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第2章 黄昏の悪魔
8-3 満月の晩に現れたのは
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「うちたちは、どうすればいいの?」
そららは、当初から『敵は海賊!』と思っていたせいか、海賊が一緒に戦う的な今の流れに驚きを隠せないでいるようだった。
まぁ、倒す敵と思っていた奴と手を組むんだから、当たり前か。
「3人には、ここに巣くう悪魔の討伐をお願いしたいのです。奴がいる限り、我らが故郷、ネスタに平穏は訪れません。」
「悪魔?」
私は悪魔。と言う言葉好きではない。
いや、好きな人間がいるのか微妙だけど、私は嫌い。どうも、あの赤い髪の邪竜王の顔が脳裏をよぎる。
そのたびに嫌な思い出しか思い出されない。
「そうです、この地に古くから伝わる言葉があります。
青き月輝くとき、海に入るべからず。
母なる海が怒りし時、海には悪魔の使いが現れる。
悪魔の使いは破壊を尽くし、海に戻る。
逆らうな。
悪魔の使いはその輝く躯。大きな腕ですべてを飲み込む。
抗うな。
悪魔にかなうすべはない。
小さく隠れ、朝日を待て。
暁の中に、悪魔は消えゆく。
今はどうか知りませんが、俺らの時は皆知っている言葉です。」
私たちが他の乗組員に視線を向けると頷く人間が多い。
そんな話、神父も、売店のおばちゃんもしてなかったけどな。
「悪魔・・・。」
「海から現れる悪魔。」
「アリシア、知ってる?」
首を横に振るアリシア。
私たちはこんな言葉聞いたことがない。どこかで、昔に途絶えてしまったのだろうか。
「あんたたち、どんなやつに殺られたのかわかってるの?」
そんな、そらら、死人にあんたたちって・・・。
しかも死に際を語らせるなんて、かなりえぐい。
「いや、それがなんせいきなりの出来事で。あたりもこんな暗いときですから俺たちもはっきりと見たわけではないんですよ。ただ、青白く光る巨大なものは見かけましたけど。一瞬で海に放り投げだされて船も砕かれてしまったので・・・」
おいおい、そっちもそんな簡単に答えるなんて。
「ねぇ、そら?一応、ソレードさんたちは死んでいるんだから、死人にそんな、『あんたたち』とか、『どうやって死んだの?』ってけっこう傷口えぐらない?」
「あっ!」
そららは口を手で押さえ、ごめん!ってみんなに謝っていた。
けっこう。ドジよね。この子。
答える方も答える方だけど、死んでる時間が長いと死んでるって実感がないのかしら?
「おかしらぁ!!どうしやすか!ここにいますか?もう少し沖に出ますか?」
「ここだと町に被害が出るかもしれねぇ!もう少し沖に出よう。人の気配がないところまで行くんだ!」
『っしゃあぁあい!!』
「帆を張れ!一度沖に出てそれから人気のない場所を探そう!オール出せぇ!お嬢様方の前だ!きばれぇ!」
号令の後、船体から長いオールがたくさんでて来る。私たちが出てきたオールを甲板から見ていると、そのオールは水面を力強くかきだす。水が船が徐々に前進していく。
大きな帆も張られ、船は旋回し沖へ向かい動き出していく。
「お、沖に行くんですか・・・。この船。」
アリシアは心配そうに甲板の端に座り込み、ネスタの町を名残惜しそうに見つめている。
この子、本当に水が嫌いなのね。
「やめとけばよかった・・・」
彼女の瞳には乗り込んだ後悔の涙が浮かんでいた。
泳げない彼女にしてみれば、確かに恐怖以外何物でもない。
「アリシア、泳げないのか?」
ソレードがアリシアに声をかけていた。
「うん。水が怖い」
「水が怖い?なんで?」
「わからない。でも、水は苦しいし、死んじゃう。だから、アリスは水の魔法は使えない。」
「そうなの?」
「うん、術者が精霊の加護を受けられない。だって、水が怖いんだから。」
「怖いとだめなの?」
「受け入れられない。だから、アリスは火の精霊の加護を受けている。火は、いきなり襲ってこない」
「そんなもんかね?俺ら海の男は、水は恵みであり、生きる力だけどな。」
「アリスには、わからない。泳ぐのも苦手・・・。」
