異世界3姉妹の日常と冒険物語

き・そ・あ

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第2章 黄昏の悪魔

8-4 蒼月の破壊者

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「今日が最後の戦いだ!今日を逃せばあとがない!死ぬ気でやるぞ!!」
『おおおぉぉぉ!!』
 シルフィーアに船長、ソレードの声が上がると、湧きあがる歓声。でも、あななたちすでに死んでるんだから死ぬ気でって・・・。
 色々突っ込みたいところがあるが今は我慢して心にしまっておく。
 でもこの場合、ソレードたちにも後がないけど、私たちにとっても後がないので本当にどうにかしたいところ。
 でも、あいつは―
「でか・・・」
 そららが口を開けたまま立っている。
 大きな青白い光を放つ月光に照らされ、その巨大な体をさらす悪魔。

『アギャァァァア!!』

「気持ち悪い声!」
 耳に障る甲高い鳴き声が私たちを襲う。
「・・・イカ焼き」
「バカッ!」
 アリシアが悪魔の姿を見て私にだけ聞こえるようにぼそっと呟く。私の右手は無意識に彼女の頭を叩いていた。
 今はそんなジョークを言っている時ではない。
 イカ焼きって、あんた。こんな時に何言ってるのよ。今はそのイカ焼きに殺されるかもしれないのに。
「ソレードさん、あいつですか!?」
「あぁ、間違いない。あいつだ。あいつの足にシルフィーアが捕まり、バラバラにされたんだ。・・・くそっ!」
 生前の記憶を取り戻したのだろうか。ソレードさんがさっきとは少し変わって見えた。覇気があるっていうか、生者臭いというか、人間らしい感じ?
「あんなやつ、どうやって倒せば・・・」
 私たちの前には、海原から姿を現した悪魔、巨大なイカの姿があった。海からニョロニョロと生えるその足、触手のようなものが不気味さ、よりも気持ち悪さを増幅させる。
蒼月の破壊者クラーケン。あいつが悪魔の正体」
「ど、どうにかなるの!?」
 こんな時に頼りの大砲娘、アリシア首を横に振る。
「今のままじゃ無理。どうにか、陸に上げないと。」
「陸に?あんなのを!?」
 私が指さす方向には巨大なイカ・・・。もといクラーケンがその姿を現し、ゆっくりとこちらに近づいていた。
「きたっ!きたよお姉ちゃん!!アリシア!来たっ!!」
「うるさいな!わかってるよ!!」
「どうすればいい!?俺たちに何かできることはないか!?」
 陸に上げないと。
 でも、あんなでかいやつ。どうやって?
「陸に上げれば、どうにかなるの?」
「わからない。でも、クラーケンを海で倒すのは無理。」
 (とにかく、あいつを陸に上げないと勝てない。)
「みんな、聞いて!あいつを陸に上げるの!じゃなきゃ、私たちに勝ち目はないわ!」
「陸って言っても、まさか俺たちのネスタを犠牲にしろっていうのか!?」
「ネスタ以外に、船がつけられて、あいつが来ても人がいないような場所はないの!?海賊なんでしょ!考えてよ!!」
「お姉ちゃん、うちたち、どうすればいいの?」
「私たちはとにかくあのイカを陸に上げないといけないのよ!アリシアが、陸に上げないと無理だって」
「それか、月が消えるか朝日に当てれば消える」
 小声で、ソレード達には聞こえないように言うアリシア。
「夜しかいないってこと?」
「村では、そう聞いた。蒼月の破壊者クラーケンを倒すには海から引き釣り上げないといけない。それか、暁を待て。と言われてる」
 たしか、ソレードさんもさっき朝が来るまで待てって言葉を言っていたわね。
「でも、それって朝が来る前に倒さないとこの人たち、成仏できないんでしょ?」
 そららが行き先を決めている海賊たちをチラッと確認する。
「まぁ、そうなるわね。」
「・・・」
 3人の中に嫌な沈黙があった。
 時間もない、それに倒せるかわからない。彼らの無念を晴らすという重圧プレッシャーがのしかかる。
 でも、朝日が出るまで逃げまわるのは、私たちの選択肢になかった。
 そんなことしたらこの亡者たちに呪われそうだし。
「エルサーナへ続く街道に、やたら広いのっぱらがありまっせ!!そこに行きやしょう!!」
「誰もいないのか!?そこ!!」
「少なくとも、俺たちの時代にはいません!地盤が悪いので人は住みにくいと思いますぜ!」
「どうする?3人とも!?」
「ど、どうするって言われても、ここで相手はできないし、そこに向かいましょう」
「よし、野郎ども!ヘイマスの言うポイントへ迎え!ヘイマス、お前が舵をとれ、海路は任せる!」
 行き先を決めた20代中旬くらいの若い男性はソレードから任され、船頭に立つ。
「ねぇ、この船何か積んでる?」
 アリシアがソレードの裾をつまんで引っ張っていた。
「あぁ?この船か?最後に交易船を襲った時の葡萄酒が入ってる・・・。はずだけどな」
「急いで、それ持ってきて!」
「ちょっと、アリシア。葡萄酒なんて何に使うの?」
 私とソレードの問いかけに彼女はニヤッと笑いながら、
「海に流す」
 と言いながら、早く持ってきて!と捲し立てた。




