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1章 指輪仕掛けの恋愛
2-1 爆発音
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『ギャギャッギャギャギャ』
不気味な声を上げながら大きな鳥が羽ばたいていく。
アリアは肩をすくめながら恐怖に耐えていた。
「い、いつまでこんなところにいるのよ。やっぱり誰もいないじゃない」
あたりを見回すも、周りには木、木、木。
ここは森のど真ん中。といった印象だった。
二人の体にはところどころに得体の知れない汚れが付いていて、小さな擦り傷もある。
森の中に走る整備された街道沿いを歩いていたはずなのに、ルカが街道から外れていきなり森の中に突っ込んだせいでここがどこなのか見当もつかない。
(こんなところに、なにがあるってのよ)
道なき道を迷いなく進むルカが不思議だった。
これだけ広い森で、何も手がかりもないし、本当に誰かいるのかも分からない。
そもそも、こんな遠くから女の子の声が聞こえるなんて、常識では考えられない。
それなのにルカは迷うことなく進み続けていて、何かにとり憑かれているのでは?とアリアは疑った目で見ていた。
時折見える葉の隙間。差し込む光から見るに陽が随分と高くまで登っている。
学園では、無断欠席となっているだろう。純特待生としてはあまりこうゆうのは避けたいのだけど・・・。
自分から誘ったせいで強く言えないでいるアリア。
それに、万が一なにか見つけることができればまた功績が増える。
心の中でそんな考えもあったのもあり、ルカに黙って付いてきているが、そろそろ精神的にも限界のようだ。
「ねぇルカ?聞いてる?もう帰ろうよ。」
あてもなく彷徨う二人。
アリアはいい加減しびれを切らしルカに声をかける。
歩き始めて1時間ちょっと。確かに、人の痕跡すらないのにこれは厳しいかも、と判断したのかルカも立ち止まる。
そして大きく息を吸い込むと、
「おおぉーいぃ!!・・・」
「ば、バカ!!そんな大きな声出したらみつかっちゃうじゃないの!!」
息を殺しながらアリアは叫ぶと、大急ぎでルカの口を両手で塞ぐ。
何かに呼びかけようとしたルカは急に口を塞がれて静かになった。
「いきなり何するんだよ。近くにいるかも知れないから呼ぼうとしたんだ。」
「だ、だからってそんな大声出したらみつかっちゃうじゃないのよ!!」
「見つかるって・・・、僕は見つけたいんだよ!」
「だぁーかぁーらぁー、もし相手が攻撃的だったらどうするのよ!助けを呼ばれたんなら、少しは緊張感持ちなさいよ!普通こういう場合、きっと凶悪な何かがいるはずなのよ!」
急に後ろから口を塞がれてルカも驚いた様子。
もしかしたら、この近くにいるかも知れない。
でも、アリアをこれ以上連れ回す訳にはいかない。
ルカも潮時だとは思っていた。だからせめて、このあたりに、声が届くところにいないかを確認したかったのだ。
そんな助けを求めているのなら、見つけてあげたい。
そう思ってここまで来たけど実際には誰もいない。焦った気持ちで警戒を怠ったのは事実だ。
アリアの言うとおり、女の子が一人で困っているとは限らない。
誰か、暴力的な誰かがいると考えたほうが妥当だ。
口を塞ぐ手をほどくと、彼女に謝るために後ろを振り返る。
(っ!!?)
