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第1曲 stravagante ―突飛―
1-2(2)
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太陽が西に傾き始めている空の下を歩き、私たちは練習室の近くにある公園で話をすることになった。途中で高杉君が自動販売機で缶コーヒーを2つ買い、その内の1つを私に投げて渡してくれた。
「あっ、ありがとう」
「別に。それより、読みどおりあの楽団にお前がいてくれて良かった。総長のお前がいなきゃ先に進まねぇからな」
「ん、総長……?」
ベンチに腰掛けて缶コーヒーを嗜みながら、私は高杉君の話に首を傾げた。てっきり音のズレの話の続きをするのだと思ったら、高杉君は一体何のことを言っているのだろうか。コンミスではあるけど楽団長ではないし、まず団長のことを総長と呼ぶ人はいない。暴力団でもあるまいし。
でも彼は困惑している私に気づくこともなく更に話を続けた。
「奴らはもう既に動き出しているんだ。大阪へ来るまでにも何度か襲撃に遭った、向こうも俺たちの存在を周知している。早くこっちから攻めねぇと手遅れになるぞ」
聞けば聞くほど高杉君の口からは不思議なワードが次々と出てくる。もしかしてこれは何か勘違いをしているのではないだろうか。そんな気がして私は未だよく分からない話を進めている彼を一旦止めることにした。
「――から、お前も早くアジトに……」
「ちょ、ちょっと待って。ストップ、ストーップ!」
「なっ、何だよいきなり」
突然叫び声を上げた私に高杉君は目を瞬かせて驚いていた。直前に〝アジト〟って言った気がするけど聞かなかったことにしよう。
「高杉君、何か勘違いしてる? 私が聞きたかったのは音のズレのことなんだけど」
「は……? 音のズレ?」
高杉君の反応を見て確信した。やっぱり私たちの会話は噛み合っているようでお互いに違う話をしていたのだ。ようやく彼もそれに気づいたようで呆然としている。
「お前、ブリッランテの和泉だよな?」
「ぶりっらんて? ごめんナニソレ、聞いたことないんだけど」
…………。
お互いの間に、暫しの沈黙が訪れた。
そして今度は高杉君が叫ぶようにして啖呵を切った。
「はぁあああ!? ふざけんな、どれだけ苦労して探したと思ってんだよ! 惚けたこと言わずにさっさとアジトへ来やがれ!」
クールな印象は一変し、怒号を上げる高杉君に恐怖を覚えた。どうしよう、思っていたのと違い彼はとても乱暴な人なのかもしれない。逃げなきゃ、と本能でそう思った。
でも高杉君もそれを感じ取ったのか、ベンチから立ち上がった私の腕を掴んで何処かへ連れていこうとしたのだ。
「逃げようったって、そうはいかねぇぞ。俺だって好きでやってるわけじゃねぇんだ、自分だけ見過ごされると思うなよ」
「やだっ、放し――」
高杉君の手を振り払おうと必死に抵抗したけど、男の人の力に敵うはずがなく彼自身も決して放そうとしなかった。もう駄目だ、これは助けを呼ぶしかない。そう思って息を思い切り吸った時だった。
――私たちを取り囲んでいる何かの気配に気づいたのは。
「えっ……?」
「……ちっ。臭いを嗅ぎつけられたか」
私たちを取り囲んだ正体。
それは、鋭い牙を剥きだしにして今にも襲いかかろうとする、黒い大型犬の集団だったのだ。
「あっ、ありがとう」
「別に。それより、読みどおりあの楽団にお前がいてくれて良かった。総長のお前がいなきゃ先に進まねぇからな」
「ん、総長……?」
ベンチに腰掛けて缶コーヒーを嗜みながら、私は高杉君の話に首を傾げた。てっきり音のズレの話の続きをするのだと思ったら、高杉君は一体何のことを言っているのだろうか。コンミスではあるけど楽団長ではないし、まず団長のことを総長と呼ぶ人はいない。暴力団でもあるまいし。
でも彼は困惑している私に気づくこともなく更に話を続けた。
「奴らはもう既に動き出しているんだ。大阪へ来るまでにも何度か襲撃に遭った、向こうも俺たちの存在を周知している。早くこっちから攻めねぇと手遅れになるぞ」
聞けば聞くほど高杉君の口からは不思議なワードが次々と出てくる。もしかしてこれは何か勘違いをしているのではないだろうか。そんな気がして私は未だよく分からない話を進めている彼を一旦止めることにした。
「――から、お前も早くアジトに……」
「ちょ、ちょっと待って。ストップ、ストーップ!」
「なっ、何だよいきなり」
突然叫び声を上げた私に高杉君は目を瞬かせて驚いていた。直前に〝アジト〟って言った気がするけど聞かなかったことにしよう。
「高杉君、何か勘違いしてる? 私が聞きたかったのは音のズレのことなんだけど」
「は……? 音のズレ?」
高杉君の反応を見て確信した。やっぱり私たちの会話は噛み合っているようでお互いに違う話をしていたのだ。ようやく彼もそれに気づいたようで呆然としている。
「お前、ブリッランテの和泉だよな?」
「ぶりっらんて? ごめんナニソレ、聞いたことないんだけど」
…………。
お互いの間に、暫しの沈黙が訪れた。
そして今度は高杉君が叫ぶようにして啖呵を切った。
「はぁあああ!? ふざけんな、どれだけ苦労して探したと思ってんだよ! 惚けたこと言わずにさっさとアジトへ来やがれ!」
クールな印象は一変し、怒号を上げる高杉君に恐怖を覚えた。どうしよう、思っていたのと違い彼はとても乱暴な人なのかもしれない。逃げなきゃ、と本能でそう思った。
でも高杉君もそれを感じ取ったのか、ベンチから立ち上がった私の腕を掴んで何処かへ連れていこうとしたのだ。
「逃げようったって、そうはいかねぇぞ。俺だって好きでやってるわけじゃねぇんだ、自分だけ見過ごされると思うなよ」
「やだっ、放し――」
高杉君の手を振り払おうと必死に抵抗したけど、男の人の力に敵うはずがなく彼自身も決して放そうとしなかった。もう駄目だ、これは助けを呼ぶしかない。そう思って息を思い切り吸った時だった。
――私たちを取り囲んでいる何かの気配に気づいたのは。
「えっ……?」
「……ちっ。臭いを嗅ぎつけられたか」
私たちを取り囲んだ正体。
それは、鋭い牙を剥きだしにして今にも襲いかかろうとする、黒い大型犬の集団だったのだ。
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