「時間があれば、俺が泳ぎ方教えてやるんだけどな」
残念そうにアリシアの頭をなでるソレード。
本当に、優しい人なのだろう。それに、面倒見がいい。
「いい。アリスは水嫌い」
「頑固だな!アリシアは」
アリシアは撫でられてる手を振り払うと海原を眺めていた。
その様子を見て笑いながら戻ってくるソレード。
「ごめんなさい、気を使ってくれて」
「いや、あいつ。俺が生きてた頃の娘によく似てるんだ。落ち込んでるから大丈夫か様子見てきたけど、あの感じなら大丈夫そうだな」
「娘ってことは、結婚してたの?」
「一応、な!」
「奥さんたち、可哀想ね。こんなにいい旦那さんが死んじゃうなんて。」
「おいおい!やめてくれよ!これでも、今は海の守り神気取ってんだ!今の俺らは俺らで満足してるんだよ!」
「そーすね!おかしら、海で若い女の子見てにやけてるからぁ!」
「こないだも、周りから見えないことをいいことに真昼間から見てましたね!」
「へぇ、そうなんだ」
やっぱり、海の男も陸の男も考えは一緒なのか。
この場合の陸の男とは、フランのことだけど。
「お前たち、変なこと言うな!」
私とアリシアの視線を感じ弁解を図ろうとする。が、爆弾は他にも残っていた。
「いーじゃないっすか!今日でメンバー解散の予定なんでしょ!?最後くらい、昔みたいにいきましょう!楽しく、バカやって笑って逝きましょうよ!」
「うちたちまで、最後にならないよね?」
最後、と言う言葉に嫌な顔をしたそららが、私にこっそり耳打ちしてきた。
「だと、思うよ?」
私も少し、不安は残るけど。
この陽気な亡霊たちを見ているといまいちシリアスさに欠けるけど、今はけっこうやばいのよね。これから得体のしれない悪魔退治なんだから。
「あ、そう言えばそっちの紫のお嬢さん!」
「そららよ、そ・ら・ら!覚えなさいよ!」
「まぁまぁ、こないだ頭がお嬢さんのケツ触って逃げてましたよ!」
「あぁ!?」
声を上げる彼女。そりゃ、そんな爆弾落とされたら誰でも怒るでしょ。
「あ、バカお前それは墓場まで持っていけって!」
「墓場まで持っていきましたよ!今は墓場の後なので約束は守ってますって!」
まぁ、確かに。
死んでからもこんなブラックジョークが言えるほどのメンタルって、さすが海賊ね。
聞いていて少し笑ってしまった自分がなんか悔しい。
「それ、いつの話?」
そららだけがその場で1人真面目な顔して怒っている。
「昨日?あっしらは時間の概念があんまりなくて。でも多分こないだ、洞窟であっちの銀色頭おんぶしている時に触られませんでした?」
「あぁ、そら言ってたね。誰か触ったって。」
「ほほぉ。あんた、言い度胸してるじゃない?私の体に触るなんて?」
「いやいや、あれはたまたま足元が滑っただけで。わざとじゃ」
(幽霊も転ぶのかな。)
そんな疑問が浮かんだけど、ここはもう少し見ておきたかったので黙ってみていることにした。
「この剣、幽霊って斬れるかまだ試してないわね。」
鞘からゆっくりと剣を抜き、ソレードに刀身を向ける。
「か、かしらぁ!あれを見てください!でました!でましたよ!!」
「きたか!!」
「こら、まだ話は終わってない!」
そららの伸ばす手があと一歩で追いつかない。
ソレードはフォアマストの中盤くらいに上ると、見張り役から双眼鏡を受け取り前方を確認する。
こういう時も、どの男も逃げ足早いのね。
「なんか、そろそろ本番みたいね。続きは終わってからね。」
船員たちの動きが慌ただしくなってくる
「終わったら殴り飛ばしてやる!」
剣を納め、ジッとソレードのを睨み付けると、そららもアリシアの元へ集まる。
「見える?アリシア」
「まだ見えないけど、何か、いるのかな。」
私たちにはまだ、揺れる海面しか見えない。
「来たぞ!海の悪魔だ!!今日こそこの戦いに決着をつけようぜ!」
『おぉぉぉぉ!!』
まだ、それほど沖には出ていない。今私たちは肉眼でまだネスタの町の灯りが見えるところにいる。
ここで食い止めないと、どのみちネスタの町はこの海域にいる悪魔とやらにやられてしまうだろう。
私たちに何ができるか。
