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第3章 宮廷に潜む闇
10-1 宮廷魔導士試験、初日 お昼の部
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「じゃぁ、行ってくる。頑張ってくるから」
アリシアは、二人の姉に別れを告げてアレクサンダー城の中に入っていった。
城門の入り口には大勢の人間がごっちゃがえしているが、髪飾りと王宮騎士フランがいるおかげか、アリシアはその群衆とは別に設けられた入り口から城内へと進んでいった。
城内にも兵士が等間隔に並んでいて、中庭には大勢の関係者らしき人が集まっている。
騎士のような者、魔道時のような者、王宮関係者から、領主のような伯爵級の面々が揃っている。
「フラン様は、お姉ちゃんたちのなんですか?」
彼女にとって、王宮騎士の地位がある人間と、成り行きでなったとは言え、ただの領主である姉たちとの間に何があるのかはまだ知らなかった。
ただ、いつも当たり前のようにフランが姉たちによくしてくれて、姉たちもそれを当たり前のようにしているし、何かあればフランに相談したりもしてる。屋敷にまで遊びに来る始末。
アリシアは、姉たちとフランが恋仲なのかもしれない・・・。と少し疑っていた。
「なんですか?って、なにがだい?」
2人は人の溢れかえる城内を進み、庭。と表現するには少々大きすぎる広場を過ぎて王宮の入り口を目指す。
「姉たちはいつもフラン様を頼りますし、アリスも、フラン様にはよくしてもらっています。でも、なんでかな?って」
「あぁ。それか」
フランは何かを思い出して少しにやけながら続けた。
「僕は、あの2人の主人、エルドロール伯爵とは血縁者なんだ。小さいころから一緒にいた。だから、なんとなくその延長でね。前の世界ではエルドロール伯爵と4人で食事もした。それこそ、ローラやアークも一緒にいたこともある。この世界に来るとき、僕はエルドロール伯爵から君たちを守るように言われた。もともと僕にしてみたら妹みたいなものだからね。放っておけない。って言うのかな」
フランは王宮の扉を開けるとそのまま中に入る。
「君も、どことなく、きららに似ているところがあるし、知り合ったのは最近だけど、放っておけなくてね。僕からしたら同じ妹みたいなものだよ」
手招きされるがまま、アリシアはフランの後をついていく。
「それだけで、そんな面倒見るのですか?」
「僕の命は本来ここにないかもしれない。この世界の僕はいたかもしれないけど、それは君たちの事も、昔の記憶もすべて失った偽りの僕だ。君たちの事も忘れないでいられるのは伯爵のおかげだ。騎士たるもの、約束を違えることはできない。僕達騎士にとっての誇り。魂なんだ。・・・、僕はあの時空移動の中で彼に忠誠を誓った。自分の命を引き換えにしてすべてを救った彼に僕は背くことはできない。」
笑顔のフランには、どことなく冷たい雰囲気を感じる。
いつもの、優しいフランではなく、どこか冷たい、哀愁とは違う、切なさを持っていた。
「まぁ、この世界が偽物だって言う気はないんだけどね。考え方かな。」
自分の表情に気が付いたフランは誤魔化すように続けて言った。
「なんか、・・・申し訳ございませんでした。」
「別に、気にしないでくれ。僕は、己の無力さが悔しいよ。君のように邪竜王や魔獣に対抗すべき手段がないんだ。僕にしてみれば、君も伯爵同様に、心から尊敬できるよ。それが子供でも、大人でも関係ない。僕はアリシア、君たち3人を本当にすごいと思っている」
「ありがとう・・・ございます」
「だから、今日の事は僕が好きでやっている。そんな気負しないで、いつもの君でいてほしい。ただ、ここは王宮だから態度と言葉には気を付けて。きららたちにも迷惑がかかるかもしれない。何か困れば、僕を呼んでくれ」
