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第一章

9 レオス・ヴィダールの剣術大会②

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 剣術大会の試合が始まる。
 一回戦の最初は主人公、アインの試合からだ。

 10歳とは思えないほど鍛え上げられたその体、相手の貴族の子が小さく見えるようだ。
 小さいころから鍛えすぎると大きくならないぞ! なんて言われてたけどすでに一回り位大きい。

 身長も高く、筋力も上となれば相手の子が勝てる可能性は皆無であろう。

 審判が試合の開始を告げるのと同時にアインが駆け出す。
 ただ普通の斬り上げ、しかしその一撃で充分だった。
 相手の剣は手か離れ宙を舞う。
 ペタリと尻餅をついた相手の顔面に剣を突き立てる。

「勝者、アイン・ツヴァイン!」

 試合を決める審判の言葉を聞くと、アインはさっさと剣を鞘に納め、倒れている子供に手を差し伸べる。
 試合前に見せていた、あの敵を射殺すような顔はもうそこにはない。
 好青年のアインがそこにはいた。

「強いねーあの子」

「そりゃあ、主人公だし」

「主人公?」

「いや、なんでもない、辺境伯の息子だし幼いころから鍛えてるんだろ、地力が違うよ」

 試合を観戦していたレインがその戦いぶりを評価する。
 でも彼女なら……いやないか、まだまだ子供、あの体格差で対抗するには無理がある。

 その後も順調に試合は進んだ。
 レインも無事一回戦を勝ち進み、一回戦最後の試合となった。

 俺は控室から廊下に出て、闘技場の真ん中に向かって歩く。
 正面にはクーゾ・コザック、俺の対戦相手だ。
 正直力量は分からないが、今までの試合を見る限り、そこまで突出して強い子供はいなかった。

「お前には負けねえ」

「そうか、お互い頑張ろうな」

 俺は相手の挑発に乗らず握手をしようとした。
 それを拒否され俺の手は空を切った。

 うんお前、ボコすの確定な。

 どんだけ強いかは知らないけど、礼儀がなってないやつは好きじゃないんだよな。
 俺たちは距離を取り、剣を体の正面に構える。
 相手と同じ構えだ。

「両者構えて、始め!」

 いきなり飛び掛かってくることも想定していたが、相手は慎重にこちらの間合いを測っている。
 思ったより慎重だ。
 さっきの威勢のいい言葉ははったりか?
 
 じりじりとお互いの間合いを詰めていく俺達。
 お互いの剣先がぶつかりそうなところでお互いが動く。
 相手は上段からの切りかかり、俺は足を狙った下段攻撃。

 致命傷になるのは俺の方だ。
 俺は振り切る剣の反動を利用して右側に滑り込むようにして相手の攻撃をよける。
 足には多少のダメージを負わせることは出来たが、思ったよりも相手のスピードが早い。
 クソ、こういうのはさくっと勝たせて、優勝候補との戦いに備えるもんだろうが!

 俺が倒れているのを好機と捉えたのか、相手は俺に切りかかってくる。
 それをバク転で躱し、再びお互いの間合い取りが始まった。

 もっとこう、他の試合ではバチバチとしたつばぜり合いがあったのだが、この試合はそれに反して静かな時間が長い。
 お互いの実力が拮抗しているのか、はたまた見《けん》に回っている時間が長いのか、客席からは少し野次が飛ぶ。

「ちまちまやってんじゃねーぞ!」
「俺たちはお遊戯をみにきてんじゃないんだぞ」

 柄の悪く酒によった民衆が汚い言葉で罵ってくる。
 そんなこと言われてもさあ、俺の剣は基本受け身の型、相手もそうだった場合こうなるのは必然だろう。

「言われてるぞ、どうしたかかってこないのか?」

 クーゾの安い挑発が入る。
 そうだな、このままじゃ埒があかないし攻勢に出るとしよう。

「後悔するなよ?」

 俺は今までのじりじりとした間合い取りをやめ、相手に向かって一直線に向かっていく。
 そのまま突きを繰り出そうとする。
 これはフェイントだ。
 相手が防御の姿勢を取って両脇腹が空いたところに軌道変化させた剣を振るう。
 これは見切れたのか、相手も剣で防御する。
 しかし。

「かはっ……」

 もう片方の脇腹に俺の左足がめり込む。
 カモール仕込みの体術込みの剣術だ。
 初見で、なおかつ剣でしか戦うことを想定していない相手にとっては、その攻撃以上の価値があっただろう。

 一度見せてしまったものはしょうがない。
 俺は相手が立ち上がるのを待ってもう一度剣を構え直す。

「……舐めやがって!」

 激情に狩られたクーゾが俺に襲い掛かってくる。
 しかし臓器に入ったダメージはそう簡単には回復しない。
 緩慢とまではいかないが、最初に比べて遅い攻撃に、俺は簡単に対処した。
 そして二度目となる右わき腹への攻撃。

 やりすぎたか、骨が折れるような音が聞こえた。
 だから嫌なんだよ、攻撃に集中すると手加減が出来ないから。

 剣を離し完全に蹲ったクーゾを見て審判が試合の終わりを告げる。

「勝者、レオス・ヴィダール」

 歓声はまばらだった。

「剣を見に来たのに、蹴りだなんて」
「野蛮ねえ」
「いいぞ、たまにはこういうのも悪くねえな」

 ふとカモールとレインの方を見る。
 二人は満面の笑みで拍手を送っている。
 まあいいだろう。
 二人が喜んでくれているなら、他の評価なんてどうでもいい。

 俺は満足しながら闘技場の中央から去った。
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