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第3章 宮廷に潜む闇

12-10 宮廷魔導士試験、3日目 ファイナル

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「なに?あれ?」

 アリシアが見上げた空には、青白い魔法陣の向こうからこの世界を破壊尽くさんと言わんばかりの怪獣が迫っていた。
 まるで蛇のようにその大きな体をくねらせながら門の向こうで暴れている。

「獣王リヴァイアサン。精霊界の海にいる王様ってとこかな」

「海蛇・・・」

「いや、そんな単純なものでも・・・」

「勝てるの?」

「まぁ、召喚した人間次第。かな。でも、あの様子なら勝てるだろうね」

 フレイアが視線をアメリアへ落とすと、そこには静かに抜け殻になったような。ただ立っているだけが精一杯の様子の彼女。

「どうしちゃったの?アメリア」

「わからないけど、さっき光ってた手の黒いのが怪しいと思うんだ」

 アリシアは左手に光る黒い輝石を見たことを思い出していた。

「耐えて!アリシア!!コイツで最後だ!」

 フレイアが叫ぶと、上空の魔法陣が弾け大地に巨大な蛇が落ちてくる。

「おっきぃ・・・」

 見上げてしまうその体。
 ドラゴンのような鱗で覆われた大きな体。
 鋭い爪。
 目つきが悪い。
 それがアリシアの第一印象だった。

「アリシア!一気に行くよ!!」

「うんっ!炎風咆ヴァルス・ウォム!!」

 アリシアの手から燃え盛る炎がリヴァイアサンへと向かうも、リヴァイアサンは詠唱も何もなしにそれを打ち消す魔法を放つ。
 2つの魔法がぶつかり合って、爆発と水蒸気が充満する。

「僕、・・・湿気嫌いなんだよね」

「今そんなこと言ってらんないっ!火炎矢フレアランス!!」

 アリシアは両手を前に出すと数十本の燃え盛る鎗を生み出す。

「青き獣よ!!我に続け!」

 アリシアの掛け声で炎の鎗が雨のように降り注ぐ。
 正面からは炎で出来た青き獣がリヴァイアサンを噛み千切ろうと食らいつく。
 炎の鎗はリヴァイアサンの注意をそらすには効果はあったが、ダメージは正直与えていなそうだった。
 炎で出来た獣は善戦するも、リヴァイアサンの尻尾に弾き飛ばされたのを最後に消えてしまった。大したダメージを与えてはいなそうだ。

