紅蓮のフォルテ

花国鶴

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プロローグ

全ての始まり ライブ前

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 夜の街は、落ち着く。
 特に、冬の、雪の積もっている日がいい。
 それが、鳴宮響の正論だった。
 
 鳴宮響は、中学2年生。
 九州の田舎暮らしの彼女は去年の春、関東の中学校に入学した。家族は故郷にいるので、1人だけの寮暮らしである。
 遠くの田舎から知らない都会へ乗り込んだ響にとって、街の雰囲気にはまだ慣れないでいた。
 しかし、夜の街は、響の心を穏やかにした。街灯に照らされる横浜の街並みは、いつも学校生活で苦労する響を慰めるのだ。
 今日は一日雪が降っていたため、いつもより気分良く街を歩いている。横浜に雪が降ったことで、いつもよりも賑やかに感じられた。
 そんな横浜の夜の街を眺めつつ、響はとあるライブハウスへと向かった。背中には、ギターを提げている。
「こんばんは…」
「ヤッホー!今日もよろしくね」
 ライブハウスの店長・大江華那子が、響を笑顔で出迎えた。
 ここはライブハウス『ハーモニー』。20代の若き店長、大江が取り締まる、小さなライブハウスだ。
「今日セットはどうなっていますか?雪が積もっているので、もしかしたらお客さん少ないかもしれない…」
 ギターを下ろし、響は問う。大江は苦笑した。
「そうだねえ…」
 大江はパシッと手を叩いた。そしてニカっと笑う。
「心配ご無用!今日のチケットは完売、キャンセルの連絡もないよ」
「今日のメイングループは横浜イチのバンドだから、皆さん無理にでも行きたいんじゃないかな」
 隣の部屋から、金井華が顔を覗かせた。彼女は、『ハーモニー』唯一の正社員である。
「今日は響ちゃんにも歌ってもらうけど、準備はいい?」
「はいっ!」
 響はしっかりと返事をした。
 響は、学業の傍らで、『ハーモニー』のアルバイトをしている。親の仕送りを軽くしようと思い始めたが、響自身、結構気に入っている。たまにステージで歌えるのは、音楽好きでバイトに従実な響の特権だ。
 今は、午後7時30分。あと30分後にライブが始まる。
「さあ、2人とも、今日も頑張ろう!」
 大江の掛け声と同時に、響と金井はそれぞれの持ち場についた。


 これが、全ての始まり。
 冬の横浜、小さなライブハウスで、全ての運命は回り出した。


 
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