青い月に照らされた水平線の向こう。海面がゆっくりと盛り上がるように動いているのがわかる。
「あれが、悪魔の正体。」
海面が山のように大きく盛り上がり、流れ落ちる海水からその巨体が現れる。
「うちたちが食い止めないと。」
「アリス、沈みたくないから頑張ってよ。みんな」
「うきわ、あればよかったね」
「うん。」
「ウキワ?」
そららだけが『浮輪』を理解できないようだった。
確かに、この世界に浮輪はないだろう。
でも、説明するにも面倒だし、時間がない。
「超レアアイテム。水に永久に浮くことができる」
「なにそれ!」
アリシアがすごく簡単にそららに言った。
まぁ、確かに割れない限り浮けるけど。
私は噴き出して笑ってしまった。この世界じゃ、あんなものもレアアイテムなのね。
「なにそれ!うち知らない!どこにあるの?!」
「わからない。ヘルムの村で伝承が残っていただけ」
(嘘ばっかり。)
私が肘でアリシアを突くと舌を出して笑っていた。
「あんたたち、ほんとに緊張感ないわね。」
「ねぇねのせい。」
「うちなの!?」
私たちがのんびり話しをしていると、ソレードの声が船に響いた!
「なんでもいい!!つ、掴まれー!!」
ドーォン!!
「なっ!なによこれー!!」
次の瞬間、大きな音を立て、船体を大きな波が襲った。
その波は船体を大きく揺らし、転覆するのではないか?って思うほどに激しく揺れていた。
甲板の荷物は固定されていないもののほとんどは流されて行っていまった。
「あ、あぶなかった。ほんとに死ぬかと思った」
アリシアがずぶ濡れの中、本気の怯えた顔でそばにあったでっかい気の棒にしがみついていた。
「大丈夫か!!?」
頭上からソレードの声が聞こえた。
私たちは手を振り合図をする。
それにしても、これは
「海の上だと、私たち不利じゃない?」
ゆっくりと近づくその姿に、私たちはどうすべきか悩む暇もなく一気に戦いの幕が上がった。
そららは、当初から『敵は海賊!』と思っていたせいか、海賊が一緒に戦う的な今の流れに驚きを隠せないでいるようだった。
まぁ、倒す敵と思っていた奴と手を組むんだから、当たり前か。
「3人には、ここに巣くう悪魔の討伐をお願いしたいのです。奴がいる限り、我らが故郷、ネスタに平穏は訪れません。」
「悪魔?」
私は悪魔。と言う言葉好きではない。
いや、好きな人間がいるのか微妙だけど、私は嫌い。どうも、あの赤い髪の邪竜王の顔が脳裏をよぎる。
そのたびに嫌な思い出しか思い出されない。
「そうです、この地に古くから伝わる言葉があります。
青き月輝くとき、海に入るべからず。
母なる海が怒りし時、海には悪魔の使いが現れる。
悪魔の使いは破壊を尽くし、海に戻る。
逆らうな。
悪魔の使いはその輝く躯。大きな腕ですべてを飲み込む。
抗うな。
悪魔にかなうすべはない。
小さく隠れ、朝日を待て。
暁の中に、悪魔は消えゆく。
今はどうか知りませんが、俺らの時は皆知っている言葉です。」
私たちが他の乗組員に視線を向けると頷く人間が多い。
そんな話、神父も、売店のおばちゃんもしてなかったけどな。
「悪魔・・・。」
「海から現れる悪魔。」
「アリシア、知ってる?」
首を横に振るアリシア。
私たちはこんな言葉聞いたことがない。どこかで、昔に途絶えてしまったのだろうか。
「あんたたち、どんなやつに殺られたのかわかってるの?」
そんな、そらら、死人にあんたたちって・・・。
しかも死に際を語らせるなんて、かなりえぐい。
「いや、それがなんせいきなりの出来事で。あたりもこんな暗いときですから俺たちもはっきりと見たわけではないんですよ。ただ、青白く光る巨大なものは見かけましたけど。一瞬で海に放り投げだされて船も砕かれてしまったので・・・」
おいおい、そっちもそんな簡単に答えるなんて。
「ねぇ、そら?一応、ソレードさんたちは死んでいるんだから、死人にそんな、『あんたたち』とか、『どうやって死んだの?』ってけっこう傷口えぐらない?」
「あっ!」
そららは口を手で押さえ、ごめん!ってみんなに謝っていた。
けっこう。ドジよね。この子。
答える方も答える方だけど、死んでる時間が長いと死んでるって実感がないのかしら?