「わかりました。」
アリシアたちは階段を上り、2階へと昇る。
王宮の中にはアリシア以外にも部外者は歩いている。兵士、従者たちがアリシアたち部外者を警戒の目で監視しているように感じた。
この状態だと、アリシアにとって、あまり王宮内での自由はないように思われる。
「ここが、君の部屋だ。」
フランが立ち止まり、扉をあけるとベッドとテーブルが置かれている簡易的な客室があった。
「ここに、明日の夜までいるんですか?」
窓際まで行き、アリシアは下を見下ろすとそこにはアレクサンドリアの街並みが広がっている。
城門の前に出来た馬車の列。
色とりどりの屋根に、道路を行き交う馬車。巨大な神樹、トルヴァニアもよく見える。
「基本的に寝泊まりするくらいに思ってもらって構わない。上の階に書庫がある。君の目当てはそれだろ?」
「うん、早く見たい」
扉が閉まること確認すると、慣れない話し方をしたせいか、疲れがでるアリシア。
ベッドに座るとそのまま倒れ込み天井を見上げてゴロゴロとしてしまう。
「今日は魔力の測定を行うだけだから、そのままゆっくりとしてて。扉の前に兵士がいるから、なにかあれ
ば聞いてほしい。また、後で迎えに来るよ」
「アリスは、出歩いちゃまずいの?」
「王宮の中は基本的に僕がいない時に出歩かない方がいい。あと、場外へ行く場合も僕が必要なんだ。他の参加者にはない権利があると同時に、自由が利かないことをわかってくれ。王宮の書庫に入れるんだから、少しだけ我慢してほしい。」
「わかった。」
「それじゃあ、少ししたら迎えに来るから、ここで待っててくれ」
フランは扉を開けるとそのまま出て行ってしまった。
ベッドに横になりながら窓の外を見ていると、毎日自由にしていられるのた時を思い出しながらあくびをする彼女。
やることがないアリシアは、早起きの疲れからかそのまま布団の上で眠りに落ちていった。
「ほら、起きてくれ!アリシア!」
アリシアの身体を揺さぶるフラン。
外に並ぶ受付待ちの人間たちも、無事に場内に入ることができたようで門が閉ざされている。今は、最初の審査が始まってから少し経っていた。
まずは、推薦のない一般参加者から。と言うことで王宮の扉の前では数人の試験官がチェックを始めている。
「おなか・・・へった。」
彼女はゆっくりと目を開けるとお腹をさすりながら大きなあくびをしていた。
「きみ、朝たくさん食べてたよね。」
「成長期だから・・・」
眠い目をこすりながら体を起こし、少しだるそうにボーっとしている。
「と、とにかくもう試験は始まっているから、下に行こう!」
寝起きのアリシアを揺さぶりながら、どうにか目を覚まさせると手を取り、部屋を急ぎ出ていくフラン。
「よくこれから試験だっていうのに昼寝なんてできるな・・。」
呆れた顔でまだ寝ぼけているアリシアを見るも、彼女は眠くてあくびを連発している。
外には、参加者たちが20人づつ1列に並び、試験官がその隣をゆっくりと歩いている。
ここで、参加者がTOP20までに絞られる。
おおよそ、一般参加者の数は数百。
一定の規定値に達したものは一度保留にされるも、より強いものが出れば容赦なく切り捨てられていく。
「こんなに、いるの?」
思わずその光景に驚き、言葉がこぼれる。
「まぁ、募集概要が魔法が使えること。しかないからね。どこからでもくるよ」
アリシアの目に飛び込んできたのは子供から年配までの男女問わず今回応募に来た面々。
合格者8名の狭き門の1席を狙い集まってきたライバルたちだ。
「今日は、魔力の測定だけだから、そんなに怖がらなくても大丈夫。あそこ、見てごらん?」
フランが指さす方向には銀色に煌くローブを羽織り、応募者の周りを歩いている不思議な人間の姿がある。
