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第2章 黄昏の悪魔

7-2 リベンジ!IN・THE・CAVE

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「これ、まずいっしょ」
 剣先でカンカンと洞窟の入り口を叩くそらら。
「さっきの音。すごかった」
「お姉ちゃん、今回は帰ろうよ」
 アリシアも、そららも明らかに尋常じゃないシチュエーションにビビりまくっている。
 入り江に正体不明の大きな船
 光る指輪。今、光は消えちゃったけど。
 いきなりでっかい音を出した変な洞窟。
 なに、この最恐のセット。正直私も怖い。
 でも、なんだか行かないといけないような気がする。
 今行かないと、いけない。
 そんな直感。
 コツ・
 コツ・・
 コツ・・・
「昨日と、同じ音」
 アリシアが呟く。
「やっぱまずいって!うちアンデットとかはまだいいけど、お化けは恐いんよー」
 半ば発狂気味にそららが叫ぶ。
「アリスは、なんか嫌な感じがする。だから、行きたくない」
 洞窟の中を、昨日聞いた何か叩くような音がゆっくりと私たちのそばから、奥の方に進んでいく。
 コツ・・・
 コツ・・・
 例えるなら、ゆっくり、誰かが歩いているような音だった。
「アリシア、お願い!」
 私はそれでも、洞窟に行かなければ行けないような気がして唯一魔法で明るくできるアリシアにお願いする。
「お姉ちゃんがそう言うなら・・・」
 アリシアはすごく嫌そうな顔だった。行きたくないのに、と言葉にしてはいないがすぐにわかる。
 アリシアが指をパチンッと鳴らすと手の平に大きな火の玉が現れる。
 その光は岩場にできた洞窟の中をうっすらと照らし出している。
 潮が満ちているせいか、昨日よりも明らかに足場が悪い。私たち3人はアリシアの灯りを頼りにゆっくりと今日も洞窟を進んだ。


 潮が満ちると、昨日とは洞窟の中が変わった雰囲気だった。
「きれい・・・」
 水が、うっすら黄色く輝いている。
「昨日の地底湖と、輝き方が似てる」
「ここまで地底湖の水かさが増えてるってこと?」
「わからないけど・・・。」
 でも、地底湖はきっと潮の影響で海水に沈んでいるだろう。
 だって、ここから下に降りていくんだから海面よりも下にあることは簡単に想像できた。
「・・・」
 アリシアが立ち止まった。昨日はスタスタ進んでいたのに。
 私たちがアリシアに追いつくと、動かない理由がわかった。
「あ、水か・・・」
 昨日は普通に通れたところでも、海水が邪魔をしてくる。
(これ、昨日帰るとき引き潮じゃなかったら死んでたかも・・・)
 2人は昨日の事を思い出してるかわからないけど、今この事を言ってもここで騒ぎ出すから黙っとこ。
「まってて、うちがみてみるよ」
 そららがゆっくりと中に入る。
「大丈夫、ここは浅いから、うちが先に行くよ」
 そららの腰くらいしか水はなく、ゆっくりとそのまま進んだ。が―
 ボチャッ
「ウヴっ!!」
 一瞬でそららが消えた。
 アリシアがドン引きし、引きつった顔で私の所に戻ってくる。
「プハッ!!」
 海面からひょっこりと顔を出すと、下を見ながらそららは首を横に振った
「ここ、異常に深いわ。抜け道や、先に続く道もないし」
 水から上がってきたそららは上着を絞りながらどうするか聞いてくる。
「道、間違えた?」
 そもそも、昨日と歩いてるとこ違うとか?
「アリス、歩けるとこ歩いただけ。昨日と同じかどうかはわからない」
 まぁ、基本的に洞窟の中なんてほぼ一本道だったし、昨日の事だけど暗いし覚えていない。
「この洞窟、生きてるとか?」
 静かにそららがアリシアの耳元で囁く。
「ひぃぃ!!」
 アリシアが本気で怖がり、私の腰にしがみついてくる。
「ちょっと、そらら!怖がっちゃってるじゃない。生きてるとか、不気味なこと言わないでよ」
「だってぇ。人食い箱の話は聞いたことあるし、実はここは呪われた人食い洞窟・・・。」
「そんなものがあれば王国がどうにかしてるでしょ!!フランもそんなこと言ってなかったし」
「まぁね。あんなの、絵本の中だけの話だと思うけど」
 洞窟にそららの笑い声が響く。
 その笑い声すら今は不気味な感じがする。
 コツ・・
 コツ・
 こんな時に、またあの音が近くで聞こえる。
「アリシア?大丈夫?」
 明らかに様子がおかしい。小刻みに震えて、両手を胸の前で合わせ、何かを包むような仕草をしている。
「ここ、生きてるですか?アリス、食べられちゃうですか?」
「大丈夫よ、あそこにいる牛お化けのイタズラだから」
「ちょ、だれが牛お化けよ!?」
「殺られる前に、殺る。ですよね」
「な、なにが?」
「アリス、消化される前にこの洞窟お化け。壊さないと・・・」
 アリシアの両手がうっすらと輝く。そ、それはその手ですか!!
 明らかに何かを撃とうとしている。肩を叩いたり、名前呼んだり、いろいろやってみる。
「こりゃ、聞こえてないね。」
「あんたのせいでしょ!どうにかしないと!!」
 ワナワナ震えながらパニックになるアリシア。
 私もどうしようかパニックになりそうなくらいな時、頭の上かな?前の方からなのか、何かの鳴き声と羽ばたく音が聞こえた瞬間、そららの声が響いた。
「ま、またきたー!!」
 声と同時にコウモリが上から飛んでくるのが見える。私とそららはすぐにしゃがみ込むが、アリシアが立ったまま動かない。
「あ、アリ・・シ・ア。」
 呼ぶころにはコウモリはアリシアの顔面にぶつかったり、そばをバサバサと飛び回り、昨日と同じように出口の方に飛んで行った。
 コウモリからしたら、アリシアに『殺られる前に、殺る』を実践した感じだろう。
 アリシアはそのまま気を失って倒れた。
「ちょっと!!アリシア!あんたが倒れたら―」
 そららが言うよりも早く、炎はみるみる小さくなり、その姿を完全に消してしまった。
「火が消えるのに。」
 力なくそららが発する言葉が虚しく響く。
「真っ暗。」
 私は手探りでアリシアのそばまで行くと、とりあえず抱き起こす。
「そららが怖がらせるから!」
「いや、こんな怖がるとは」
 あはは、と笑いながら手探りでこっちまで戻ってくる。
「こんな強いけど、まだ私たちよりちっちゃいんだから」
「ごめんなさい。」
「目が覚めたら謝ってね!?」
「はーい」
 ほんとに、すぐに調子に乗るんだから。
 夜の洞窟の中は、やっぱ暗い。でも、少しづつ目が慣れてくるとアリシアの灯りに頼らなくとも意外と明るいことがわかる。
「すごい・・・」
「水が、光ってる」
 入り口よりも地底湖に近づいたせいか、黄色い発光が強くなる。
 アリシアの灯りで気にならなかったけど、炎がなくなったら水はうっすらと発光し洞窟は幻想的な光に包まれる。
「どうするの?」
「どうするって、私はあそこに行きたい」
 私が指をさすのはコウモリが飛んできたところ。
 深くなる水たまりのまっすぐ先にある穴。
 もし、満潮で水がなければあんなところの穴に気が付かないだろう。
 昨日のコウモリもあそこから来たのかもしれない。
 穴の中に水はないので、少し奥に行っただけでもかなり暗い。
「けっこう、暗いよ?」
 そららが本気で嫌そうな顔で言う。
 アリシアは起きそうにない。
 でも、今行かないと潮が引いてしまう。そうすれば入れなくなっちゃう。
「行く!」
 私は立ち上がり、ゆっくりと光る水に入る。
「そらは、どうする?」
「こんなところに置いて行かれても困るし。うちもいくよ。」
 アリシアを背負ってそららもついてくる。
 この深い水を超え、その先にある穴の奥には何があるのか、気になる。