「おかしらぁ!!どうしやすか!ここにいますか?もう少し沖に出ますか?」
「ここだと町に被害が出るかもしれねぇ!もう少し沖に出よう。人の気配がないところまで行くんだ!」
『っしゃあぁあい!!』
「帆を張れ!一度沖に出てそれから人気のない場所を探そう!オール出せぇ!お嬢様方の前だ!きばれぇ!」
号令の後、船体から長いオールがたくさんでて来る。私たちが出てきたオールを甲板から見ていると、そのオールは水面を力強くかきだす。水が船が徐々に前進していく。
大きな帆も張られ、船は旋回し沖へ向かい動き出していく。
「お、沖に行くんですか・・・。この船。」
アリシアは心配そうに甲板の端に座り込み、ネスタの町を名残惜しそうに見つめている。
この子、本当に水が嫌いなのね。
「やめとけばよかった・・・」
彼女の瞳には乗り込んだ後悔の涙が浮かんでいた。
泳げない彼女にしてみれば、確かに恐怖以外何物でもない。
「アリシア、泳げないのか?」
ソレードがアリシアに声をかけていた。
「うん。水が怖い」
「水が怖い?なんで?」
「わからない。でも、水は苦しいし、死んじゃう。だから、アリスは水の魔法は使えない。」
「そうなの?」
「うん、術者が精霊の加護を受けられない。だって、水が怖いんだから。」
「怖いとだめなの?」
「受け入れられない。だから、アリスは火の精霊の加護を受けている。火は、いきなり襲ってこない」
「そんなもんかね?俺ら海の男は、水は恵みであり、生きる力だけどな。」
「アリスには、わからない。泳ぐのも苦手・・・。」
「時間があれば、俺が泳ぎ方教えてやるんだけどな」
残念そうにアリシアの頭をなでるソレード。
本当に、優しい人なのだろう。それに、面倒見がいい。
「いい。アリスは水嫌い」
「頑固だな!アリシアは」
アリシアは撫でられてる手を振り払うと海原を眺めていた。
その様子を見て笑いながら戻ってくるソレード。
「ごめんなさい、気を使ってくれて」
「いや、あいつ。俺が生きてた頃の娘によく似てるんだ。落ち込んでるから大丈夫か様子見てきたけど、あの感じなら大丈夫そうだな」
「娘ってことは、結婚してたの?」
「一応、な!」
「奥さんたち、可哀想ね。こんなにいい旦那さんが死んじゃうなんて。」
「おいおい!やめてくれよ!これでも、今は海の守り神気取ってんだ!今の俺らは俺らで満足してるんだよ!」
「そーすね!おかしら、海で若い女の子見てにやけてるからぁ!」
「こないだも、周りから見えないことをいいことに真昼間から見てましたね!」
「へぇ、そうなんだ」
やっぱり、海の男も陸の男も考えは一緒なのか。
この場合の陸の男とは、フランのことだけど。
「お前たち、変なこと言うな!」
私とアリシアの視線を感じ弁解を図ろうとする。が、爆弾は他にも残っていた。
「いーじゃないっすか!今日でメンバー解散の予定なんでしょ!?最後くらい、昔みたいにいきましょう!楽しく、バカやって笑って逝きましょうよ!」
「うちたちまで、最後にならないよね?」
最後、と言う言葉に嫌な顔をしたそららが、私にこっそり耳打ちしてきた。
「だと、思うよ?」
私も少し、不安は残るけど。
この陽気な亡霊たちを見ているといまいちシリアスさに欠けるけど、今はけっこうやばいのよね。これから得体のしれない悪魔退治なんだから。
「あ、そう言えばそっちの紫のお嬢さん!」
「そららよ、そ・ら・ら!覚えなさいよ!」
「まぁまぁ、こないだ頭がお嬢さんのケツ触って逃げてましたよ!」
「あぁ!?」
声を上げる彼女。そりゃ、そんな爆弾落とされたら誰でも怒るでしょ。
「あ、バカお前それは墓場まで持っていけって!」
「墓場まで持っていきましたよ!今は墓場の後なので約束は守ってますって!」
まぁ、確かに。
死んでからもこんなブラックジョークが言えるほどのメンタルって、さすが海賊ね。
聞いていて少し笑ってしまった自分がなんか悔しい。