「あれはなんですか?」
「相手の魔力の質を感じる者。と言えばわかるかな?」
「魔力の質?ですか。」
「そう。センシティブが優れた人間のこと。ぼんやりだけどね、魔力の属性、キャパシティーの大きさなどがわかる。それが研ぎ澄まされた熟練者なら、敵の潜在能力も見破ることができる戦には欠かせない役割なんだよ。」
「精霊以外にも、人間の魔力とか潜在能力がわかる人がいるんですね。」
「そうだね、エルドロール伯爵は、わかるみたいだったけど・・・。そう滅多にはいないよ。」
「あの、光っているローブはなんですか?」
「宮廷魔導士の装備、みたいなものかな。防御魔法の力を練り込んだ特殊な繊維で編み込まれているんだ。防御力が弱いからね。少しでも足しになるように王宮が配給しているんだ。」
「魔力が少ない人は、この後どうなるんですか?」
「これで退場。終わりだよ。」
「けっこう、あっさりしているんですね」
「民を守れる器がないと、宮廷には入れない。民の命を守り、民の暮らしを守るのが僕たちの意味。だから・・・ね。」
アリシアとフランが話している間に、選定はドンドン進んでいき、最後の組に入った。
城門から肩を落とし帰る者の中には抗議する者も当然いたが、王宮はその声に耳を傾けることはなかった。
「普通にしていればいい。なにも、怖がらないで。普通に。僕はここで待ってるから」
フランはそういうとアリシアの背中をポンポンと叩くと、青い髪の男性を指差した。
「あそこに行けばいいのですか?」
「うん、彼が次の試験官だからね。行っておいで」
アリシアは青い髪をした試験官の元へトボトボと歩いていく。
「あ、あのっ」
「きみは、参加者かい?」
頭に輝く髪飾りを見ると、男性は手に持っていた名簿のようなものをペラペラとめくる。
「あ、アリシア・ウィル・トルヴァニアです。王宮騎士フラン様の推薦で参加しました!」
「アリシア、アリシア、アリ・・・。あぁ、これだ。」
男性はアリシアに紙を手渡した。
「あの、これは何ですか?」
「これがあれば、王宮の書庫にも入れるよ。身分を表す紙だから、なくさないように。受付表、と思ってくれればいい。もう少しここで待っていてくれ」
「はい、わかりました。」
男性はそういうとアリシアから少し離れたところへ歩いて行った。
アリシアはその場で受け取った紙を見てみると、中には出身地、推薦人、魔法属性、実績、年齢、名前などの必要項目がいくつか書かれていて、それはおそらくフランが書いたのか、すでにいくつか埋まっていた。アリシアがフランに視線を送ると、彼は変わらずその場に立って彼女の事を見ていた。
再び青い髪の男性を見ると、そこには2人、アリシアと同じく髪飾りを付けた者が同じく名簿を受け取っているのが見える。
黒い髪の少年と、アリシアと同じ銀色の髪の女性。
2人がアリシアに気づくと、アリシアは気まずさか、人見知りかすぐに視線を外してしまうも、相手の2人はおかまいなしにアリシアに近づいてくる。
「きみも、参加者なんだろっ?」
軽い感じで、黒髪の少年がアリシアに声をかけて来る。
黒い髪と黒い瞳、身長はアリシアと同じくらいの少年は右手を差し出す。
「仲良くしような!俺はトキ。よろしく!」
「あ、アリシアです。よろしくお願いします。」
「私は、アメリアよ。よろしく。」
「よろしくお願いします。」
アリシアはトキの右手を握ると、軽く頭を下げた。
アメリアはアリシアの頭を撫でると、見下ろすように笑っていた。
「それでは、こっちへ!」
青い髪の試験官は3人を一般候補生の保留組の元へ連れて行った。
全部で23人。
髪飾りがある参加者はシード権があるらしい。
一般候補生の中にはアルビドの姿も見えるが、アリシアはと目が合ったアルビドはすぐに視線を外してしまう。