「獣王リヴァイアサン。やっぱ強いねぇ・・相手は水で相性も最悪だから仕方ないけど・・・。」

 真剣なのか、余裕なのか。見た目がピンクの羊のせいか全くシリアスさがない。
 対してアリシアはすでに立つことも辛く、その場に座り込んでしまう。

「そろそろ・・・ホントにしんどい・・・」

「そうだね。最初からフルパワーでもなかったし。」

 リヴァイアサンは一撃必殺の魔法を放とうとしているのか。口の中が青く光っている。
 場内にも魔力の波動が影響しているのか地鳴りのように音が反響していた。

「あいつ・・・マジだね。ここであれ使う?普通」

「あれ?」

「あいつの必殺技。火龍緋焦撃ドラゴニル・ブレスで防げるかどうか。今のアリシアにそれほどの魔力も残っていないし・・・。」

「魔力がないのは、無効も同じ。最後は気合で勝つ」

 リヴァイアサンの光が強くなる。
 アリシアも魔力を集中し、応戦しようとする。

「君に炎の加護がありますように・・・。」
 彼女は黙って頷く。
 この状況でも、相変わらず微動だにしないアメリアの様子が気になる。

「荒ぶる魂持ちたる炎龍、我が前に立ちはだかる愚か者に焦熱の怒りを!炎龍咆ヴァルス・コア・ビジット!!」

 アリシアから青く燃え盛る炎が獣王リヴァイアサンへ放たれる。
 リヴァイアサンも術者、アメリアの魔力を使いそれに応戦する。

 ゴオォォンン・・・

 2つん青い炎と冷気は対立するお互いの中心あたりでぶつかり合い、熱風と湿気をあたりに撒き散らしている。

「頑張れ!アリシアもう少し!!押しきれ!!」

「やっ・・てる」

 魔法同士のぶつかり合い。
 すべての者が言葉を発することなくその様子を見ていた。

「ぁあぁっ!!」

 アリシアが押されるような形で、少しづつずり下がっている。

「ま、負けちゃう!!」

「い・・やだ。・・・紅き炎にその身を宿し、全てを無に帰す炎の精霊フレイア。我魔力を糧とし、汝の力をここに・・・ここに、開放せよ!!ダブル、炎龍咆ヴァルス・コア・ビジットォ!!」

 アリシアの最後の魔力を使い、左手に生まれたもう1つの青い炎をリヴァイアサンへ放つ。
 2つの炎は混ざり合うとさっきとは比べ物にならない威力を発揮し、リヴァイアサンの放つ冷気を押し戻し、獣王を燃やさんと迫る。

「い・・・・い、っけぇぇぇえ!!」

 彼女の叫びを最後に、闘技場に大爆発がおこるとそこは視界ゼロの霧に覆われた世界となった。



「ふにゃ?・・・」

 私は目を覚ましたアリシアに気が付くと彼女に抱きついた。

「おはようっ!アリシア!」

「う、うん。おはよう。きら」

 そららはまだ近くの椅子で寝ている。
 隣のベッドではアメリアが寝ていた。
 彼女は今何が起きているのか理解できていなかった。

「ここどこ?」

「ここはお城のベッドだよ。トロイアが2人の傷を治して、目が覚めるまでは寝かせといてって」

「傷・・・。」

 寝ぼけて半分眼が開いていない彼女。
 ダルそうにあくびをしながら彼女はしばらくぼーっとして思い出しているようだった。

「あっ!試合は!?」

「試合は終わったよ。今年は優勝者なし。アリシアも、アメリアも最後は気を失ってたから引き分けだっ
 て」

「そっか。勝てなかったか」

「でも、最期あんな大きなやつと戦って、1人で追い返しちゃうんだからすごいよ!そらも喜んでたし。・・・どこか痛いとこある?」

「痛いところ・・・。うんうん。ない。あのあと、どうなったの?」

「あのあと?アリシアは壁にぶつかってグッタリしてたし、アメリアは倒れて動かなかったよ。すぐに救護班が来てここに運ばれてたわ。昨日はフレイアがいてくれて、アメリアのこと診てたけど・・・。」

「アメリアはどうなったの?フレイア??」

「フレイアは魔力限界だから帰るって言ってたけど・・・。回復したらまたひょっこりくるんじゃない?アメリアの方は、けっこう危なかったみたいだよ。指の魔石に精神を乗っ取られ始めてて、最後は自分の生命力を糧にして戦ってたみたいだって。自我が崩壊して、魔石に心を奪われる前に止められたから今は安静にしていればきっと大丈夫だって言ってたわ。」

「魔石・・・指輪の?」

「うん。知ってたの?」

「本人は、魔石じゃないって言ってたのに」

「私も詳しくは知らないけど、後でフレイアに聞いたら?とりあえず、元気なら帰ろう?閉会式も昨日終わったし、フランが後日何かあればお城に呼ばれるからって言ってたし。」

「うん。・・・お腹減った」

「ふふっ、アリシアらしいね。用意してくるから、そのまま寝てて。そらが起きたら話して待ってて。」
 お腹が減っているせいか、少し元気がなく、隣のアメリアを気にしているアリシア。

 閉会式の時、国王様からの激励の言葉。『有望な若き天才魔導師』ですって。また調子に乗らないように黙っておこうかな・・・。
 特に変わった様子もなく、いつもの彼女の姿に安心した私は宮廷薬剤師のトロイアに感謝と帰宅の申請をしに部屋を出た。
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