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第4章 魔導都市の陰謀

15ー4 魔導の理

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 部屋の奥に淡く、緑に輝く球体が浮いていた。

「だ、だれ?」

「我は、この世の歴史を司る識者なり・・・。」

 部屋全体に響くような声。
 低く、冷たく、淡々と発せられるそれはシルウィアとは異なる声だった。

「人間よ。我らが神に選ばれしもの。何を求める?」

「神に選ばれしもの?何言ってるの?アリスはシルウィアに連れてこられたの!それより、ここにはだれかいるの!?」

「・・・見よ」

 うっすらと星のきらめく空間に撮されたのはアリシアの姿だった。

「これって・・・アリス?」

「世界は流転する。この場のみが全てではない。星の瞬きほどのわずかな隙間。そこには数え切れぬほどの汝がいる。その中で、汝は選ばれたのだ」

 空間に映し出されたのは見たこともない格好をしたアリシア、見たこともない場所にいるアリシア。クラーケンに負けた。この場所に来なかった。
 様々な過去の分岐点で違う世界を辿った彼女の姿だった。

「・・・選ばれた?」

「選ばれた人間たちよ。我が力を授けよう。我が力は知識。この世界と異世界を知る我が知識。過去、未来、現在。それは全て異なる世界。」

「なに?何を言っているの?」

「我は世界創造の日よりすべてを記録、記憶してきた存在。汝の問いに答えよう」

 アリシアの問い掛けにイマイチ要領を得ない球体。
 その球体に不信感をあらわにすると、シルウィアの姿があった。

「大丈夫、ここは、変なところじゃないから」

「シルウィア!?どこいってたの?」

「あはは、ぼくはずっとここにいるよ。言ったろ?神殿が目覚めた。って。・・・この場所も君の魔力を得て動き出したんだ。だから、君にここを使う権利がある。もう最後になるだろうし」

「最後?」

「うん、熱心な信者たちと上で君のお姉ちゃん達は戦っているみたいだし、この神殿はもうすぐ崩れるよ。・・・ほんと、すごい人間たちだね。炎を自在に操り、神の弓までも使う。・・・おまけに神も使役するとは。今までこんな人間見たことない」

 シルウィアが視線を壁に送ると、きららたちが誰かと戦っている姿が映し出されていた。
 アメリアはなんかすごい格好してるし、戦うというよりも、あの感じは逃げてる?

「いきなり、そんないろいろ言われても・・・」

「ほらっ、はやく!いろいろ時間がないよ!この空間は外の世界とは時間の流れが違うんだ。君が目覚めさせたこの神殿は、他の人間には渡せない。この場所はアリシア、君の魔力を使って精霊界へ転移する。」

「待って!、アリスは?どうなるの?」

 精霊界に転移、と言われ驚きを隠せないアリシア。そう、
 人間は精霊界へ行けない。
 以前フレイアからそう聞いていただけあって一緒に転移されては困る!という感じだった。

「まぁ、人間の君は一緒に転移はできないからそれまでにこの部屋を出て行くか、残されて砂に生き埋めか・・・。まぁ、大丈夫だよ。伯爵の件もあるし、君とは知らない中じゃないからちゃんと時間が来たら教えるから。君が気になることを時間まで聞けばいい。」

「うん・・。わかった・・・。それじゃあ、アリスたちも異世界に転移する方法はある!?」

 フレイアが初対面のシルウィアを紹介するときに性格が悪い。と言っていたのを思い出していくらか不審な目で見るアリシア。しかし、別に今危害を加えるわけでもないし、目の前にある不思議な物体に興味津々。正直どうでもよくなっていた。

「異世界転移する方法・・・。それは、存在する」

「え?あるの!?」

「異世界へ行くには、ゲートを開く。しかし、ゲートは小さく、魔力を通し、物質は通すことはできない。ただし、例外が存在する。ゲートの鍵を手に入れることができれば門の向こうへ行くことは可能になる。」