ここから先は、3つの試験をクリアした者が勝者となる。
大勢の人間が見守る中、1次試験最後の判定が始まった。
アリシアは、二人の姉に別れを告げてアレクサンダー城の中に入っていった。
城門の入り口には大勢の人間がごっちゃがえしているが、髪飾りと王宮騎士フランがいるおかげか、アリシアはその群衆とは別に設けられた入り口から城内へと進んでいった。
城内にも兵士が等間隔に並んでいて、中庭には大勢の関係者らしき人が集まっている。
騎士のような者、魔道時のような者、王宮関係者から、領主のような伯爵級の面々が揃っている。
「フラン様は、お姉ちゃんたちのなんですか?」
彼女にとって、王宮騎士の地位がある人間と、成り行きでなったとは言え、ただの領主である姉たちとの間に何があるのかはまだ知らなかった。
ただ、いつも当たり前のようにフランが姉たちによくしてくれて、姉たちもそれを当たり前のようにしているし、何かあればフランに相談したりもしてる。屋敷にまで遊びに来る始末。
アリシアは、姉たちとフランが恋仲なのかもしれない・・・。と少し疑っていた。
「なんですか?って、なにがだい?」
2人は人の溢れかえる城内を進み、庭。と表現するには少々大きすぎる広場を過ぎて王宮の入り口を目指す。
「姉たちはいつもフラン様を頼りますし、アリスも、フラン様にはよくしてもらっています。でも、なんでかな?って」
「あぁ。それか」
フランは何かを思い出して少しにやけながら続けた。
「僕は、あの2人の主人、エルドロール伯爵とは血縁者なんだ。小さいころから一緒にいた。だから、なんとなくその延長でね。前の世界ではエルドロール伯爵と4人で食事もした。それこそ、ローラやアークも一緒にいたこともある。この世界に来るとき、僕はエルドロール伯爵から君たちを守るように言われた。もともと僕にしてみたら妹みたいなものだからね。放っておけない。って言うのかな」
フランは王宮の扉を開けるとそのまま中に入る。
「君も、どことなく、きららに似ているところがあるし、知り合ったのは最近だけど、放っておけなくてね。僕からしたら同じ妹みたいなものだよ」
手招きされるがまま、アリシアはフランの後をついていく。
「それだけで、そんな面倒見るのですか?」
「僕の命は本来ここにないかもしれない。この世界の僕はいたかもしれないけど、それは君たちの事も、昔の記憶もすべて失った偽りの僕だ。君たちの事も忘れないでいられるのは伯爵のおかげだ。騎士たるもの、約束を違えることはできない。僕達騎士にとっての誇り。魂なんだ。・・・、僕はあの時空移動の中で彼に忠誠を誓った。自分の命を引き換えにしてすべてを救った彼に僕は背くことはできない。」
笑顔のフランには、どことなく冷たい雰囲気を感じる。
いつもの、優しいフランではなく、どこか冷たい、哀愁とは違う、切なさを持っていた。
「まぁ、この世界が偽物だって言う気はないんだけどね。考え方かな。」
自分の表情に気が付いたフランは誤魔化すように続けて言った。
「なんか、・・・申し訳ございませんでした。」
「別に、気にしないでくれ。僕は、己の無力さが悔しいよ。君のように邪竜王や魔獣に対抗すべき手段がないんだ。僕にしてみれば、君も伯爵同様に、心から尊敬できるよ。それが子供でも、大人でも関係ない。僕はアリシア、君たち3人を本当にすごいと思っている」
「ありがとう・・・ございます」
「だから、今日の事は僕が好きでやっている。そんな気負しないで、いつもの君でいてほしい。ただ、ここは王宮だから態度と言葉には気を付けて。きららたちにも迷惑がかかるかもしれない。何か困れば、僕を呼んでくれ」
「わかりました。」
アリシアたちは階段を上り、2階へと昇る。