そこには、子供の頃にも経験したことがなかったくらい、近い場所にアリアの顔があった。
「・・・わ、あ、・・・その、悪かったよ・・・」
目のやり場にも、どう接したらいいのかもわからないルカはそのままオドオドと謝ると再び視線を前に戻した。
「??。まぁ、これは学園の訓練とかじゃないんだから、注意してね!?」
アリアはルカがなにに戸惑っているのか理解できなかったが、本人が謝ってくれているのでそれ以上は追求しないことにした。
『ギャギャッギャギャ』
バサバサ・・・。
「ひっ!!」
二人の近くの茂みから大きな鳥が羽ばたいていく。
アリアはそれに驚き声を漏らしてしまう。
「お前だって、うるさいじゃんか」
「う、うるさいな・・・」
頭を押さえて、照れたように笑う彼女を見て、口元が緩んでしまうルカ。
子供の頃にこうやって冒険ゴッコをしたのを思い出す。
『助けて!』
頭に直接響くような感じで、また女の子の声がした。
今度は、かすれたりしていないでハッキリと。
「き、聞こえた?今の」
「なにが?」
すぐそばで呼ばれたような感覚があるにも関わらず、今回もアリアには聞こえていないようだ。
「また、女の子の声がした。今度はハッキリと。聞き間違えなんかじゃない。きっとそばにいるんだ!」
「えぇ?またそれ?だって、私にはそんな声全然聞こえない―」
ドオゥウン・・・
『ギャ・・ギャギャ・・』
少し離れたところで、なにか大きな爆発音のような音がした。
音の感じからするとアリアの魔装、銃型を使用するときのモノに近い。
先ほど羽ばたいた鳥が撃たれたのだろうか。
2人は音がした方に釘付けになっている。
「今の、魔装かな?」
「あぁ。多分・・・。アリアの言うとおり、誰かいたみたいだね。」
「ねぇ、一旦戻ろうよ。危ないって!」
帰りたい。逃げたい。
喉まで声は出ていた。
でも、誰かに助けを求めている女の子の事を考えると、逃げるわけには行かない。
額に脂汗をかきながら、ルカは一歩を踏み出そうとしていた。
「ここまで来たら、戻れないだろ。音がした方に誰かいる。いくらなんでも、出会ってその場で即殺す。なんてことはそうそうないと思うし、行ってみようと思う。アリアは戻ってこのことを知らせてくれ」
カッコつけてないで帰ろうよ!
アリアも、喉まで声が出ていた。
でも、最後に言われた『いきなり殺すことはない』という言葉に背中を押される形で、そのままルカと行くことを覚悟した。
「い、いい、いいわよ。べべ、べつにこのくらい怖くないし。そこまで言うなら、様子みるだけね。見るだけ!やばかったら即逃げるんだから。いい?」
「はは、はいはい。静かにね。静かに」
「ルカにだけは静かにって言われたくないわよ!」
ドオゥウン・・・
『っ!!!』
目の前、そう遠くない距離で聞こえる爆発音に驚き、その場に身を伏せる二人。
今度は、何も命中しなかったのか爆発音以外聞こえない。
「し、静かにな・・・」
「うん。」
ルカは口元に人差し指を立て、静かに。とジェスチャーをすると、アリアは静かに頷いた。
草を静かにかき分け、2人は音のした方へ進んでいく。
不気味な声を上げながら大きな鳥が羽ばたいていく。
アリアは肩をすくめながら恐怖に耐えていた。
「い、いつまでこんなところにいるのよ。やっぱり誰もいないじゃない」
あたりを見回すも、周りには木、木、木。
ここは森のど真ん中。といった印象だった。
二人の体にはところどころに得体の知れない汚れが付いていて、小さな擦り傷もある。
森の中に走る整備された街道沿いを歩いていたはずなのに、ルカが街道から外れていきなり森の中に突っ込んだせいでここがどこなのか見当もつかない。
(こんなところに、なにがあるってのよ)
道なき道を迷いなく進むルカが不思議だった。
これだけ広い森で、何も手がかりもないし、本当に誰かいるのかも分からない。
そもそも、こんな遠くから女の子の声が聞こえるなんて、常識では考えられない。
それなのにルカは迷うことなく進み続けていて、何かにとり憑かれているのでは?とアリアは疑った目で見ていた。
時折見える葉の隙間。差し込む光から見るに陽が随分と高くまで登っている。
学園では、無断欠席となっているだろう。純特待生としてはあまりこうゆうのは避けたいのだけど・・・。
自分から誘ったせいで強く言えないでいるアリア。
それに、万が一なにか見つけることができればまた功績が増える。
心の中でそんな考えもあったのもあり、ルカに黙って付いてきているが、そろそろ精神的にも限界のようだ。
「ねぇルカ?聞いてる?もう帰ろうよ。」
あてもなく彷徨う二人。
アリアはいい加減しびれを切らしルカに声をかける。
歩き始めて1時間ちょっと。確かに、人の痕跡すらないのにこれは厳しいかも、と判断したのかルカも立ち止まる。
そして大きく息を吸い込むと、
「おおぉーいぃ!!・・・」
「ば、バカ!!そんな大きな声出したらみつかっちゃうじゃないの!!」
息を殺しながらアリアは叫ぶと、大急ぎでルカの口を両手で塞ぐ。
何かに呼びかけようとしたルカは急に口を塞がれて静かになった。
「いきなり何するんだよ。近くにいるかも知れないから呼ぼうとしたんだ。」
「だ、だからってそんな大声出したらみつかっちゃうじゃないのよ!!」
「見つかるって・・・、僕は見つけたいんだよ!」
「だぁーかぁーらぁー、もし相手が攻撃的だったらどうするのよ!助けを呼ばれたんなら、少しは緊張感持ちなさいよ!普通こういう場合、きっと凶悪な何かがいるはずなのよ!」
急に後ろから口を塞がれてルカも驚いた様子。
もしかしたら、この近くにいるかも知れない。
でも、アリアをこれ以上連れ回す訳にはいかない。
ルカも潮時だとは思っていた。だからせめて、このあたりに、声が届くところにいないかを確認したかったのだ。
そんな助けを求めているのなら、見つけてあげたい。
そう思ってここまで来たけど実際には誰もいない。焦った気持ちで警戒を怠ったのは事実だ。
アリアの言うとおり、女の子が一人で困っているとは限らない。
誰か、暴力的な誰かがいると考えたほうが妥当だ。
口を塞ぐ手をほどくと、彼女に謝るために後ろを振り返る。
(っ!!?)