「それ、いつの話?」
そららだけがその場で1人真面目な顔して怒っている。
「昨日?あっしらは時間の概念があんまりなくて。でも多分こないだ、洞窟であっちの銀色頭おんぶしている時に触られませんでした?」
「あぁ、そら言ってたね。誰か触ったって。」
「ほほぉ。あんた、言い度胸してるじゃない?私の体に触るなんて?」
「いやいや、あれはたまたま足元が滑っただけで。わざとじゃ」
(幽霊も転ぶのかな。)
そんな疑問が浮かんだけど、ここはもう少し見ておきたかったので黙ってみていることにした。
「この剣、幽霊って斬れるかまだ試してないわね。」
鞘からゆっくりと剣を抜き、ソレードに刀身を向ける。
「か、かしらぁ!あれを見てください!でました!でましたよ!!」
「きたか!!」
「こら、まだ話は終わってない!」
そららの伸ばす手があと一歩で追いつかない。
ソレードはフォアマストの中盤くらいに上ると、見張り役から双眼鏡を受け取り前方を確認する。
こういう時も、どの男も逃げ足早いのね。
「なんか、そろそろ本番みたいね。続きは終わってからね。」
船員たちの動きが慌ただしくなってくる
「終わったら殴り飛ばしてやる!」
剣を納め、ジッとソレードのを睨み付けると、そららもアリシアの元へ集まる。
「見える?アリシア」
「まだ見えないけど、何か、いるのかな。」
私たちにはまだ、揺れる海面しか見えない。
「来たぞ!海の悪魔だ!!今日こそこの戦いに決着をつけようぜ!」
『おぉぉぉぉ!!』
まだ、それほど沖には出ていない。今私たちは肉眼でまだネスタの町の灯りが見えるところにいる。
ここで食い止めないと、どのみちネスタの町はこの海域にいる悪魔とやらにやられてしまうだろう。
私たちに何ができるか。
青い月に照らされた水平線の向こう。海面がゆっくりと盛り上がるように動いているのがわかる。
「あれが、悪魔の正体。」
海面が山のように大きく盛り上がり、流れ落ちる海水からその巨体が現れる。
「うちたちが食い止めないと。」
「アリス、沈みたくないから頑張ってよ。みんな」
「うきわ、あればよかったね」
「うん。」
「ウキワ?」
そららだけが『浮輪』を理解できないようだった。
確かに、この世界に浮輪はないだろう。
でも、説明するにも面倒だし、時間がない。
「超レアアイテム。水に永久に浮くことができる」
「なにそれ!」
アリシアがすごく簡単にそららに言った。
まぁ、確かに割れない限り浮けるけど。
私は噴き出して笑ってしまった。この世界じゃ、あんなものもレアアイテムなのね。
「なにそれ!うち知らない!どこにあるの?!」
「わからない。ヘルムの村で伝承が残っていただけ」
(嘘ばっかり。)
私が肘でアリシアを突くと舌を出して笑っていた。
「あんたたち、ほんとに緊張感ないわね。」
「ねぇねのせい。」
「うちなの!?」
私たちがのんびり話しをしていると、ソレードの声が船に響いた!
「なんでもいい!!つ、掴まれー!!」
ドーォン!!
「なっ!なによこれー!!」
次の瞬間、大きな音を立て、船体を大きな波が襲った。
その波は船体を大きく揺らし、転覆するのではないか?って思うほどに激しく揺れていた。
甲板の荷物は固定されていないもののほとんどは流されて行っていまった。
「あ、あぶなかった。ほんとに死ぬかと思った」
アリシアがずぶ濡れの中、本気の怯えた顔でそばにあったでっかい気の棒にしがみついていた。
「大丈夫か!!?」
頭上からソレードの声が聞こえた。
私たちは手を振り合図をする。
それにしても、これは
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ゆっくりと近づくその姿に、私たちはどうすべきか悩む暇もなく一気に戦いの幕が上がった。
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