「お姉ちゃんって、変なところ頑固だよね?」
「そう?」
「そうだよ。今だって、うちらは反対したのに」
 暗い道を手探りで進む私たち。さっきの水たまりの光が随分奥に見える。
「なんだろう、上手く言えないけど。行かないといけない気がしたのよ。」
 真っ暗な道の先を見据えながら、私は答えた。
「ほんとに、へんなの。」
 コツ・
 コツ・
 コツ・
 近くで、また何かをたたく音がした。
「この音、さっきから何なのかしら。私たちについてくるみたい」
「お願いだから、足場が崩れてうちたち生き埋めにならないでね」
 そららが祈るように手を合わせている。
 洞窟が崩れるような音ではないと思うんだけどな。
 コツ・・
 コツ・・・
 コツ・・・・
 音は少しづつ、私たちの前に進んでいく。
 それは、誰かが後ろからついてきて、追い越していくような感じだった。
「うひゃっ!!」
 後ろでそらが変な叫び声をあげる。
「ちょっと!変な声出さないでよ!」
 なにかモジモジしているような感じで、こそばゆそうにしている。
「だ、だって、誰かがうちのお尻触ったんだもん・・・」
「そんなわけないじゃん!」
「だぁってぇ!!確かに何かが触ったように感じたんだもぉん!!」
「おんぶしてるアリシアの足じゃないの?」
「そんなこと、ないと思うんだけどなぁ。・・・」
 納得できなそうなそららはブツブツ言いながら後からついてくる。
「っあ!」
「なに?」
 私のはるか前方に明かりが見える。
 黄色い、地底湖と同じ色の光。
 ただ、それは地底湖の光よりも強く、ハッキリとした色だった。


 光の正体は、クリスタルだった。
 暗い通路を抜けると、開けた場所があり、鍾乳石のように天井から地面に向かって大きな氷柱のような形をしたクリスタルが、黄色い光を発している。
「でっかい」
 そららがアリシアを地面に置いて巨大なクリスタルを見上げる。
 部屋自体はそこまで広くないが、天井までは数メートル程。そのクリスタルの大きさは見上げるほどあった。近くに小さなクリスタルがいくつか散らばっている。
「こんなところに、こんなお宝があるなんて」
 そららがクリスタルに触る。
「冷たい・・・」
 クリスタルを覗くそららと目が合う。光の屈折で反射した彼女の顔が見えるのかな。
「アリシア、起きて。目を開けて」
 私はアリシアを揺さぶってみる。
 が、特に変化がなく、起きそうにない。
(ダメか・・・。)
 私は立ち上がり、そららの方へ向かう。
「アリシアは?」
「ムリ、起きなかったわ」
 私もクリスタルに触る。
「ホントだ。・・・冷たい。」
 私は巨大なクリスタルの冷たさに心地よさを覚えて、手をつけていた。
「・・・」
「どうしたの?お姉ちゃん」
 私は誰かに見られている感じがした。
 そらら、は目の前にいるし
 アリシア。は、まだ寝てる。
 洞窟の中には私たちしかいない
「誰か、いる?」
「ちょっと、変なこと言わないでよ」
 そららが冗談でしょ?って顔で笑いかける。でも、誰かの視線を感じる・・・
 私は部屋を見渡してみる。
 そこには、いるはずのない人物がいた。
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