが一斉に襲い掛かってきた。数は6、訓練よりは多いが舐められたものだ。それに俺の正体がバレているならもう気兼ねする必要はない。

「ダークバインド」
「エンチャントダーク、アクセル」

 兵士たちの影から黒い触手が蠢き、兵士たちを絡めとる。そして動きを制限された兵士たちを置き去りにして俺はその場から逃走した。馬鹿正直に戦っていられるか。増援も来るかもしれないのに。

「ま、待て!」

 第3皇子が叫ぶ声が随分遠くに聞こえる。加速した俺の速度に追いつけるものはいない。街の外に急いで出ようかと思ったが、ちょうど出発する乗合馬車があったので滑り込みで乗る。
 途中で追っ手が来たら降りて逃げればいい。

 そんな考えて俺は王国へと帰っていった。道中帝国からの追っ手が来ることはなかった。俺は帝国と王国の間にある国を楽々と通過して王国に帰ってきた。いくら帝国と言えども勝手に仮想敵国に兵士を入れるような真似は出来なかったらしい。

 王国に帰ってまず最初に学園の領に向かった。ムルムルがちゃんと生活しているのか不安もあったし。

「レオスじゃないか! どうしてここに!?」

「ああ、アインか」

 俺は珍しいなと思った。大体の奴は帰省してるし、学園の寮に残っているのは極僅かだ。アインも何かわけがあって残っているんだろうか。まああまり突っ込んだことは聞けないけど。

「なんでこっちにいるんだ!? 今大変なことになってるの知らないのか!?」

 なんだか焦ったような口調でアインが俺に伝えてくる。何かあったんだろうか。

「レインが帰省中に行方不明になったんだろ! 君は今までどこにいたんだよ!」

「は? なんだそれ、冗談だろ」

「冗談でこんな悪趣味なことは言わないよ、もう探索隊は出ているが置き去りにされた馬車に御者の死体と荷物は無事、完全にレインを目的とした誘拐だよ」

 なんてことだ。俺が闘技大会にうつつを抜かしている間にそんなことが起こるななんて。いつもなら一緒に帰っていたから何かあっても対応できると思っていた。それにレイン自身も相当強い、それを誘拐出来るとなると相応の実力者ということとなる。

「……レオス? なんで笑ってるんだ」

 俺ははっとなり、手を口元に当てる。
 笑っていた? レインの危機なのに、相手が強いかもしれないからと思ったからか?
 俺はいつからそんな薄情なやつになったんだ。

「とにかく、僕も捜索に参加する。もちろんレオスもだよね?」

「当然だろ。準備したら急いで向かう。先に行っててくれ」

 俺はそう言ってアインを見送ると、急いで寮の自室へと向かった。そこには俺のベットの上でグースカと眠るムルムルの姿があった。周りにはおやつの包装紙がそこら中に散らばっていた。
 生活費はおやつに消えたか……。まあ悪魔って別に食べなくても死ななそうだし、こんなもんか。俺は散らばっていた紙を少しまとめてどかす。
 
 ふいに机に目をやると、真っ黒い便箋が目についた。
 誰か俺がいない間に置いていったのか? いやムルムルがいるしそもそも部屋は閉めていたはず。ということは何者かが忍び込んで置いていったということだ。

 俺は黒い便箋の封を切り、中に入っているであろう手紙の内容を確認する。

「レイン・オブリールは預かった。返して欲しくば記載されている場所に一人で来るように」

 記されていたのは王都からそう遠くない場所だった。
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