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第6曲 kindlich ―少年―
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曲はアラム・ハチャトゥリアン作『剣の舞』。運動会でもお馴染みのアップテンポで軽快なリズムを刻んでいく楽曲だ。中学生の子が電子ピアノで伴奏を担当し、小学生の子が木琴であるマリンバで主旋律を担当。二人とも大人でも難しい曲を目にも留まらぬ早さで奏でていく。
周りの大人たちが驚いているのも納得で、私とて開いた口が塞がらないほど圧倒された。特にマリンバのマレット(バチ)は意外と重く、あんな風に高速で叩けば腕にかなりの負担もかかるはず。それを小さな子供が操っているのだから恐れ入る。
でも暫く聞き入っているうちに私はあることに気づいた。
音のズレが、ない。
……それは、つまり。
「ね、ねぇっ。あの子たちって」
そう言って一緒に来た二人を振り返ると、私と同じように度肝を抜かれたような顔で彼らの演奏を見ていた。
けれど二人が驚いていたのは男の子たちの演奏技術ではなく。
「……日向」
「あぁ、間違いねぇ。ガキの姿をしているが」
どうやら二人も気づいたみたい。
あの少年たちは私たちと同じ、ブリッランテのメンバーであるということに。
『剣の舞』が終わると、周りからは割れんばかりの拍手が巻き起こった。奏者の二人は丁寧にお辞儀をすると、二人で見つめ合って嬉しそうに微笑んだ。
すると今度は脇から新たに男の子二人が大太鼓と小太鼓などを抱えて登場し、どうやらまだ何かやろうとしているらしい。
「もしかして、あっちの子たちもそうなの?」
「いや……、あの二人の顔は見覚えがねぇ」
私の質問に高杉君が不思議そうな顔をして応えた。隣で荒井君も頷いていたから、どうやら追加の子たちはブリッランテのメンバーではなさそうだ。お友達とかだろうか。
「皆さん、ありがとうございます。次の演奏は、彼ら三人による打楽器のアンサンブルです。激しいバトルのような一糸乱れぬ演奏にご注目ください。ジヴコヴィッチ作曲、Trio Per Uno!」
ピアノを弾いていた子がそう言うと、先ほどマリンバを叩いていた子を含めた三人の演奏が厳かに始まった。三人で大太鼓を中心に囲い、それぞれがボンゴという太鼓と、シンバルのようなチャイナ・ゴングを脇に添えて演奏するスタイルだ。
いわゆる打楽器三重奏のこの曲は私も聞くのが初めてだった。ピアノの子が紹介したように三人が息をピッタリと合わせて、素人から見ても難易度が高いと分かる細かなリズムを刻んでいく。音の入りから一瞬の休符まで乱れを感じさせず、緊張感に溢れている。
太鼓だからそこにメロディはないのだけれど、時々挟むゴングの音もまたアクセントとなり紡がれていく楽曲に心が躍った。
改めて言うけれど、これを演奏しているのは紛うことなき小学生なのである。
最後にキメのバスドラムを一発叩いて静止した彼らは、再び拍手喝采を浴びた。
周りの大人たちが驚いているのも納得で、私とて開いた口が塞がらないほど圧倒された。特にマリンバのマレット(バチ)は意外と重く、あんな風に高速で叩けば腕にかなりの負担もかかるはず。それを小さな子供が操っているのだから恐れ入る。
でも暫く聞き入っているうちに私はあることに気づいた。
音のズレが、ない。
……それは、つまり。
「ね、ねぇっ。あの子たちって」
そう言って一緒に来た二人を振り返ると、私と同じように度肝を抜かれたような顔で彼らの演奏を見ていた。
けれど二人が驚いていたのは男の子たちの演奏技術ではなく。
「……日向」
「あぁ、間違いねぇ。ガキの姿をしているが」
どうやら二人も気づいたみたい。
あの少年たちは私たちと同じ、ブリッランテのメンバーであるということに。
『剣の舞』が終わると、周りからは割れんばかりの拍手が巻き起こった。奏者の二人は丁寧にお辞儀をすると、二人で見つめ合って嬉しそうに微笑んだ。
すると今度は脇から新たに男の子二人が大太鼓と小太鼓などを抱えて登場し、どうやらまだ何かやろうとしているらしい。
「もしかして、あっちの子たちもそうなの?」
「いや……、あの二人の顔は見覚えがねぇ」
私の質問に高杉君が不思議そうな顔をして応えた。隣で荒井君も頷いていたから、どうやら追加の子たちはブリッランテのメンバーではなさそうだ。お友達とかだろうか。
「皆さん、ありがとうございます。次の演奏は、彼ら三人による打楽器のアンサンブルです。激しいバトルのような一糸乱れぬ演奏にご注目ください。ジヴコヴィッチ作曲、Trio Per Uno!」
ピアノを弾いていた子がそう言うと、先ほどマリンバを叩いていた子を含めた三人の演奏が厳かに始まった。三人で大太鼓を中心に囲い、それぞれがボンゴという太鼓と、シンバルのようなチャイナ・ゴングを脇に添えて演奏するスタイルだ。
いわゆる打楽器三重奏のこの曲は私も聞くのが初めてだった。ピアノの子が紹介したように三人が息をピッタリと合わせて、素人から見ても難易度が高いと分かる細かなリズムを刻んでいく。音の入りから一瞬の休符まで乱れを感じさせず、緊張感に溢れている。
太鼓だからそこにメロディはないのだけれど、時々挟むゴングの音もまたアクセントとなり紡がれていく楽曲に心が躍った。
改めて言うけれど、これを演奏しているのは紛うことなき小学生なのである。
最後にキメのバスドラムを一発叩いて静止した彼らは、再び拍手喝采を浴びた。
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