 異世界に行くことができる。それは理解に戸惑う答えだった。
 精霊界へ行くことができるかも知れない。それは魔導士であれば一度は考えるものだった。
 魔導の研究をするにあたり、そんな宝物庫のようなところへ行けるとは・・・。珍しいアイテムがあるかもしれない。未知の魔術にも出会えるかも知れない。そんな期待が一気に膨れ上がる。

「鍵・・・。かぎって、なに?」

「鍵とは、鍵であり、鍵でないもの・・・」

「鍵はどこにあるの?」

「鍵とは、鍵であり、鍵でないもの。その所在は常に留まらず、絶え間なく動くもの」

「意味わかんない」

「そんなこと言っても、嘘は言わないよ。多分、あれが答えなんだよ」

 鍵。かぎ。カギ・・・。宝物庫の扉の目の前まで来たのに、いきなりナゾナゾをだされ、理解に苦しむ。家の鍵を想像してみたがそんなものではないだろう。流動的で。鍵だけど、鍵でないもの・・・。
 しばらく頭を悩ましているようだったが、諦めてほかの質問を投げかける。

「それじゃあ、悪魔を倒す方法は?」

「倒すことは神でも不可能・・・。悪魔は影。光あるところに影は存在する。故に、悪魔を倒すことは不可能。」

「それじゃあ、神様って何?」

「神とは、この世界、異世界、すべての世界に光を作った存在。神がこの世界に光をもたらし、生きとし生ける者を創造された」

「精霊って何?」

「力なくした6体の神の使い。その役目を終えた魂が魔力をもった活動体。故に、人間界での活動には限界がある。」

 悪魔、神、精霊。全てが彼女の考えとは異なっていた。
 悪魔は影。
 神が世界に光をもたらした。
 この言い分だと、神様が悪魔を作ったみたいにも聞こえるけど・・・。
 それに、力を無くした神の使い・・・。それって、さっきの壁画の??

「この世界で言う魔法ってなに?」

「魔導とは、精霊の力を使う光。闇。風。土。水。火の6属性と神の力を扱う聖魔法。魔族の力を扱う黒魔法から存在する。精霊の力を使う魔法は、精霊の力を、魔力を、意識を借りる魔法。世界に溢れる精霊の魔力を己の自由な形で作り出すことができる。聖魔法、黒魔法を人間が使うことは現実的に不可能。闇の魔石。光の聖石が必要になるが入手ができない。闇の魔石は魔族の力を引き出すことができる。光の聖石は神の力を引き出すことができる。契約することは何人たりとも叶わず、発動するには精霊魔法よりも膨大な魔力を必要とする。」

「まって、待って。・・・。精霊魔法は・・・精霊を使役できるの?」

「精霊魔法とは、精霊のすべてを使役することなり。」

「・・・精霊魔法の限界は?」

「物質、物理、術者の魔力、全てにおいて6属性の精霊を使役すればこの世界の覇王となる」

「精霊の加護って・・・なに?」

「加護とは、精霊の守護。魔力をセーブし、精霊の補助があり多くの人間は初めて魔法が使える。来るべき神魔の戦へ向けて平等に魔法が使えるように・・・。」

「精霊の加護がなくても・・・使えるの?」

「契約を行わずに。加護がなく使用する場合は魔力のセーブができず、体内で魔力がバーストし負荷がかかりすぎる。相反する精霊同士はこれを特に起こしやすい」

(アリスは、勘違いしていたのかもしれない・・・)

 精霊魔法は、炎の精霊、フレイアに足りない魔力を補ってもらって、呪召魔語サモンズ・ワードを使うことにより魔法を使う。いわば、人間がAが欲しい。と言えば精霊がAを用意してくれるようなモノ。対価は魔力。その程度と思ったけど・・・。
 今の話を聞くと、それが違うことが分かる。いつの頃からか、魔法は量産型になったのだ。誰でも使いやすいように、イメージしやすいように、見本があって、名前があって、だれでも、使いやすいように。
 つまり、自分のイメージと、発動、維持に必要な魔力の容量。現実的に使えそうなものであれば、魔法は作ることが出来る。そして、捉え方次第だけど、6属性同時発動も不可能ではない。
 ・・・まぁ、そんなことしたら体が持たないと思うけど。