そこには、子供の頃にも経験したことがなかったくらい、近い場所にアリアの顔があった。
「・・・わ、あ、・・・その、悪かったよ・・・」
目のやり場にも、どう接したらいいのかもわからないルカはそのままオドオドと謝ると再び視線を前に戻した。
「??。まぁ、これは学園の訓練とかじゃないんだから、注意してね!?」
アリアはルカがなにに戸惑っているのか理解できなかったが、本人が謝ってくれているのでそれ以上は追求しないことにした。
『ギャギャッギャギャ』
バサバサ・・・。
「ひっ!!」
二人の近くの茂みから大きな鳥が羽ばたいていく。
アリアはそれに驚き声を漏らしてしまう。
「お前だって、うるさいじゃんか」
「う、うるさいな・・・」
頭を押さえて、照れたように笑う彼女を見て、口元が緩んでしまうルカ。
子供の頃にこうやって冒険ゴッコをしたのを思い出す。
『助けて!』
頭に直接響くような感じで、また女の子の声がした。
今度は、かすれたりしていないでハッキリと。
「き、聞こえた?今の」
「なにが?」
すぐそばで呼ばれたような感覚があるにも関わらず、今回もアリアには聞こえていないようだ。
「また、女の子の声がした。今度はハッキリと。聞き間違えなんかじゃない。きっとそばにいるんだ!」
「えぇ?またそれ?だって、私にはそんな声全然聞こえない―」
ドオゥウン・・・
『ギャ・・ギャギャ・・』
少し離れたところで、なにか大きな爆発音のような音がした。
音の感じからするとアリアの魔装、銃型を使用するときのモノに近い。
先ほど羽ばたいた鳥が撃たれたのだろうか。
2人は音がした方に釘付けになっている。
「今の、魔装かな?」
「あぁ。多分・・・。アリアの言うとおり、誰かいたみたいだね。」
「ねぇ、一旦戻ろうよ。危ないって!」
帰りたい。逃げたい。
喉まで声は出ていた。
でも、誰かに助けを求めている女の子の事を考えると、逃げるわけには行かない。
額に脂汗をかきながら、ルカは一歩を踏み出そうとしていた。
「ここまで来たら、戻れないだろ。音がした方に誰かいる。いくらなんでも、出会ってその場で即殺す。なんてことはそうそうないと思うし、行ってみようと思う。アリアは戻ってこのことを知らせてくれ」
カッコつけてないで帰ろうよ!
アリアも、喉まで声が出ていた。
でも、最後に言われた『いきなり殺すことはない』という言葉に背中を押される形で、そのままルカと行くことを覚悟した。
「い、いい、いいわよ。べべ、べつにこのくらい怖くないし。そこまで言うなら、様子みるだけね。見るだけ!やばかったら即逃げるんだから。いい?」
「はは、はいはい。静かにね。静かに」
「ルカにだけは静かにって言われたくないわよ!」
ドオゥウン・・・
『っ!!!』
目の前、そう遠くない距離で聞こえる爆発音に驚き、その場に身を伏せる二人。
今度は、何も命中しなかったのか爆発音以外聞こえない。
「し、静かにな・・・」
「うん。」
ルカは口元に人差し指を立て、静かに。とジェスチャーをすると、アリアは静かに頷いた。
草を静かにかき分け、2人は音のした方へ進んでいく。
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