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EXTRA 短編集

EXTRA そららの憂鬱な一日 前編

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いつものように、うちは裏庭にあるガーデニングのお手入れをしていたの。
ガーデニング、といえば聞こえがいいけど、実際のところは菜園。
ハーブやお花は害虫を寄せ付けないための飾り程度。
でも、うちのご主人様、エルドロール様は私の髪と同じこの紫色の花を好きだ。と言ってくれてうちも好きになった。

それから、毎年必ず種を植えるようにしているわ。
菜園にはお姉ちゃんやアリシアもくるけど、これは誰も知らないうちとご主人さまの秘密・・・。

(今日は、静かね)

うちは毎日の日課である菜園のお手入れ中。
きらは表の木々の剪定、表の片付け。
アリシアは各お部屋のお手入れ、掃除をお願いしている。
きららと二人でやっている時よりもかなり賑やかで、少し負担が減るのはいいことなんだけど。
たまに賑やか、の度を超すことがある。

(まぁ、静かなのはいいことだわ。エル様がいらしたころはこんなものだったし・・・。今がおかしいのよ。そう、今がうるさすぎ)

うちはこの菜園の手入れを基本的に誰かに任せたくはない。
なぜかって?うち以外の2人がやると、雑草と食材を見境なしに抜いてしまうから。
アリシアに至っては虫がついていたって理由でもう少しで収穫できそうだったトマトをちぎって投げていた。

・・・うちが楽しみにしてたのに。

それから、水やり程度はお願いするけどお手入れは任せることをやめた。
他にも、2人には困ったものだわ。
きららはこないだ植木切りすぎて変な形にしちゃうし、
アリシアは虫が嫌いなのはわかるけどしょっちゅう―

『イギャアァァァア!!』

急に、お屋敷にアリシアの悲鳴が響く、うちは驚いて作業をやめて声がした方向のお部屋を見てみると・・・

「また・・・」


そこには暖炉の廃熱口から勢いよく吹き出る炎。
アリシアは虫が嫌い。
暖炉の中には蜘蛛が巣を張ってしまうことがたびたびある。
それに驚いたアリシアはたまに魔力を暴走させて今回のように虫もろとも焼き払ってしまうのだ。
火事になるからやめなさいっ!と何度も注意しているけど、なかなか治らない。
うちは作業を一回やめて声の聞こえた部屋の方へ急いだ。

「アリシア、魔法を使うのはダメだってそらにも言われたでしょ?」

「だって、虫嫌いなんだもん」

うちが部屋に入るよりさきに、きららがアリシアの様子を見に来たようだった。
うちは二人の会話が聞こえたから息を殺し、廊下で二人のやり取りを聞いてみることにした。

「ねぇね、怒るかな」

一応、うちの事気にしてるんだ。
でも、危ないからそりゃ怒りますとも!

「きっと怒るね!アリシア、お家なくなっちゃったら困るでしょ?」

「うん。」

「だから、怒るの。嫌なことがあっても、ちょっとくらい苦手でもすぐに魔法で解決はダメ。一回落ち着い
てから、私やそらをよんでね?」

「わかった。気をつけてみる」

声だけしかわからないけど、アリシアも反省しているようだった。
うちがビックリしたのは、いつも頼りないきららがあんなお姉ちゃんっぽくて、ちょっとびっくり。

(二人のやり取りを聞いてたら、うちの出番はないかな)

うちはそのままこっそりと2人から離れることにした。
あまり怒ってばかりだと可哀想だしね。


裏庭に戻ったあとは、簡単に片づけを済ませるとお風呂場へ向かった。
きららとアリシアの作業スピードではまだまだ外の片づけが終わっていないと思うし。
エル様がいない今、この広いお風呂もうちら3人の遊び場みたいになってしまった。

「意外と、すみっこよりも出入りしている入り口の方の水垢の方が頑固なのよね・・・」

うちはお風呂の掃除が好き。
お部屋の掃除も嫌いではないのだけれど、お風呂の掃除って目に見えて綺麗になるし、心なしか雰囲気もきれいに見える。
水場のお掃除は大切なのよ。

「そら!もういたの?」

きららが表の片づけを終わらせて戻ってくる。
うちの予想よりもだいぶ早いんだけど・・・。

「お姉ちゃん、もう終わったの?」

「うん、大丈夫!きれいにしといたよ!」

(ほんとかな・・・)

こないだも掃除の後見に行ったらやり残しはあるわ、花壇への水やりは適当だわ、トドメには集めた枯れ葉や枝をそのまま置いてアリシアに焚火しよう!って持ち掛けたこともあったわね・・・。
あとで心配だから見に行こう。