王宮の中にはアリシア以外にも部外者は歩いている。兵士、従者たちがアリシアたち部外者を警戒の目で監視しているように感じた。
この状態だと、アリシアにとって、あまり王宮内での自由はないように思われる。
「ここが、君の部屋だ。」
フランが立ち止まり、扉をあけるとベッドとテーブルが置かれている簡易的な客室があった。
「ここに、明日の夜までいるんですか?」
窓際まで行き、アリシアは下を見下ろすとそこにはアレクサンドリアの街並みが広がっている。
城門の前に出来た馬車の列。
色とりどりの屋根に、道路を行き交う馬車。巨大な神樹、トルヴァニアもよく見える。
「基本的に寝泊まりするくらいに思ってもらって構わない。上の階に書庫がある。君の目当てはそれだろ?」
「うん、早く見たい」
扉が閉まること確認すると、慣れない話し方をしたせいか、疲れがでるアリシア。
ベッドに座るとそのまま倒れ込み天井を見上げてゴロゴロとしてしまう。
「今日は魔力の測定を行うだけだから、そのままゆっくりとしてて。扉の前に兵士がいるから、なにかあれ
ば聞いてほしい。また、後で迎えに来るよ」
「アリスは、出歩いちゃまずいの?」
「王宮の中は基本的に僕がいない時に出歩かない方がいい。あと、場外へ行く場合も僕が必要なんだ。他の参加者にはない権利があると同時に、自由が利かないことをわかってくれ。王宮の書庫に入れるんだから、少しだけ我慢してほしい。」
「わかった。」
「それじゃあ、少ししたら迎えに来るから、ここで待っててくれ」
フランは扉を開けるとそのまま出て行ってしまった。
ベッドに横になりながら窓の外を見ていると、毎日自由にしていられるのた時を思い出しながらあくびをする彼女。
やることがないアリシアは、早起きの疲れからかそのまま布団の上で眠りに落ちていった。
「ほら、起きてくれ!アリシア!」
アリシアの身体を揺さぶるフラン。
外に並ぶ受付待ちの人間たちも、無事に場内に入ることができたようで門が閉ざされている。今は、最初の審査が始まってから少し経っていた。
まずは、推薦のない一般参加者から。と言うことで王宮の扉の前では数人の試験官がチェックを始めている。
「おなか・・・へった。」
彼女はゆっくりと目を開けるとお腹をさすりながら大きなあくびをしていた。
「きみ、朝たくさん食べてたよね。」
「成長期だから・・・」
眠い目をこすりながら体を起こし、少しだるそうにボーっとしている。
「と、とにかくもう試験は始まっているから、下に行こう!」
寝起きのアリシアを揺さぶりながら、どうにか目を覚まさせると手を取り、部屋を急ぎ出ていくフラン。
「よくこれから試験だっていうのに昼寝なんてできるな・・。」
呆れた顔でまだ寝ぼけているアリシアを見るも、彼女は眠くてあくびを連発している。
外には、参加者たちが20人づつ1列に並び、試験官がその隣をゆっくりと歩いている。
ここで、参加者がTOP20までに絞られる。
おおよそ、一般参加者の数は数百。
一定の規定値に達したものは一度保留にされるも、より強いものが出れば容赦なく切り捨てられていく。
「こんなに、いるの?」
思わずその光景に驚き、言葉がこぼれる。
「まぁ、募集概要が魔法が使えること。しかないからね。どこからでもくるよ」
アリシアの目に飛び込んできたのは子供から年配までの男女問わず今回応募に来た面々。
合格者8名の狭き門の1席を狙い集まってきたライバルたちだ。
「今日は、魔力の測定だけだから、そんなに怖がらなくても大丈夫。あそこ、見てごらん?」
フランが指さす方向には銀色に煌くローブを羽織り、応募者の周りを歩いている不思議な人間の姿がある。
「あれはなんですか?」
「相手の魔力の質を感じる者。と言えばわかるかな?」
「魔力の質?ですか。」