「こんなもん、何に使うんだ!?」
 ソレードを筆頭に、手の空いている人間は船室、と言うには雑な作りの貨物室から大きな樽に入った葡萄酒を運んでいる。
 さすがに、疲れたのか、息を切らしながらその場に座り込む。
「言った通り。海に流す」
「はぁ!?本気かよ!?」
「どうして、海に流すの?」
 その場の全員が『海に流す』。と言われて驚いている。
 船を軽くしたいのかしら?
「クラーケンは、酒が好物。流せば、アリスたちを追ってくる。うまくいけば、岸ギリギリ近づくかもしれない。」
「そ、そうなの!?」
「伝承があっていれば・・・。」
 少し自信はなさそうに答える彼女。
 でも、今はそのアイデアにここは賭けるしかない!
「やろう!何もしないとネスタに被害が出ちゃう!」
「っくそ!!ヘイマス!」
 ソレードが声を上げると海路を選んでいたヘイマスが慌てて駆け寄ってくる。
「なんすか!かしら!」
「目的のポイントまで、どのくらいだ?」
「おおよそ2マイル!そう遠くはないです!」
 ちっ、と舌打ちするとそのまま彼は階段下の人に向かって声を上げる。
「樽ぅ!何本ある?!」
「あとぉ・・8本!!」
「どうしたの?いきなり?」
「いや、俺は船長だからな。どのくらいの場所へ行って、どのくらいの武器があるのか調べたのよ」
 そう言いながら隣に置いてある大きな樽をペシペシと叩く。
 この場合の武器とは、この酒樽の事だろう。
「どうにかなりそう?」
「船の速度次第だな。少しでも早くいかないとこれじゃあ酒がなくなっちまう」
 クラーケンは何もできない私たちに気付いているのか、気づいていないのかその大きな体を動かしながらゆっくりと動いている。
 おそらく、クラーケンの目標はネスタだろう。
「全速前進!!オール出せ!ヘイマスのポイントまで最短距離で進め!船が壊れても気にするな!これが最後の航海だ!気ぃ入れろやぁあ!!」
 ソレードの号令で船の左右から長いオールが出る。
「お、おかしら!!近づいてきます!やつがっ!!」
 見張り台の男が悲鳴に似た叫びをあげる。
 月光に照らされたその青白い巨体、青く光る2つの丸いギョロっとした目。12本の触手のような足。
 それは確実に私たちに近づいて来ていた。
 それは、肉眼でも青く光る眼が見えるほどに。
「きら、アリス。魔法そんなに使えないからね?」
「えっ?」
 私は近づく巨体に目を奪われていた中、アリシアから聞きたくないセリフを聞いてしまった。気がする。
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