「くぅ~!!」

うちは起き上がって腰を伸ばして背伸びをする。
なかなか姿勢がきつくて。

「あ、きららのペットには餌やりしたの?」

「えへへ、実はまだ・・・」

「だから動物飼うのは嫌なのよ。今日はこれから台所行ってくるからついでにうちがあげといてあげる。」

「やったー!ありあとーそらら!」

ホントに感謝してるのかしら。こいつ。

「じゃっ、お風呂の方は後やっといてね?」

「っえ?」

「ぜぇったいに、遊んじゃダメだからね!?」

「はーい」

聞いてるんだか聞いてないんだか適当な返事のきらら。
本当にわかってるのかな。姉にしとくのは頼り無さ過ぎるのよね。

「お・ね・が・い・ね!?」

きつく釘を刺し、うちはお風呂場から出た。けど、少し悩んだ末に一回戻った。

やっぱり気になる。

「早く終わ・・ら・・せ・・て。・・ね?」

「う、うん・・」

扉をあけたうちの目の前にいるのは、気まずそうにお風呂の中に立っているきらら。
きららはお風呂の中で洗剤をたくさん使って泡をいっぱい作っている最中だった。
どこで覚えたのか知らないけど、アリシアとよく泡を作って遊んでいる。
お風呂に泡が浮いているのは確かに面白かったけど、あの2人は遊んでばかりで掃除がいつもすすまない。うちが1人でお風呂掃除を終わらせるのもいつもこの2人が遊ぶから。という理由がある。

「それで、早く終わるの?きらら」

「い、いや。多分。いえ、きっと早く終わる!。かな」

「ふぅ~ん・・・。」

笑ってごまかすきららに対して、イライラが顔からこぼれそう・・・。

「うち、午後は買い物に行くから間に合わなかったらおいてくね?」

「あぁっ!!ずるいよ!私も行くぅ!!」

ニコッと笑ったうちはきららの言葉を聞く前に扉を閉めて足早に調理場に向かった。


調理場では残っている食材の確認を済ませると、どんぶり茶碗に余ったご飯を適当に寄せ集めて勝手口から外に出た。
これからきららのペットのご飯。
きららのペット。この間森で拾った小動物。(3章参照)
うちは、動物がそんな嫌いじゃない。どっちかって言えば好き。
でも、あのお姉ちゃんのせいで世話はうちがしないといけない。
最初はあんなに可愛い!なんて言ってるくせに、すぐに飽きちゃう。
だから動物を飼うことは反対。

「ほんとに、子供みたいなお姉ちゃんなんだから。」

うちは屋敷の周りを歩きながらを小動物の行方を探す。
名前がエル、だなんてふざけてるわ。よりにもよってエル様と同じにするなんて・・。
お屋敷の中にいたり、庭にいたり神出鬼没な小動物。
用があるとき探すのも大変だわ。紐でもつければいいのに・・・。

「おぉ~い!どこにいるのぉ?モジャモジャー!」

私は茶碗を片手に庭をウロウロ。
いつもなら、その辺にいるか、匂いを嗅ぎつけて走ってくるのに・・・。

「ねぇね、呼んだ?」

2階の窓から顔を出す銀色頭。
べつに、アリシアを呼んだんじゃないのよ。しかもモジャモジャじゃないでしょ、あんた。

「呼んでなーい。今あの小動物を探してるんだけど・・・」

「小動物?あぁ、エル。・・・さっきまでいたよぉ!走って出て行ったけどぉ!?」

「じゃーいいから、早く片付けちゃいなさいよ!」

はいはい、って感じで窓から顔を引っ込めて消えていく。

(どこに行ったのかしら?)

うちはそのまま庭を一周したあと、再び勝手口から調理場に戻ることにした。

「あうぅ?」

「ちょ、あんたなにしてんのよ!」

調理場には、夜ご飯に使おうと思っていた食材を置いておいたのに・・・、そこには既にほぼ食べ終わった小動物の姿。

「あんたのご飯はこれでしょっ!!」

「あうぅ」

うちの作った特製あり合わせ丼の匂いを嗅ぐなり顔を背けてそのまま歩きさっていく小動物。

(あ、あんなやつに残された・・。)

小動物ごときにご飯を残され、プライドがズタズタのうちに追い打ちをかけるように次なる刺客が襲いかかる。

「そらぁ。やっと終わったよぉ。大きいお風呂はお掃除が大変だよねぇ」

「・・・」

こいつ・・・。なんてのんきな。

「ん?どったの?」

・・・ペットの責任は飼い主の責任よね?

ドンッ!!

「えっ?なに?」

いきなりわけのわからないモノが目の前に現れて困惑するきらら。私はそんなのお構いなしで、手にしていた特製あり合わせ丼をきららの前に叩きつけるように置くと、

「食べてね?お・ね・え・ちゃ・ん!!。ふんっ!!」

腹の虫がおさまらない私は調理場のドアを勢いよく閉めると、そのまま馬車の用意へと向かった。

(・・・飼い主のしつけがいけないのよ。飼い主の。小動物のくせにっ!!)
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