「そう。センシティブが優れた人間のこと。ぼんやりだけどね、魔力の属性、キャパシティーの大きさなどがわかる。それが研ぎ澄まされた熟練者なら、敵の潜在能力も見破ることができる戦には欠かせない役割なんだよ。」
「精霊以外にも、人間の魔力とか潜在能力がわかる人がいるんですね。」
「そうだね、エルドロール伯爵は、わかるみたいだったけど・・・。そう滅多にはいないよ。」
「あの、光っているローブはなんですか?」
「宮廷魔導士の装備、みたいなものかな。防御魔法の力を練り込んだ特殊な繊維で編み込まれているんだ。防御力が弱いからね。少しでも足しになるように王宮が配給しているんだ。」
「魔力が少ない人は、この後どうなるんですか?」
「これで退場。終わりだよ。」
「けっこう、あっさりしているんですね」
「民を守れる器がないと、宮廷には入れない。民の命を守り、民の暮らしを守るのが僕たちの意味。だから・・・ね。」
アリシアとフランが話している間に、選定はドンドン進んでいき、最後の組に入った。
城門から肩を落とし帰る者の中には抗議する者も当然いたが、王宮はその声に耳を傾けることはなかった。
「普通にしていればいい。なにも、怖がらないで。普通に。僕はここで待ってるから」
フランはそういうとアリシアの背中をポンポンと叩くと、青い髪の男性を指差した。
「あそこに行けばいいのですか?」
「うん、彼が次の試験官だからね。行っておいで」
アリシアは青い髪をした試験官の元へトボトボと歩いていく。
「あ、あのっ」
「きみは、参加者かい?」
頭に輝く髪飾りを見ると、男性は手に持っていた名簿のようなものをペラペラとめくる。
「あ、アリシア・ウィル・トルヴァニアです。王宮騎士フラン様の推薦で参加しました!」
「アリシア、アリシア、アリ・・・。あぁ、これだ。」
男性はアリシアに紙を手渡した。
「あの、これは何ですか?」
「これがあれば、王宮の書庫にも入れるよ。身分を表す紙だから、なくさないように。受付表、と思ってくれればいい。もう少しここで待っていてくれ」
「はい、わかりました。」
男性はそういうとアリシアから少し離れたところへ歩いて行った。
アリシアはその場で受け取った紙を見てみると、中には出身地、推薦人、魔法属性、実績、年齢、名前などの必要項目がいくつか書かれていて、それはおそらくフランが書いたのか、すでにいくつか埋まっていた。アリシアがフランに視線を送ると、彼は変わらずその場に立って彼女の事を見ていた。
再び青い髪の男性を見ると、そこには2人、アリシアと同じく髪飾りを付けた者が同じく名簿を受け取っているのが見える。
黒い髪の少年と、アリシアと同じ銀色の髪の女性。
2人がアリシアに気づくと、アリシアは気まずさか、人見知りかすぐに視線を外してしまうも、相手の2人はおかまいなしにアリシアに近づいてくる。
「きみも、参加者なんだろっ?」
軽い感じで、黒髪の少年がアリシアに声をかけて来る。
黒い髪と黒い瞳、身長はアリシアと同じくらいの少年は右手を差し出す。
「仲良くしような!俺はトキ。よろしく!」
「あ、アリシアです。よろしくお願いします。」
「私は、アメリアよ。よろしく。」
「よろしくお願いします。」
アリシアはトキの右手を握ると、軽く頭を下げた。
アメリアはアリシアの頭を撫でると、見下ろすように笑っていた。
「それでは、こっちへ!」
青い髪の試験官は3人を一般候補生の保留組の元へ連れて行った。
全部で23人。
髪飾りがある参加者はシード権があるらしい。
一般候補生の中にはアルビドの姿も見えるが、アリシアはと目が合ったアルビドはすぐに視線を外してしまう。
ここから先は、3つの試験をクリアした者が勝者となる。
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