国守護楽団 Brillante

貴良一葉

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第2曲 affrettando ―加速―

2-1(2)

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和泉は安芸に支えられながら体を起こすと、用意してあった温かいお茶を口にした。

「えっと、荒井君……? ありがとう、それに高杉君も。迷惑かけてごめんなさい」
「気にしないで、元々日向コイツが悪いんだし。でも困ったな、記憶が戻っていない君をこのまま巻き込むのは忍びないけど、和泉がいないとメストの封印はできないし……どうする? 日向」

 俺に聞くのかよ。
 散々罵倒だけしておいて意見を求められ、俺は転びそうになった。

 安芸は国守護楽団の安芸国あきこく・安芸の生まれ変わりであり、俺とは二年ぐらい前からコンタクトを取り続けていた。歳は俺や和泉と同い年で、コイツも大阪の大学を受け、この春に広島からこっちへ移住してきている。
 で、仮のアジトとして借りたこのシェアハウスで暮らしているわけなのだが、どうにもコイツの方が一枚上手で正直やりづらい。

「どうするったって、やらせるしかねぇだろうが」
「まーたそんな無責任なこと言って、君の悪い癖だね」

 このヤロー、お前が聞いてきたから答えたんだろうが。
 俺と安芸がしょうもない口喧嘩をしていると、和泉が小さく手を上げて「あのーぅ」と声をかけてきた。

「二人が言ってるのって、本当に私なの? ……そもそも記憶って何の記憶?」

 その質問に俺は安芸の顔を一見して「説明してやれ」と促した。こうゆう役は奴の方が適していることは、コイツと連んできた期間で学んでいた。安芸は嫌がる素振りも見せず、寧ろ喜んでその役目を引き受けた。

「そうだね、まずはブリッランテについて話そうか」

 安芸の言葉に、和泉はコクリと頷いた。

 国守護楽団こくしゅごがくだん Brillanteブリッランテ。かつてこの日本に存在した、各地方を守護するため秘密裏に結成された組織の名称だ。武装集団では民に不安感を与えてしまうことから、彼らは表向きには音楽団という形で活動していた。
 組織名の『brillante』は音楽で曲調を指示する音楽用語である。意味は『華やかに』や『輝かしく』。人々の心に希望をもたらす音楽のように、民にとって光となる存在でありたいと彼らが願ってつけたものだ。

「彼らは地域ごとに首領を置き、その首領たちは国名をそのまま自分たちの名前としてつけた。陸奥国むつこく(現・青森県)の陸奥、羽後国うごこく(現・秋田県)の羽後って具合にね。日向が生まれ変わりと言ったのは、僕らはこの首領たちが転生した存在ってことさ」

 当然のように話す安芸に和泉は困惑していた。まぁ、まともな奴なら信じないだろう、こんな子供だましのような話。だが俺たちは信じざるを得なかったのだ。

「で、でも荒井君たちはどうしてそんなこと分かるの?」
「僕たちには前世の記憶があるんだよ。ある使命を果たすために、この記憶が復活するよう前世で仕組まれていたんだ」

 ――記憶復活アウフレーベントの儀。
 俺たちはこの儀式の力で、物心ついた時から前世の記憶が蘇っているのだ。
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