「ふぅーん。・・・それじゃ闇の魔石、光の聖石はどこにあるの?どうして人間には使えないの?」

「人間の魔力には限界がある。黒魔法、聖魔法は発動後に魔力を放出し続ける。人間の魔力では補えきれないであろう。さらに、光の聖石、闇の魔石は人間界に存在しない。光の聖石はエルフの女神が所持している。精製されるのは現在4つ。それが失われれば全て失われる。闇の魔石は人間が作り出した負の感情の結晶」

「魔力を増やす方法は!?」

「限界を迎えた魔力値を増やすことは不可能・・。だが、魔王結晶デモンズタリスマンを使用することにより魔力を一時的に増幅することができる。だが・・・」

「その魔王結晶デモンズタリスマンって、どこにあるの!?」

魔王結晶デモンズタリスマンを所持するのは悪魔神官のみ・・・。悪魔神官は神魔の世界に存在する
 もの。人間が神魔の世界へ行くことは不可能。よって、その入手は不可能と思われる。」

 知れば知るほど、人間界での無力さを痛感する彼女。
 光の聖石も、闇の魔石も手に入れることはできない。
 魔力の増幅アイテムも手に入らない。

「悪魔の中にも、神々の中にも、魔王や一番偉い神様は存在するの?」

「唯一たる創造神も悪魔の中の悪魔。魔王も存在する。太古の昔、魔王はその体を自ら4つに分裂し、神魔の世界、精霊界、龍族の住む世界、妖精の住む世界を一斉に攻撃した。どの世界も、神々は苦戦を強いられた。神々には魔王に対抗すべく力がなかったからだ。魔王は次々に悪魔を作り出し、いつの頃からか、魔王直属の配下。6体の腹心が存在した。ドラゴンの力を得た邪竜王。異世界で炎の精霊フレイアと、汝、アリシア・ウィル・トルヴァニアにより再び活動停止へ追い込まれた悪魔族もその1人。
 他にも、冥王、獣王、天空王、海王、賢王の5体が存在する。」

「アリシア。ごめん、そろそろ時間みたいだ。外の世界では陽が昇っている。そららを助けるのには時間がなくなるよ。」

 魔王の腹心を聞いたところで、シルウィアからのストップがかかる。
 球体の上に座る?とアリシアをジッと見つめている。

「まって、最後!最後に聖魔法と、黒魔法について、できるだけ詳しく教えて!」

「黒魔法は悪魔の力を使う魔法。人の恐怖を。怒りを。嫉妬を。魔王の力を源にする破壊の魔法。クラーケンに海王の魔法は無意味。クラーケンは海王の従者。悪魔にも属性があり、この通りに反することはかなわない。聖魔法は神の力。時を戻し、時には記憶も変えることも可能。良いようにも、悪いようにも。その記憶は塗り替えられる。神は世界を自由に移動できる力を持つ。大神だけがもつ特別な魔法も存在する。そして時空魔法。その発動方法は神のみぞ知る。アリシア、汝が呼ばれたように・・・。」

「時空魔法?呼ばれた?・・・ねぇ、もう少しだけ動いて!」

 アリシアへの語りかけが途切れると、球体は光を放たなくなった。
 その様子を見て、必死に語りかける彼女。
 部屋全体が、蜃気楼のように揺らめいている。
 星の隙間にいる違う時間を進む彼女の姿も揺らめき、めまいが彼女を襲う。

「アリシア・・・ごめんね、限界だ。そららに何かあったらマッシュに怒られるからね。彼と実体のない僕らはいつも会うことができるからね。こんなことがバレたら怒られちゃう。絶対にそららを助けてね。それに、僕のことも・・・たまには呼んでよ。輝石さえあれば、歓迎するよ」

 シルウィアが笑いかけると、球体と一緒に消えてしまった。
 文字通り、影も形もなく。
 残されたのは空っぽの空間のみ。星の瞬きも、幻のように消えている。
 遠くの方で天井が崩落している音がする。その音はドンドン近づいている。この場所も長くはないだろう。
 気になることがたくさんで仕方ないが、彼女はそららを助けるべく、天井へ手を伸ばし、口を開いた。
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